ボーイミーツガール3


ぐるぐると僕の洗濯物が回っている様子を見ていると心が少しずつ落ち着いていくのがわかる。

今日は美容室の予約日だが、夜まで時間があるので溜まった洗濯物の処理をしていた。

僕はまだ洗濯物を買っていないのでこうして定期的にコインランドリーを訪れている。

しかしながら、この光景を通りがかって見た人は犯罪者だと思い通報するかもしれない。

そう考えていたところに隣から声をかけられた。

「お前さん、ちょっと」

それはもう派手な衣服を身にまとったおばあちゃんだった。しかし、僕はなんだか綺麗だと感じた。

と考えている場合ではない確実に勘違いをされている。犯罪者には流石になりたくない。


「あ、これ僕の洗濯物なんですが回っているのも見ていると落ち着いて、、決して変な理由ではないです!」


「何を焦っとるの、分かっているよ。ちょっと隣に座らせて欲しいだけよ。」

そう言って優しい笑みを浮かべながら僕の横にこじんまりと座った。


そういえば東京の街を歩いていて思うことがあるのだが、僕は若者よりもおばあちゃん達の方が面白くもない言い方をすれば、だなと感じる。

身に纏う色合いがとても綺麗で、よくいるごちゃごちゃとした若者達のそれとは格が違う。

なんでなんだろう?

そう思っているとおばあちゃんが悟ったように話しかけてきた。

「どうしたの、何かききたいことでもあるのかい?」

「え?ど、どうしてわかったんですか。まさかエスパーですか?」咄嗟にそう聞き返してから、なんと馬鹿馬鹿しい言葉を吐いたのだろうと直ぐに恥ずかしくなった。


「エスパーじゃあないよ。貴方みたいに分かりやすい表情をしている人もそういないわよ。」

そう言ってけたけたと笑っている。


表情に出やすい?何を言っているんだろうと思いながら僕は自然とおばあちゃんに質問していた。

「あの、おばあちゃんくらいの歳の方達ってとても色味の強い服をきてはりますよね?でも若者のそれとは違う何かがあるな、なんでなんだろうって不思議に感じてしまって。」


おばあちゃんは少し考えながら、また優しい笑みを浮かべながら口を開いてくれた。

「自論になっちゃうんだけどね、私達の世代は戦争を経験しているのね。その当時の日本はそれはもう貧しかったり、ほら戦争中でしょ?そのせいもあって、服も見すぼらしい地味な色なものばかり着ていたの。だから戦争が終わって、沢山の人達が命を落としていったことは悲しいことだけど、それでも自由が生まれた。ってことは嬉しいことだったの。

だからかね、そういう経験をしてきた私達のが出てるのかもしれないね。」


月並みな言葉をだが、僕は感動していた。

戦争という重い出来事を経験してその時に失ったものを今も追いかけ、求めて体現しているんだと感じた。きっとそこにはたら、ればや後悔の念などというものはないんだろう。そうも感じた。

「あの、ありがとうございます。」

何も意識もせずにこの言葉がでた。


「なんだい、お礼されることなどあったかね。洗濯物終わったみたいだね。よっこらせっと。腰が最近痛くてねえ。」

そう言いながらおばあちゃんは、立ち上がり洗濯物を袋に詰め始めた。


「あ、そうだ私もしかしたらエスパーかもね。貴方色々悩みあるんでしょ。まあ、でももし選択した道が間違いでもそれが貴方の為になるよ。行動した結果ならね。若いんだしゃんと胸張って生きな。じゃあね。」そう言ってゆっくりと歩いていった。


「え、あ、あの!」


「耳が遠くてねえ、聞こえないねえ。」

僕の話はもう聞いてもらえないようで、おばあちゃんは店を出て視界から消えていった。


「なんだったんだろう。エスパー…は冗談だよな。」


ここまで美容室へ行くことをまるで生死をかけた戦いかの様に感じている僕は馬鹿なんだと思う。

ましてや、美容師の女性を可愛いと思ったことに始まるという馬鹿の中の馬鹿だ。

ただ、それでも東京に来てまだそんなに経ってないが自分が少しずつ変わっている気がしていた。


いつか、後悔ばかりする生き方を終わらせられるだろうか。そんなことを思いながらまた僕は回っている洗濯物を見つめていた。







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