第3話

 ガタンガタン……

電車の揺れる音。線路沿いのボロアパートに住んでいれば毎時間は聞く羽目になるであろう音、この不躾な音に私は覚醒を促された。一時間ほど眠っていたらしい。頬をなでると、何やらガタガタとした跡がついていることに気がついた。左に手にはめている腕時計のベルトを顔に押し付けて寝ていたようだ。数年前に父親に誕生日祝いとしてもらったものであり、出かける時には必ず腕に巻いている。

 「そうだ、親父だ。」

 寝ぼけている己をたたき起こすように、私は勢いよく頭を上げた。目の前の座席に、ヒトが座っていた。確かに存在していることだけがわかり、そして辛うじてヒトであることを判断できるソレは、私に語りかける。

 「ワタシが何なのかわかったかい?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

白昼夢 左川 久太郎 @sakawa8888

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る