ひとでなしの臭気

有機物や無機物といった香り、におい、臭気。
主人公である香織は人並みはずれた嗅覚をもっている。
その嗅覚はついにはこの世ならぬ臭気を捉えてしまうのであるが……。

稠密な筆致で描かれる工場の描写においてどんどんと香織が追い詰められていくさまがじつに恐ろしい。とある出来事をきっかけに彼女の嗅覚が完全覚醒してからの狂気への疾走感がたまらない。

王様を気取る、いけ好かない上司に工場の皆が不満を抱いており、でも抜け出せない日常、閉塞感。
においをまとわないが故に香織が好意をいだく青年。

神話的カタストロフが一気に爆発するラストシーンは圧巻である。
正統派クトゥルーの一篇、とても堪能できました。