カルテ⑤桃源郷
びゅうびゅうと生暖かい風をかき分けかき分け、湖面を「哨戒ユニット」は進んだ。たぬきプレハブのおコタツにあたったみーこ、ダン参謀、その向かい側のおやっさん、は相変わらず談笑している。ぷっちが社長イスに座って、勉強机の上のハンドルコントローラーでプレハブを操縦している。ぷっちは右手前に光る空中の画面を指でポンポン操作すると、女性らしい声で、
「コール中です」
とアナウンスがプレハブに響いた。プラチナラクーン号のコクピットで空中に画面が現れ、プレハブを操縦しているぷっちたぬきの顔が現れた。プラチナは画面をポンとタッチすると、プレハブとコクピットでテレビ通話がつながった。
「寒いだろ、プラチナ、こっち乗れよ」
ぷっちが呼びかけると、
「おお、今行こうと思った」
とプラチナは答えた。プラチナはそのままコクピットから身を乗り出してたぬきプレハブの縁側の手すりに手をかけて、ぴょこんと飛び降りた。縁側からドアを開けると、凄まじい風がプレハブに吹き込んだ。
「うひょおおおおおおお!はよ閉めいプラチナ!」
「ひゃああああああああ、寒いわあ」
おやっさんとみーこが叫んだ。バタンと締めると、空中に飛んでしまったルーズリーフやらちり紙がひらひらと床に落ちた。
「へへへ、失礼しましたっと」
そう言ってプラチナはおコタツのみーこの向かい側ににあたった。プレハブから洩れる明かりが、湖面を照らし、遠くになった砦の明かりを尻目に、幻想的に暗闇を通過していった。
「ねえねえ、ところで、どこか行先があるの?まっすぐどこかに向かっているみたいね」
みーこが誰にともなく聞くと、
「いいところに気が付いたな、ぷっちよ、やっぱりあそこに向かっているんじゃろ?」
おやっさんが言った。ダン参謀はプラチナの方を向きながら、
「ははは、楽しみだよな」
と言った。みーこはいぶかしそう。ぷっちは、
「あのおふたり、元気かなあ?」
と言ったので、みーこは口を尖らせて、
「わたしだけ知らないの?仲間外れだわ!」
と憤慨した。そこへぷっちの席の左手の空中に画面が現れ、けたたましい呼び出し音が鳴った。
「わっ!…また厄介だなあ」
ぷっちが社長イスから転げ落ちんばかりに驚いてそう言うと、
「あー、出ないわけにもいかないわよね」
とみーこが笑い出した。
近未来SF精神保健福祉施設伝説〜たぬきの砦 土屋タヌキ乃丞ポン太郎 @petit-tanuki
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