第272話 最終話 おーし、それじゃあそろそろ行くぞー

 俺と藍、唯は4月から社会人1年生だ。

 たしかに三人共に社会人1年生だが、藍だけは既に4年前から殆ど社会人同然だ。

 なにしろ藍は大学へ進学して早々に地元テレビ局から教授経由でスカウトされて、1年生の時から絶大な人気を誇る大学生リポーターとして話題を独占した。大学の入学式の様子を取材に来た番組スタッフの一人が去年の『高校生クイズキング選手権』予選会担当のスタッフで、「2年連続で同じ学校の同じ男子チームに負けてしまった可哀想な女の子三人組」の一人が入学式にいる事に気付いたのだ。そのスタッフから情報を得た大学の大先輩にあたるディレクターが藍を『高校生クイズキング選手権』の各地の予選会で大学生リポーターの形で使ったところ、その美貌と抜群のスタイル、クールな笑みでいきなり人気が沸騰してしまった。これに味を占めて他番組でも藍を使うようになり、さらには藍の人気に目を付けた他のテレビ局も藍を使うようになって、大学3年生の時から地元テレビ5局で争奪戦が繰り広げられたくらいだ。

 結局、HoTBが藍を破格の条件で獲得することに成功し、去年の夏から人気深夜番組「おむすびあたためますか」に準レギュラーで出演するようになった。正式入社した4月以降は肩書が『HoTB新人アナウンサー』に昇格し、とうとう7月からは牛一家の一員としてレギュラー出演するようになった。さらに夏以降は局アナとしてもお茶の間の人気を集め、今や新人でありながら局の顔として色々な番組に引っ張りだこだ。


 それに対して唯は藍とは逆に平穏な道に進んだ。教師になる道を選び高崎先生と同じ札幌教育大学へ進み、今年の4月からは篠原の母校の中学校に赴任し、3年生の担任として生徒たちに数学を教えている。


 6年前、「人生いろいろゲーム」をしている時に小さい頃になりたかった夢を語り合った時の逆の道、つまり藍の夢を唯が、唯の夢を藍が実現させた事になった。


 唯は藍の義妹である事を公にはしてない。それは藍も同じだ。でも、ネットでは以前から「美人姉妹」として書き込みされているから、分かるのも時間の問題だろう。


 俺はというと、普通のサラリーマンになる道を選んだ。数学が出来る、漢字が出来るとは言っても、それだけで飯が食える訳ではないというのが分かっていたから地道に就職活動をして、結果だけを言うと父さんのライバル会社に就職した。親のコネで入社したと言われるのが嫌だったから、最初から父さんの会社を受けなかった。父さんはというと、現在は子会社の専務をやっているが再来年で定年を迎える。


 今、我が家に暮らしているのは6人だ。父さん、母さん、藍、唯、俺、それとあと1人・・・。

 今日はに出る為に、休日だというのにきょうだい全員が珍しく家に揃っている。

「唯、まだなの?早くしなさい!」

「ちょっとー、いくら何でもお姉さんが早すぎるんじゃあないの?」

「時間通りやろうとしても時として思わぬアクシデントに見舞われる時があるから、常に先を見越して行動しないと駄目!それでも教師ですか?」

「はー・・・ここだけは昔と変わってないのねー」

「拓真君を見習いなさい、もう既に準備万端で唯を待ってるんだからさあ、少しはお兄さんを見習うべきです!」

「だってー、お姉ちゃんがぜーんぶやってくれてるんだから、暇で暇で仕方ないっていう顔でコーヒー飲んでるよー」

「えー、だからー、わたしの方が年下なんだから『お姉ちゃん』って言わないで下さいよー」

「『お兄ちゃん』の嫁さんなんだから『お姉ちゃん』に決まってるでしょ?」

「勘弁して下さいよお。藍姉さんもお願いだから何か言ってよお」

「二人とも、その言い合いをしてるのは何回目、いや、何百回目ですか?いい加減にしなさい!」

「「はあい・・・」」

「ったくー、だいたい、拓真君が二人を甘やかすからこうなるんです。特に唯は社会人なんですから甘やかさないで下さい!」

「勘弁してくれよお。まるで俺が悪者みたいになってるけど、俺だって好きでコーヒー飲んでるんじゃあないんだからさあ」

「正直に言っていいなら私も拓真君にガツンと言わせて欲しいわ。私なんか今朝の始発便でロケ先の九州から帰ってきたばかりでコーヒーすら飲んでないのに、帰ってからずうっとテレビ見ながらボーッとしてるのは腹が立ちます!しかも他局の某国営放送ですよね、いい加減にしてください!」

「そんなあー、俺だって好きで見てるんじゃあないぞ」

「だいたい、ただでさえまともな休日がもらえないくらいにあちこち飛び回っているのに、今日だってタダ働きで披露宴の司会をやるんですから少しくらい同情してくれたっていいと思いませんか?」

