森の守護者
水に呑まれていく故郷を竜は空から見おろしていた。竜の背に乗る女は、何を思い水に沈む故郷を見つめているのだろうか?
彼女は語る。
森が保水力を失い、行き場を失った山脈の雪解け水がこの地に押し寄せたのだと。
「消えちゃったね、私たちの森……」
ぽつりと女が呟く。
悲しげな彼女の声に竜は小さく嘶く。
月が夜空に上る頃、あたりは凪いだ水で満たされていた。水没した大地の上を、竜は女を乗せて疾走する。
目指す先には、水没を免れた林檎の木の丘があった。
「林檎が……」
彼女の声がかすかに弾む。
竜は林檎の木の前へと静かに降りたった。
竜の体を、月光を想わせる光が包み込む。光が止んだとき、そこにいたのは竜ではなく一人の青年だった。
美しい銀糸の髪を靡かせる彼の双眸には、抱きしめた女が映り込んでいる。緑の双眸を大きく見開く彼女に、青年は告げた。
「作りましょう、俺たちで……。新しい森を」
「チビ……」
青年の言葉に女は震えた声を発し、涙を流してみせる。そっとその涙を、青年は銀色の義手の指で拭ってみせる。
潤んだ眼を魔女は細め、青年に笑いかけてみせた。
そっと青年は彼女の顔を覗き込む。恥ずかしそうに彼女は潤んだ眼を伏せた。そんな彼女に微笑みかけ、青年は彼女の唇に口づけを落とす。
――数百年後、荒野だった大地には、たくさんの緑が溢れかえっていた。
そして、こんな言い伝えもある。
この森は竜と森の魔女により息を吹き返したと。
竜の子孫は今もなお、神々の森を護り続けているという。
魔女と子竜 猫目 青 @namakemono
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
妖精事典/猫目 青
★27 エッセイ・ノンフィクション 完結済 109話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます