第2夜 女神の手招き

『ときめき』の数で、女の一生の『価値』は決まる。何となく、そう思って生きてきた。

女として生まれてきたからには、この世にあるすべての種類の『ときめき』を心の底から

味わってみたい。そうして人生が煌めいていくことに、この上なく幸せを感じるのだ。


『ときめき』は多ければいいというわけでもなく、質やタイミングも大事。そして、その

『ときめき』を、どれだけたくさん与えてくれるのかで、男の価値は決まる。少なくとも

私にとっては・・。


彼は、不思議な人だった。どんな人なのか、知りあって半年たった今でも、正直、まだ、

よくわからない。よくわからない・・けど、初めて会ったとき、泣いていた私に差し出し

てくれた彼のハンカチが、あまりにもシワシワで、目を丸くした私に気がついて、慌てて

その皺の入ったハンカチを両手で懸命に引き延ばしている姿をみたとき「あぁ、この人。

不器用だけど、素敵だわ」って、すぐに心がときめいたの。私の『ときめきセンサー』は

バカみたいに感度が良くて、すぐに誤作動を起こして、自滅するけれど・・。それでも、

この人との恋は特別なものになる。そんな予感がしたわ。


明日は、初めて二人で、ちょっと遠くの海まで、デート。

あの人は、私の手を握ってくれるかしら?

やっぱり、初めて手が触れるのなら、彼の思惑にときめいてみたい。


「彼は、どんな風に

私の手をとるのだろう・・」


そんな想像をするだけで、身体の奥に静かな情熱が、ほの青く灯る。

この間、偉い先生が、青い炎は、その色に反して、轟々と荒々しい赤い炎よりも熱が高い

と言った。まさに! どんなに激しい今までの恋よりも、この静かな恋が、一番、熱い。

あぁ、春がくる。春がくる。


押し入れにしまい込んでいた一輪挿しを引っ張り出してきて、そこに彼との『恋の花』を

想う。静かな青い炎に浮かぶ、真っ赤なスイートピー。そのコントラストが強ければ強い

ほど、何故にこんなにも、心を惹かれていくのだろう・・。


ハンドケアもネイルケアも、準備は、ばっちり。

きっかけを与えるのは、レディの『たしなみ』。「こっちよ」って、女神が優しく手を招くように、彼のリードを、リードすることが、明日の私にもできるかしら・・。




( for 赤いスイートピー/松田聖子)


Chiika🌺

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昭和歌謡劇場 ~ もうひとつの物語 ~ 糀ちいか @chiika

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