section.2
「あなたがミーク? ………聞いていた外見と少し違う」
俺が名乗ると、ナナリア・アルティは少し首を傾げた後、顔が触れ合いそうな距離まで駆け寄ってくる。
そして、なぜか俺の顔をじっと見られているわけだが、初めて会う人間にそんなに見られるとなんだが気恥ずかしくなってしまう。
「お、おい。そんなに見なくても俺はミーク・ユークナテスだ」
俺がそう言うと、ナナリアはやっと距離を取ってくれた。そして、少し複雑そうな顔をする。
「……そう。じゃあ、あなたが私の運命を変えてくれるのね? 」
……運命? ナナリアはいったい何を言っているんだ?
そういえば、どうしてナナリアは俺を助けようとしてくれているのだろうか……。
「運命を変える? 君は何を……」
「貴様! この屋敷の侍女を殺したのはお前か? 」
俺が質問しかけた時、屋敷の方から大きな声が飛んできた。
見てみるとそこには、俺とナナリアが倒した以外に屋敷にいた兵がおそらく全員剣を抜いていた。
「ミーク様! その女は危険です! そいつはおそらく侍女を殺しました。さあ、早くこちらに」
なるほど、俺があの女を殺したのにも関わらず、目の前の兵たちはナナリアがやったことだと思っているわけか……。
「……ナナリア。俺に合わせてくれ」
俺はそれだけを伝えると行動を開始する。
まず、近くに転がっていた兵の死体から先ほどまで使っていたやつよりはいくらかマシな剣を手に取った。そして、その剣先をナナリアへと向ける。
「貴様が俺の屋敷の侍女を殺したのか? もしそれが本当であれば、その罪は万死に値する。よって今ここで俺、ミーク・ユークナテスが貴様を切る!」
俺はナナリアに向けて、本気ではないが演技に見られないくらいの強さと速さで剣を振る。
対してナナリアは、手につけている金属? のようなもので俺の攻撃を止めると、目にも止まらない速さで俺の身体を吹き飛ばした。
「うわぁぁぁぁぁ!! 」
俺は悲鳴をあげながら、兵たちの中心に落ちる。
「ミーク様! おのれ、貴様……、みんな! あの女を殺すぞ!」
俺の演技に引っかかった兵たちは、雄たけびをあげながら、ナナリアへ攻撃を開始した。
目の前の敵に集中していれば、当然背後ががら空きになる。
「ミーク様、お怪我はありませんか? 安心してください、私たちが––––」
話しかけてくれた兵の喉を持っていた剣で突き刺すと、俺はまだ仲間が絶命したことに気づいていない兵たちを背後から攻撃し、一気に3人も殺すことに成功した。
「る、ミーク様!? どうしてあなたが……」
「うるさいなぁ……、俺はこの屋敷を出たいだけだ。それにさ、あんた俺に気を取られすぎてもう1人の敵を忘れてないか? 」
次の瞬間、ナナリアの強烈なパンチによって、最後の兵の首が吹き飛び、裏門における戦闘が終了した。
正直、ナナリアの戦いっぷりには驚きを隠せなかったが……。
「お疲れ様、ありがとなナナリア!」
俺はナナリアの側に移動するが、ナナリアの顔は何かを警戒するように引き締まったままだ。
「どうしたんだナナリア? もう俺たちを邪魔する敵は……」
そう言いかけた次の瞬間、
「……天を穿て、光の力を結集し、我の聖なる拳は今、全てを破壊する」
ナナリアは何かを唱え始め、同時に両手につけている金属のようなものが輝きを放ち始める。
「な、ナナリア!? 」
「……ミーク、どこからか敵の攻撃がくる。さっきの奴らとは格が違うからあなたは下がっていて」
ナナリアの顔は真剣だった。出会ってからあまり感情を読み取ることは出来なかったが、それでも今のナナリアは焦っている。
一体どこから、一体何を感じ取っているのか、俺にはわからない。だけど、ここまで来てナナリア1人に戦わせるわけには……。
「……来た。聖なる拳を今ここで解放する、
