第4幕「いろはと英雄」

「作品名【都庁上空の世界樹は今日も元気なようです。】の【佐倉さぐら 英雄えいゆう】を召喚!」


「……え? 都庁が元気?? 何? エーユー??」


 落花は詠多朗の告げた作品名を知らなかった。物語士カタリストになってから、いろいろな作品を読んだつもりだったが、どうやら読み損ねていたらしい。いや、そもそもあまり現代ファンタジーに興味がなかったということが禍してしまったのかもしれない。


(いったい……どんな凄い主人公が……)


 彼女はとまどいながらも、雷鳴のような轟音と共に目の前に立った眩いばかりの光柱に目を細める。

 やがて、光の中から現れたのは現れたのは少年だった。と言っても、落花や目の前の詠多朗と同じ年齢ぐらいだろうか。ぼさっとした髪に、白いTシャツと黒のジャケットはあまりオシャレには見えない。一応、舞台は現代ファンタジーとなっているので、その服装でも問題ないと言えば問題ないのだが、そんなことよりも強い違和感がそのキャラクターにはあった。


(……なんか……平凡……)


 そう。平凡なのだ。どこにでもいそうな普通の高校生。キャラが立っているという意味では、目の前の物語士カタリストの方が黒縁眼鏡の優等生キャラとしてよほど立っているのではないだろうか。

 平凡で凡常で常並つねなみ

 誰かに「どんな人?」と聞かれてもきっと説明に困るタイプ。「顔はちょっと幼いけど悪くない。優しい感じかな」みたいな、ありがちなことしか言えないだろう。


(これが現代ファンタジーの主人公? ……でも、レアレベル187!)


 主人公の格という意味では、確実に【田原 いろは】よりも上である。しかし、どう見てもいろはの方が華がある。いや、もちろん今のいろはには、まだ魅力が足りていないが、淑女になってしまえば月とすっぽんほどの違いがあるはずだ。


(あっ! ……もしかして、このキャラも覚醒タイプ?)


 落花は能力を確認するために、【佐倉 英雄】のカードに意識を集中する。そうするだけで、物語士カタリストはカードの情報を頭の中に取りこめる。



【精霊の目隠し】……5語石エレメンティア消費。数秒間、念じることで闇の精霊に命じ、相手1人の視界を塞ぐことができる。


【精霊のラッキースケベ】……10語石エレメンティア消費。煩悩が高まることで、精霊の力が勝手にラッキースケベを発生させる。何が起こるかわからないが、特に水着回に有効。


【愛の献身】……20語石エレメンティア消費。愛する者を護るため精霊に祈り、自分の命を削って奇跡を起こす。ただし、自分が死ぬほどの献身はできない。



(この能力って……なにこれっ!? びっ、微妙すぎだ!)


 現代ファンタジーにあまり興味がない落花にしてみれば、現代ファンタジーと言えば「異能アクション」というイメージがあった。超能力、霊能力みたいなもので、都会の闇で人知れず戦いの日々をくり返す世界観だ。だから現代ファンタジーのキャラクターは、みんな戦闘向きだと思っていたのだ。

 確かに目の前の主人公キャラクター【佐倉 英雄】も、能力を見る限り「精霊使い」的ななにかのようだ。しかし、雷や炎を飛ばしたり、水や風を操ったりする派手な攻撃技など持っていない。せいぜい、目くらましができるぐらいだ。

 しかも、ラッキースケベときた。確かにライトノベル系の主人公が持っていそうなスキルだが、意図しないとしても精霊の力を使った時点で「ラッキー」と言えるのだろうか。そもそも「水着回」って言うのが謎要素すぎる。


(変態が使うキャラは、やっぱり変態なんだ!)


 最後の能力は、それでも「愛」という言葉があるだけあって真面目ですごそうな技だが、「愛する者を護るため」「自分の命を削って」「自分が死ぬほどの献身はできない」と条件が細かい。しかも、最後の条件がどこか女々しい。


(どうせならスパンッと、その身のすべてをささげて彼女を助けろってんだ!)


 純愛物語が好きな落花だったが、一方で男勝りなところがある。というより、自分が男勝りだという反動で、純愛物語のような「女っぽさ」というものにあこがれていたのかもしれない。小説も漫画もオトメチックなのが大好きだし、だからこそ女性らしさにあふれる涼子のことが大好きになったのかもしれない。

 そして、そんな自分にコンプレックスを抱いている。その裏返しで、「男っぽさ」のない男が嫌いだった。


(煮えきらない主人公……なら、大したことない! あとはインターセプトのタイミングだけ……)


 落花は、慎重に次の語りを待つ。


「英雄は、いろはが教会を出たことを知り、彼女の行方を尋ねた。しかし、彼女の仕事は秘密であったため、誰も彼女の働き場所を知らなかったのだ。彼は自分の能力を駆使して、彼女の行方を追い求めた。なぜそこまで追い求めたのかと言えば、英雄はいろはのことがずっと好きだったのだ。恋に落ちていたのである」


 出されるのは【恋に落ちる】という状況カード。

 そのカードを見た途端、落花は思わずニヤリとしてしまう。なんと愚かなことだろうかと、思わず万歳したくなる。なぜなら、いろはは覚醒さえすれば、惚れさせた相手を意のままに操れるのだ。きっと彼は、いろはの能力をきちんと確認しなかったのだろう。