「そんなのは俺のせいじゃあないぞ。だいたい、自分から篠原と真姫さんの結婚披露パーティの司会役を売り込んでおいて、そのセリフはないだろ?」

「うっ・・・」

「しかもさあ、ちゃっかりレストラン側と交渉して自分の番組で店を取り上げる事と引き換えに料理の数を増やさせた挙句、番組ディレクターにオネダリして宣伝広告費を使って差し入れまで用意したんだろ?同じ局で働いてる宇津井さんが俺にコッソリ教えてくれたぞ」

「さ、さあ、何の事ですかねえ ♪~(´ε` )」

「さすがお姉さん!『HoTBの女王様』と呼ばれているだけのことはあるわねえ」

「唯!(#^ω^)」

「えー、だってえ、事実でしょ?局の公式HPで紹介されてるよー」

「はーーー・・・ほとんど風評被害よ。私は普通の女子アナで十分だったのに、いつの間にか全国放送でも取り上げられちゃったからロケ先でも『女王様の真似をして下さい』っていう注文連発で辟易へきえきしてるんだからさあ。ネコネコ動画にも勝手に使われて再生回数が信じられないくらいあるんだから、ほとんど名誉棄損よねえ」

「あのー、弁護士の卵として言わせてもらいますけど、自分の番組で『女王様』をアピールしているし、しかも局の公式HPにも『女王様日記』なるものを自分でアップしておいて『名誉棄損』などと言ってるのは、逆に虚偽告訴罪、昔で言うところの『誣告ぶこく罪』と捉えられてもおかしくないし、下手をしたら懲戒ものだと思いますよ」

「はーーー・・・もうのね・・・」

「その代わり局内だけでなく他局の女子アナとも一線を画しているのは事実です。最近はフリーになっても仕事が取れない女子アナが多いんですから、新人のうちから他の女子アナよりも優位に立ってるのと同じですよ。藍姉さんは既に知名度だけで言ったら全国クラスです」

「そうよそうよ、それにきょうだいで一番の稼ぎ頭なんだから我慢しなさいよー。唯なんか教師1年目でいきなり3年生の担任になったから毎日毎日ヒーヒー言ってるんだからさあ」

「ゆーいー、あんたも教師なんだから、いつまでも自分の事を『唯』って言うのはやめなさいよー。学校では「先生」とか「私」って言ってるんでしょ?」

「うっ・・・すみません、つい癖で」

「しかも生徒からは『ヴィーナスの化身』とまで呼ばれてるんでしょ?女王様より女神様の方が上なんだからしっかりしなさい!」

「えー!あれは生徒が勝手につけたんだから唯の責任じゃあないよ」

「また『唯』って言ってるし。はーー・・・山口先生のようにメリハリをつけなければ駄目です!」

「山口先生かあ。今頃何をやってるのかなあ」

「そういえば山口先生もすっかり丸くなって親馬鹿になってるみたいだぜ。真姫さんの妹情報として教えてくれたぞ。しかもアラフォーにして4人目をまもなく出産するらしい」

「「「マジですかあ」」」

「ああ。正確には2度目の出産で2度目の双子だから、ほとんど奇跡に近い確率だぞ」

「へえ。双子の旦那さんと双子の女の子に続いて次も双子かあ。男の子だったらバランス良くなると思うけど、どっちを産んだとしてもたしかに奇跡ね」

「そういう拓真君はまだなのかなあ」

「うっ・・・そ、それは」

「そうそう。クイズ同好会で一番最初に所帯を持ったクセに、子作りのやり方を忘れちゃったのかなあ?」

「ちょ、ちょっと待ってくれよお。たしかに俺は大学2年の時からいわゆる事実婚だけど、入籍はしてないんだぜ。それはあちらの両親だって承知してるし、それに大学と大学院を卒業して司法試験に合格するまでは待とうって約束なのは藍も唯も知ってるだろ?それに大学の費用だって三人の父さんが出しているのだから、贅沢だってしてないし入籍も子供もまだ先だ。俺は長田のように朋代ちゃんとデキ婚したのとは違うぞ」

「それとも本当は栄養が足りないのかなあ。高校1年の時から身長もブラジャーのサイズも変わってないのが証拠よねえ」

「そうそう。相変わらず小学生みたいなロリ顔だし、中学とトキコーの体操服が今でも着れるのはある意味奇跡よね」

「はー・・・それだけはお義姉さんたちに反論できないですね。事実だし・・・っていうか身長とブラはともかく、どうして体操服の件を知ってるんですかあ!?」

「あれ?犯人は自分よ」

「そうそう。お姉さんでもないし唯でもないし、ましてやお兄ちゃんやお義父さん、お義母さんでもないよー」

「ちょ、ちょっと待って下さい。わたしが犯人ってどういう意味?」

「あーあ、やっぱり覚えてないんだ。相当酔ってたとしか思えないわよ」

「そうそう。去年の大晦日から今年の元旦に掛けてお姉さんの部屋にお酒やビールを持ち込んで三人で年越しの飲み会をやった時に、こっちが赤面するくらいの、いわゆる夜の話を自分から堂々と暴露してたのにさあ」

