第19話 初手シベリア

  話は転移直後まで遡る。

 スターリンの意向で、盛んにソ連の周囲を陸と空から偵察していた。EWC基準なら近くに資源や蛮族、都市国家があり、それらをいかに素早く見つけるのかが初手のポイントだったからだ。



 そこで、スターリンの好意を得ようと、赤色陸軍と赤色空軍が競い合って偵察をした。―—諜報組織が活動するのは、対象を見つけた後である。

 そして初日に大戦果を空軍は上げた。そう、カーロッタとルーシヴィアである。おかげで、空軍はご機嫌だった。陸軍は歯噛みした。



 発見者のリディアと彼女率いるナイトウィッチ中隊は空軍の誉とされた。



 ソ連が転移した地域は、不毛地帯と呼ばれる。一応、西側に存在するエリス帝国の領土ではあったが、開発はほとんどされていない。草木すら生えない極寒の地であることも理由だが、最大の理由はモンスターが凶悪である点だった。

 Bランクの雪巨人やスノーウルフの群れ、アイスファルコンが当たり前のように闊歩しているため、冒険者たちには、死の大地とも呼ばれた。調子にのった若手が繰り出して、二度と帰ってこないからである。



 そのような理由があり、不毛地帯には名前すら付けられておらず――スターリンは『シベリア』と名付けた。国家影響力の及ばない地は、自国の領土にするのが当然であるというEWCの常識に沿った形だ。


 すでに、シベリアでは大規模な資源探査が行われている。当面は、ソ連のエリアである北方資源地帯の生産で賄えるが、世界革命路線へと梶を切ったことで、多量の資源備蓄の必要性が予想されたからだった。



 この広大なシベリアの大地は、なりふり構わぬ大量の航空機による偵察で早いうちに、ほぼ地形を把握できた。

 問題は、不毛地帯の西、人間が居住しているエリス帝国の支配地域である。

 当初、航空機による偵察が試みられたのが、音により住人に気付かれる事態が頻発し断念した。

 つまり、航空機のエンジン音に感づかれたため接近できないでいた。



 この転移世界は、科学技術的には遅れた文明であることが判明していたが、手の内をみせない方針で一致していた。EWCでは原始文明が近代文明の兵器を鹵獲することで、一気に同レベルまで進化することが平気で起こっていたからである。



 そこで巻き返しを図ろうとする陸軍が注目したのが——騎兵だった。

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