昭和歌謡劇場 ~ もうひとつの物語 ~
糀ちいか
第1夜 勝手だと、わかっているけれど・・
私が『夕日』を見ると泣きたくなるのは、
毎朝、当たり前のように昇ってくる朝日と
この夕日とが、全く同じものだとは、
思えないからだ。
『太陽は、毎日、死んでいる』
その悲しみを知っている人が、
私の周りにはいなかった。
そう、彼を除いては・・。
出会いは、軟派な出会い方で、
決して美しくなんてなかったけれど、
私たちが理解し合うのに、
たくさんの時間は必要なかった。
たった一度、抱き合って、
深く、深く、身体の内側を感じ合えば、
心の内側だって、自然と流れ込んでくる。
そう感じることができた。
そして、彼の悲しみが
私の身体の奥深くに住みついて、
そこに芽生えた感情を
『愛』だと勘違いした。
そう、私は、彼に『恋』をしたのだ。
随分と長い年月、一緒にいたけれど、
想い出といえる想い出なんて、何もない。
ただ、彼の部屋の窓に立ち、
いつも二人でならんで、沈んでいく夕日と
昇ってくる朝日をみていた。
彼はいつも『バーボン』を飲んでいて、
その頃の私にとって
『バーボン』というお酒は
小説や歌の中の主人公が飲む、
特別なものだと思っていたから、
それを実際に、
しかもお家で飲む人がいるのだと、
彼と出会って初めて知った。
今となっては、
なんて幼かったのだろうと、
自分自身の見識の低さに
呆れてしまうけれど、
それでも、その、私の中にある
『純粋さ』みたいなものが、
生き疲れた彼の心を救い、
そのことによって、結果的に私も、
『救われた』のだと思う。
彼は、いつも愛を誤魔化して、
ふざけていたけれど、
本当はとても繊細な人なの。
私は知っている。
知っている、けれど・・。
知っているからこそ、私の夢を、
あの人に背負わせることなどできなかった。
本当のことを話したら、あの人は
父親になる夢を見ようとしたことでしょう。
あの人の今ある夢の全てを諦めて、
私と『子供』のために生きることを
選択するに違いない。
だから・・だから朝日がのぼる前に
「さようなら」
あなたは、あなたの夢を生きて。
あなたの音楽は、
たくさんの人をハッピーにできる。
そう信じているから。
歌って、 これからも みんなのために・・。
( for 勝手にしやがれ/沢田研二 )
Chiika🌺
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