「へ?・・・ (・・;) 」

「そうよねー。あーだこーだ言いながら1時間くらいかな?」

「多分、それくらいね。結構愚痴も混じってたし逆に自慢話もあったわね」

「どうせなら録音しておけば良かったかなあ。拓真君が聞いたら『穴があったら入りたい』って言い出したかもね。放送禁止用語連発だもんね」

「そうだよねー。唯だったら口が裂けても言えないわよ。まあ、教師としては当たり前だけど」

「しかもさあ、拓真君をこの場に連れてきて実演してあげるとまで言ってたよねえ。ラブラブなのは結構だけど勘弁して欲しいわ」

「あー、そう言えばそんな事を言ってたわね。さすがに唯もそこまでの度胸はないわよ」

「・・・・・ (^^ゞ 」

「ま、二人共、せいぜい避妊を怠らないことね。やるなとは言わないから」

「そういう事だよ」

「「・・・・・ (;^_^A  」」

「ただねえ、お姉さんの場合は正直栄養過多かもね。自分の名前とブラのサイズが1つしか違わないもんね」

「あ、それはナイショよ。局の公式HPにも書いてない事だからね。でもねえ、今では私の方が女王様としてのネームバリューは完全に上回ったけど、これだけは真姫さんに敵わなかったなあ。ホントに勘弁して欲しいわよ。あー、そういえばもう一人、私を上回るサイズの人がいたわよねえ」

「あ、いたわねえ、高崎先生よね。やむを得ずアンダー65を使ってるからお姉さんの方が上に見えるけど本当のアンダーは60だっていうからまさにロリ巨乳よね。今頃なにをしてるのかなあ」

「あー、高崎先生は今年は篠原の弟のクラスの担任をやってるって聞いたぞ。しかも今でも校内の人気ナンバー1教師の座は不動らしい」

「たしかに私たちの時も凄かったわよね。松浦校長先生が理事会に直談判して半年で正式採用を決めちゃったくらいだったからねえ」

「篠原の妹のクラスの担任は松岡先生だっていうし、これまた何かの縁かもな」

「そうかもね」

「そういう事だから拓真くーん、私の方は栄養過多で困ってるから遠慮しないで使っていいわよー。先日蒔いた種は芽が出なかったから困ってるのよー」

「「「えーーーー!!!!!」」」

「ホントよー」

「たくまー!まさか浮気したとか言わないわよね!!(#^ω^)」

「ひっどーい!折角唯が毎晩のように慰めてあげてるのに!!」

「そっちもどういう意味なの!拓真、納得いく説明をして頂戴!!(#^ω^)」

「勘弁してくれよお、藍も唯も冗談にしては毒が強すぎるぞ」

「あらー、無理に隠さなくてもいいわよー (^_-)-☆」

「そうだよー。事実は事実としてアッサリ認めた方が楽になるわよー (^^)/」 

「ゆーいー、目が笑ってるわよー」

「そう言うお姉さんも完全に女王様キャラが壊れてますよー」

「はーーー・・・そういう事ですかあ・・・藍姉さんも唯姉さんも、その発言は完全にセクハラですよー。ここだからジョークで済みますけど、外で言ったら下手をしたら裁判沙汰になるから気を付けて下さい」

「「外では言わないから大丈夫だよー」」

「お願いしますよーーーー・・・」

「こういうところは相変わらずだなあ。これで本当の弁護士になったら『HoTBの女王様』も太刀打ちできないんじゃあないかなあ」

「はいはい。気をつけます」

「それはそうと、今日は久しぶりにクイズ同好会が揃ってクイズ勝負をやるんでしょ?」

「そういう事だ。余興の1つとして篠原の妹と弟、それと真姫さんの妹の三人と俺たちクイズ同好会がガチで勝負するからなあ」

「わたしも拓真とガチでクイズ勝負するのを楽しみにしてるよ」

「へ?その話、私は聞いてないわよ」

「当たり前だ。真姫さんが『自分も参加させろ』って篠原にブーブー言ったから、篠原の奴、俺に泣きついてきて先日急遽決まったんだぜ。しかもサプライズの形で登場するんだからさあ」

「そこに唯と真姫さんとお姉ちゃん出るんだよ」

「だからあ、その『お姉ちゃん』は勘弁してくださいよお」

「いいじゃん。別に減るもんじゃあないし」

「二人ともいい加減にしなさい!」

「えー、だってえ」

「あー、たくまー、それに藍姉さん、唯姉さん、タクシー来ましたよー」

「おーし、それじゃあそろそろ行くぞー」

「「「おー!」」」


                                  ~完~

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俺の元カノが義姉に、今カノが義妹になって、家も学校も・・・ 黒猫ポチ @kuroneko-pochi

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