 これぞ正に勝機であった。


「そして彼は、いろはが魔女に悪戯の呪文をかけられたことも知ってしまった。なぜなら彼は精霊使いで、いろはの近くにいた精霊からいろいろと教えてもらっていたのだ」


「――インターセプト!」


 やっと狙っていた単語を言ったと、落花はカードを投げいれた。

 そのカードは【妖精】。厳密に言えば、「精霊」と「妖精」は違うのかもしれない。しかし、カードの意味はだいたいあっていれば通るのだ。その辺の自由度は高く、例えば【王】というカードを【大統領】や【内閣総理大臣】と言った国の代表という意味で使うこともできる。また、【巨人】というカードを「野球界の小さな巨人」というフレーズで使うこともできるのだ。

 はたして、カードは拒否されることなく場に留まり、ターンが落花にやってくる。相手が一体、どんな手を考えていたのかわからないが、ターンさえまわってきてしまえば相手は物語をコントロールすることはできないはずだ。


「精霊から、いろはの様子を聞いた……えーっと……英雄は、精霊に導かれるまま、危険な近道と知りながらも勇敢に森を抜け洞窟を抜け、急いで王様のいる塔に辿りついた。それもすべて、英雄がいろはを愛するが故の力だった」


 出したカードは【勇ましい】【森】【洞窟】の3枚。もちろん恋愛のカード。つまり流れをスムーズにするには、愛をテーマにしなければならない。


「彼は到着すると、塔を護っていた兵士に変装し――」


「インターセプト!」


「――ちっ!」


 落花が【変装】のカードを出した瞬間、相手から【護衛】の人物カードが投げいれられた。もう少し語りたかったが仕方がない。とりあえず、補充のためにカードを5枚チャージする。


【秘密】

【川】

【夜】

【競争】

【逃げる】


 使えそうなカードがある。それに流れは完全にこちらに向いていると、落花は自分を落ちつかせるために深呼吸を大きくおこなう。


(大丈夫。凉子さんの仇はとれる! そしてこいつが死ねば、凉子さんは開放される!)


「英雄は見つからないように階段を降りていく。なぜなら、彼女はすでに王様の顔を見てしまい、地下牢に捕らえられていたのだ」


「――それ、インターセプト!」


「――!!」


 相手の出した【階段】【地下牢】に、まるでぶつけるように落花は【囚われた】を投げいれる。

 詠多朗の眉が顰められる。それを見た瞬間、確信した。勝利の女神は自分に微笑んでいると。カードの流れが非常にいい。なにしろ、相手にターンをとられても話の流れはまったく変えられていないどころか、思うとおりに進んでいるのだ。

 だがもちろん、いつまたインターセプトされるかわからない。


(ここは早めに――)


 少し強引だが話を進める。


「英雄はとうとう地下牢でいろはを見つけた」



『いろは! やっと見つけた!』


『英雄! ど、どうしてここに!?』



 物語士カタリストが適切な誘導をすれば、ランク3のキャラクターは勝手に語りだす。



『もちろん、助けに来たに決まってるじゃないか』


『バ……バカバカバカ! 王様なんだよ!? 見つかったら、英雄まで殺されちゃうんだよ!?』


『殺されるつもりはないよ』


『じゃあ、なんで……私のために……』


『いろはのためじゃない。ただ……ただ好きな子を守りたい。そんな俺のワガママのためにきた!』


『えっ!? 英雄……今……』


『ずっと……ずっと俺はいろはの事が……言えなかったけど! 俺はこれからも、いろはと一緒にいたいんだ!』



 冷たい灰色の石畳と石の壁。そこに世界を隔てるように冷たく立ちふさがる鉄格子。そのあちら側とこちら側で、いろはと英雄が見つめ合った。

 そして、もどかしそうに鉄格子を握るいろはの手に、英雄の手が重ねられる。



『大丈夫。俺が何とかするから』



(……ヤバッ! ぐぅ好き! なにこれ、クサいけど……カッコイイじゃん、英雄!)


 見つめ合う2人を落花は思わず紅潮しながら静観してしまう。好きなのだ。たまらないのだ。落花は、テンプレ展開と呼ばれようと、こういう王道展開を見てしまうと、胸が高鳴り高揚感を押さえられなくなる。

 しかも、男らしくなさそうな優男だと思っていた英雄の男らしさあふれる行動。そのギャップにわかっていても萌えてしまう。


(……って違う! 強引だけど、今の内に能力を!)


 落花は声をあげる。


「こうして、いろはは愛を知り、一皮むけて大人となる。――能力【覚醒:淑女開花】! その力で、【佐倉 英雄】を魅了する!」






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※召喚主人公情報

(本作品は、下記作者様より主人公召喚許可、並びに登場作品の掲載許可をいただいております)

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佐倉さぐら 英雄えいゆう

・作品名:都庁上空の世界樹は今日も元気なようです。

・掲載URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354054884487981

・作者:村雲唯円 氏

・ジャンル:現代ファンタジー

・★:187(2018/03/02)


●田原 いろは

・作品名:和桜国のレディ

・掲載URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354054884300618

・作者:冬村蜜柑 氏

・ジャンル:恋愛

・★:140(2018/02/23)

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