第20話 ブジョンヌイ騎兵隊
「お頭ァ! 偵察隊が帰還してきやした!」
「損害は!?」
「ゼロです姉御!」
「ならばよし! 報告ののち休息をとらせよ」
北方辺境地帯から東へ進んだ森林地帯にキャンプがあった。
この周囲をうろつく人間など恐れを知らぬ冒険者か、後ろ暗い犯罪者しかいない。
そして、周囲を支配しているのはどちらでもなかった。
「これで北方辺境都市以東の地図は出来上がったか」
大きな天幕の中で、幕僚に囲まれながら長身の美女がつぶやく。真紅の長髪が特徴的な野性味のなる美女だった。
「どうしやすか、頭ァ」
「大将と呼べ大将と」
苦笑しつつ副官を押しとどめたこの美女こそが、ブジョンヌイ大将だった。
隠密性にすぐれるゴーレム騎兵を率いる彼女の師団は、ルシュタージュと呼ばれるソ連にもっとも近い辺境都市周辺の偵察を命じられていた。
ブジョンヌイが率いる騎兵師団は、機械化の進むソ連において時代遅れとされていた。ところが、機械化部隊にはない、その消音性から異世界の偵察任務を一任された彼女たちは、非常に張り切っていた。
空軍に水をあけられた格好となった赤色陸軍上層部からは、大いなる期待を背負い出撃し、いまのところ赫々たる戦果を挙げてきた。つまり、敵に気取られずに、早期にルシュタージュ周辺の地形図の把握に成功したのである。
とはいえ、不満がないわけでもない。騎兵といえば騎兵突撃。戦場の花形だったのだ。しかし、昨今の弾丸入り混じる戦場において、騎兵は花形からは遠ざかれていた。その中においてのチャンスである。ブジョンヌイ率いる騎兵師団は、力が入ろうというものだった。
「地図は、だいたいできあがったか。偵察任務としてはこれで終わりであはるが」
「このまま引き下がれっていうんですかい頭ァ!」
意気軒高な暑苦しい部下に囲まれながらも、内心ブジョンヌイも同意する。
せっかくの晴れ舞台なのだから、大暴れして騎兵の真価を発揮したかった。とはいえ、STAFKAからの命令は、あくまで偵察のみ。
一応、周辺の地形図と魔物の生態図を仕上げたことは十分な戦果である。しかしながら、初日に現地民の協力者を得てスターリンの誉め言葉を得た赤色空軍には、残念ながら一歩劣るといってよい。
だからこそブジョンヌイは戦果を欲しがった。このままいけば撤退するのみだが、何かないかと網を張り続けて数日。そろそろ、撤退命令がきてもおかしくない頃。彼女のもとに一騎偵察から戻ってきた。
——ルシュタージュより出撃した部隊が獣人の集落へ向かった模様
その一報をもって、彼女はすぐさま進撃した。
「いまこそ、騎兵の本領を発揮するとき!」
真紅の長髪を棚引かせながら、彼女は手勢を率いる。古くからのコサック騎兵を束ねるドン・コサックでもある彼女の牙が、哀れな奴隷商人たちへととどこうとしていた。
ゲームでソ連建国して遊んでたら異世界転移してた 羽田京 @haneda_miyako
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