そう叫んだ次の瞬間、ナナリアは姿を消し、目の前でとても強い衝撃波が発生した。
それも一回だけではない。強すぎる衝撃波は何度も何度も発生し続け、それが止んだと思った時、目の前に傷ついたナナリアが降ってきた。
「あらあら、ユークナテスの坊やじゃない。こんなところで何をしてるの? 」
そして、少し離れた場所に新たな敵が姿を現していた。
俺はそいつの名前を知っている。その功績から何度もユークナテスの屋敷に招かれている、若き騎士。
「カリエス・バリアドアか……。今一体何をしたんだ? 」
「そうね、坊やには見えなかったのかもしれないけれど–––––」
男なのにも関わらず、少し女口調のカリエスはすぐに目の前で起こったことを話し始めた。
「今、私の持っているこの剣の
古代兵器……、聞いたことがある。この世界には特別な力が宿る武器が存在しているということを。
つまり、ナナリアが両手につけていたのは古代兵器で、カリエスが騎士と言われる由来となった剣の古代兵器に負けたというわけか……。
「そうか、説明ありがとう。騎士カリエス、お前は何でここにいるんだ? 」
「もうそんなに怒らなくてもいいじゃないの、坊や。私はフローレン家のお嬢さまたちの護衛としてやって来たら、こんな騒ぎになっていたのよ」
……そうか。俺は1つ大きな間違いをしてしまった。
フローレン家というのは、大都市ユークナテスで最も力のある貴族だ。当然のことからもしれないが、ユークナテス家とも縁がある。
そして、フローレン家には2人の女の後継がいて、毎日のように遊びに来ているのだ。
いつもは普通の兵が護衛について来るのだが、まさか今日に限ってカリエスとはな……。
「……ということは、アリスとセリアが今来てるってことだよな? 」
普通ならここで諦めてもいいのだが、今回だけは譲れないものがある。
「そうね、あの2人とも久々に遊んであげたかったけど、とりあえずはこの子を自治局に引き渡さないといけないし……」
……やはりか。自治局とは主に街を護る仕事をしていて、犯罪者などを牢屋で監視するのも仕事の1つだ。
そんなところに連れて行かれたら、ナナリアは一生牢屋生活を余儀なくされてしまう。なぜならもう十数人の命を奪ってしまったことになるのだから。
「カリエス、とりあえずうちの檻にぶち込んでおけば良いんじゃないのか? アリスとセリアと俺が1人で遊ぶのは正直きつい。あと、服も着替えたりしないといけないし……」
ユークナテス家の地下にも牢屋が存在する。それは、数十年前に使われていて、今ではもう使われていないものだ。しかし、ナナリアを助けるにはこっちに入れてもらった方が効率がいい。
「……そうね、この子を自治局に連れて行くのはあの2人と遊んでからでいいわね」
カリエスはそういうとナナリアを担ぎ上げ、どこかへ行ってしまった。カリエスが地下へと行っている数分の間に俺にはやらなければいけないことがある。
ナナリア、俺を助けてくれた君を必ず助ける。
そう決意して、俺は屋敷の中へと戻る。そして、すぐさま接客室へと向かい、その扉を勢いよく開ける。
「きゃあぁぁぁ! だ、誰よ! 」
「お、おにぃ様!? どうしたんですか、そんなに血まみれで……」
そこには目的の人物である2人が確かにいた。
「昨日ぶりだな、アリスとセリア。急だけど、2人にお願いがある! 俺を助けてくれ!」
俺の言葉に反応してか、それとも着ている血まみれの服に気づいたからなのか、2人はすぐに俺の元へと来てくれた。
ラスト・ソード・ジャッジメント 漆黒のアキト @ganmann
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ラスト・ソード・ジャッジメントの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます