第4話 訓練初日

「起きなさい」


「ん……?だ……れ?」


「お前はいつもねぼすけなのか?

こんなやつが聞いていた新人とは思えないな……」


ぼやける目を擦って体を起こす。


「やっと起きたか、早く朝食をとれ、と言ってももう昼食だな」


「いや、誰?」


目の前にいるのは見知らぬ女の子。

成瀬よりは年上だろうか?

赤い髪にバンダナをしている。


「私を知らんとは……はぁ、全く……

ユウは何を教えたんだ?」


「特になにも……」


ただ連れてこられただけ……

嘘は言ってない。


「まぁいい、早く起きて腹を満たせ、訓練が始まるぞ」


そう言って女の子は部屋から出ていった。


「ん?」


何か足りない気がする。

さっきの女の子に何かが……


「ま、いっか」


成瀬は適当に服をつまんで着替える。

朝はいつもどれがアホ毛かわからないくらい髪がボサボサだ。

しっかりと整えて部屋を出る。


食堂に入るとさっきの女の子がユウと話していた。


「あ、おはようございます、成瀬さん」


やはり執事のような格好……嫌いではない。


「やっと来たか、食事は置いてある、食え」


「えっと……あなたは誰ですか?」


「さっきから誰?ってうるさいヤツだ、

ユウ、教えてやれ」


「はい、成瀬さん、彼女は僕の姉さんです、ユイと言います」


「ほー、よ、よろしくお願いします」


成瀬は頭を下げる。


「で?」


「は?」


「で、ユウ、その続きは?」


「続きとはなんでしょう?」


この笑顔、ユウは分かってるくせに……


「肩書きを自分から言うのは恥ずかしいだろ!言ってくれ……」


「えー、それくらい自分で仰っては?」


「そ、それは……」


ユイは目を泳がせてあわあわしている。


「いつもは口が悪いくせにそういう所が弱いんだよ、姉さんは」


「ぐっ!……は、ハグ……するから」


「ん?聞こえないなぁ」


煽ってやがる、自分の姉を煽ってやがる。


「は、ハグするから!ユウが言って!」


さっきまで目つきは鋭いし口は悪いし……

怖そうな感じだったがどうやらそうではないらしい……


「ふふ、わかったよ、姉さん」


ユウは成瀬の方に向き直して話す。


「姉さんは副団長なんだ、だからそれなりに強いよ」


「そう、私は強いほうだ。

強いと聞いていた新人がこんなやつだとは心外だな……」


「さっきまでの女々しさはどこへ……」


「う、うるさい!とにかく食事をとったら訓練所に来い!」


そう言い残してユイは去った。


「……なんだろう、この感覚は」


「どうかしましたか?」


「お姉さんから何かが抜けてる」


「何かですか……」


「まぁ、いまは早く行かないと」


「そうですね、姉さんは時間に厳しい方ですからね」


成瀬はさっさと食事をかき込んで訓練所に行く。もちろんユウも一緒だ。


「よし、来たな、では訓練を始めよう」


「私も見てるからがんばれよ」


ユイの隣にいたのは入団テストの試験監督さんだ。


「あ、どうせ君は私を試験監督さんとかよんでいるだろうから名前を教えておくよ」


「ぜ、全部見透かされていた!?」


「ミラノさんは相手の能力を知ることが出来る能力を持っているのです、それにアホ毛がある相手ならアホ毛を通じて思考回路まで分かってしまいます」


「な、めんどくさそう……」


「まぁ、私だってそれなりに苦労してるんだ」


「まぁ、僕はドレインのおかげで心は読まれませんが……」


「ズルい……」


「もー、そんな目で見つめないでください

照れちゃいますよ?」


「キモい……」


「はい、茶番はそこまでだ。

さっさと訓練始めるぞ、ミラノ、頼む」


「了解」


ミラノはそう言うとアホ毛から光の線を伸ばして成瀬の手、足、アホ毛に繋ぐ。


「こ、これは?」


「ミラノの能力で正確な能力値を測る、

全力で戦ってみろ」


「全力って言われても……」


成瀬はまだ能力の使い方がよくわかっていない。


「今の全力でいい、やってみろ」


「……わかりました」


「武器錬成は出来るか?」


「いや、まだです」


「なら、自分の武器を想像しろ、それをアホ毛に集中させて形にするんだ」


