仮面の下 10

「私から助言はこれくらいにしておこうか。後は自分で気づくことを信じよう」


 ノートパソコンを閉じた神谷さんは、チェアから腰を上げると、鞄を持って部屋を出た。


 なんとかなる、なんて確かに軽々しかったかもしれない。


 毎年その試験で何人もの生徒たちが転科を余儀なくされている。


 高く、厚い壁だ。


 俺なんて自分の人生がかかった大事な一試験となる。


 軽率な発言だったな。


 とりあえず今日の課題を済ませてしまおう。


 今日は特に気合を入れて見るぞ。


 俺は鞄からノートを取り出すと、様々なアーティスト達のプロモーションビデオを見て研究する。


 自分なりにいい点や悪い点など探し出して乱雑に記していく。


 そこでいくつかの点に気付いた。どのプロモにも共通しているのはしっかりターゲット層が絞られていることだ。


 『輝石学園生』を例に挙げてみる。


 ある動画は女性的で可愛らしさを強調している。


 ある動画では男装をして激しい曲調やダンスで素直にかっこいと思えるもの。


 前者は男性視聴者をターゲットにしているようだ。


 女性的な可愛らしさを表現していて、しっかりと男心を掴むものになっていた。


 後者は女性視聴者をターゲットにしているのだろう。


 女性が求めるかっこいい女性像のようなもの演出しようとしているのがわかった。


 素人目であるから、本来そういった狙いではないのかもしれない。


 だが、明らかにターゲットを決めて動画を撮っているように俺には見えた。


 これは今後の活動の糧になるかもしれないな。


 と、動画サイトを彷徨っているさなかに、操作ミスでお気に入りに登録されていた、SNSのサイトを開いてしまう。


 神谷さんのアカウントが表示されている。


 これはまずいな。


 俺は慌てて消そうとするが、画面の左中央部にある『トレンドワード』という項目が目に入った。


 そこの一覧に『星宮茉莉奈』の文字を発見する。


 なんであいつの名前がこんなところに。


 俺は反射的にそれをクリックする。


 一瞬画面が真っ白になると、すぐにページが表示された。


 色んな人間のアカウントが縦に並び、星宮の画像や可愛いなどといったコメントが並んでいた。


 こうして俺が閲覧している今もなお、どんどんと増えていっている。


 これはどういうことだろうか。


 俺は必死でなぜこうなったのかを探すために、誰が発信元なのか調べ上げる。


 そして、一人の人物のアカウントを見つけ出した。


「あいつ……」


 田中のやつ、結構やるじゃないか。


 田中太郎のアカウントをSNSを見つけた。そこには今日の昼頃から星宮についての発言を連発していた。


 星宮の画像や可愛さについてなどが熱く綴られている。


 詳しく調べてみると、田中はどうやらアイドルについての記事を書いているブロガーと呼ばれるものらしい。


 しかもその筋ではかなり有名人らしく発信力はあるようだった。


 そういえば自分は有名なブログを運営している、と田中が話していたような気がしたな。


 あれは本当だったのか。


 この勢いで星宮茉莉奈について拡散してけば、ナイトレイといい勝負が出来るかもしれない。

 ネットというのは、なにかを発信したい、ってときにはこんなにも有用なのか。


 これは少しだけ焦りが出てきたな。俺や袖浦も早く手を打たなければ。


 とりあえず今は勉強や情報収集だ。

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輝石学園マネージャー科! 雲ノ峰 希 @kumonomine86

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