成瀬は言われた通りに力を込める。

力が登る感覚が掴める。


「あと少しだ」


と、力が外側に溢れ出す感覚とともに目の前に片手剣が現れた。


「これが……私の剣?」


金の持ち手は光沢を帯びていて星の装飾が施されている。

刃もきらりと輝いてよく切れそうだ。

だが―――――――、


「なんか違う……」


「そ、そうか……まぁ、お前の想像力が足りなかったという事だな」


「ふふふ、姉さんに想像力ないって言われたら終わりですよ」


「うるさい!ユウは黙っていろ!」


ユイは呆れたようにため息をつく。


「まずはそれで私を攻撃してみろ」


「え!いいんですか?」


「あぁ、危ない時は……どうにかする」


あまりにも心配な返答だったが仕方なく剣を構える。


「では、初め!」


ミラノの合図で訓練が始まった。

成瀬は剣を持つ。だが、ユイは素手だ。


「えい!」


成瀬は無理矢理に剣を振り回す。

だが、戦いの心得などない成瀬の剣はユイには当たらない。

スレスレで全てかわされてしまう。


「ただ振るのではない!敵の行動を予測し、妨害しながらスキをつけ!」


「なら、こうだ!」


行動パターンに変化をつけることで敵の動きを一定のものにしない。つまり、剣に注意を向けさせてこちらのスキを見せない。


「飲み込みが早いな」


「スキを突く!」


「だが、まだ甘い!」


渾身の一撃もヒラリとかわされてしまう。


「ハァ、ハァ、疲れました」


「うーん、体力も必要だな」


成瀬はヘトヘトだが、ユイは息さえ荒れていない。


「では、次は技を使ってみろ」


「ハァ、ハァ、わ、わかりました」


「あ、姉さん、成瀬くんは疲れてるよ?」


「いや、いいんだ、これくらいがいい……」


成瀬は拳を握りしめて力を込める。


「いきます!」


「来い!」


アホ毛をユイに向けて力を集中する。

力が頂点に達したら……


「前に力を飛ばす!」


前にやったことを思い出して体ごと前のめりになる。その瞬間……


ドゴォーン!


体に伝わる衝撃と同時に、前よりも強いビームが発射される。


「お?なかなかいい技だ!」


ビームは一瞬でユイの鼻先に触れる。


ドカァーン!


その大爆発にユイが巻き込まれてしまう。

ものすごい爆風が成瀬の体を後退させる。


「だ、大丈夫ですか!?」


風がやんで、成瀬は急いで駆け寄る。


「確かに強いな……」


だが、ユイは怪我ひとつしていなかった。


「だが、私を仰け反らせるほどじゃない」


ユイの周りは爆発で地面がえぐられているのにユイのたっている場所だけは無事だ。


「な、なんて強さ……」


「いっただろ?私は強い方だって」


「こ、これが強いアホ毛族の力……」


「そうだ、お前も私たちを目指して毎日訓練するんだ、今日は終わりだ」


ユイの声で訓練はお開き。

成瀬は部屋に戻ってベッドに寝転ぶ。


「強さ……か」


今まで感じたことのない力、そして強さ。

でも、その上がたくさんいる。

向こうでは味わえない感情を素直に喜べない成瀬だった。


「成瀬くん、入ってもいいですか?」


「いいよ」


と、入ってきたのはユウだ。


「なに?」


「姉さんが明日は討伐に行くから早寝しろと……」


「討伐!?」


「はい、小型のモンスターを倒しに行くと」


「も、モンスター……」


あまりに現実離れした言葉に頭の処理が追いつかない。


「小型なら技も剣も練習できるそうです」


それなら簡単ということだろうか?


「わかった、早く寝ますよ」


「起きれないと叩き起されますよ?」


「分かったから!はい、じゃぁね!」


長居するユウを追い出してまた寝転がる。

そのまま夢の中に精神が溶けていくのを感じる。いつの間にか眠ってしまった。

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アホ毛には不思議な力があるって知ってた? プル・メープル @PURUMEPURU

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