第3話 繋がる点と線

 無機質な工材の白と灰色だけの部屋。

 森林での一件で、二人は封神庁魔導鑑識課所属ほうしんちょうまどうかんしきかしょぞくである一条真希いちじょうまきの研究室を訪れていた。椅子に腰を掛ける、白衣の女性。

 二人よりも年上だがこの職務上、彼女も妙齢みょうれいと表現するのが的確であろう。

 書類に目を通した後、顔に掛かる少し茶色がかった黒い髪を手で整えて、

 取締人たちに視線を合わす。


「二人ともご苦労!! 例の異能犯罪絡みの野生動物はさっき診てみたよ。」


「____それで、何か手掛かりはありそうですか……?」


 こちらの苦労も知らずか、疲労が隠せない将輝とは対照的に、彼女はとても上機嫌であるように感じる。


「まぁ、君たちならもうご存知だと思うけど、間違いなく昨今頻発している一連の事件と同一人物か同じ組織の連中の仕業だね。」


闇霊ラルヴァ使いですか……?」


「そう、それなんだよ。この猪を使った呪術……おっと、正式な分類は死霊術しりょうじゅつか。」

「本来であれば、媒体に使用する生物は死後、一~二時間以内、もしくは、術者が制御するための呪物を媒体に入れる必要がある。君たちも大体そこらへんは分かるだろう?」

 

 何か言いたげな微笑ほほえみで、光幸の方を見つめる。


「一条さん、それなんですが、この猪には陰の力……いやしかなかったんですよ。」


「そう、加茂君かもくんの言う通り、死霊術の前提条件からして本来であれば、死んだ生物の体に残った陽の力……まぁ、とどのつまり光霊エーテルを電池みたいに利用して死体を動かす術なのに、のが君たちが見つけたこれなんだわ。」


「ですが、一条先生!、確かにこれは動いてましたし、何より姿形が通常の死霊術とはまったく違っていて……」


 言葉を言い切るまえに、一条が椅子から立ち上がる。

 先ほどまでの、表情とは違う、優しい年上の女性ではなく、そこには二人に魔導を教えた魔女。魔導鑑定師まどうかんていしとしての一条真希がいた。


「そう、表向きは死霊術ってことになる……だけどね、これは死霊術の中でも、遥か昔、この日本で創られた酷似こくじしてるわ。」


「先生、いったいどういうことなんですか? その術式と今回の事件に何が……?」


 将輝が疑問を拭えずにいると光幸が割って入る。


「一条さん、いや、真希姉まきねぇ。とりあえず一条さんだと言えないんだろ? だったら、岩井いわいやかたで聞きますよ。俺たちの姉さんとして、そしてとして。」


 光幸の顔も今は、いつもの飄々ひょうひょうとしたそれとはまったく別ものであった。


「____はぁ、わかった。 じゃあ、次の日曜に帰るから、ちゃんと掃除しといてよね、二人とも!! いつも、帰ってくると物が散乱してるんだからっ!」


「ハハハ……わかったよ。今度こそかたしておくよ!」


 それから、数十分ほど別件の話をした後、二人は封神庁を後にした。

 その道中で、将輝が光幸に先ほどの話を止めた事を問う。


「なぁ、さっきなんで研究室で、先生の話を止めたんだ?」


 光幸が少し不機嫌そうな顔で返す。



「あぁ?そりゃ、____獅子身中しししんちゅうの虫が飛び回ってたからな。」



「はぁ……?どういうことだよ。」


「____将輝、ちと痛いけど我慢しろよ!」


光精霊こうせいれいよ!!ここに集いて、悪しき者をはらい給えッ!!!」


 将輝の左手の掌を強く握り、手にエーテルを集中させる。


「痛ってぇ!!!なんだよ光幸!!」


「____てのひら見てみろ。」


 将輝の視線の先、掌では異常なことが起きた。

 のたうち回りながら掌から地面に落ちていく。


 凡そ、その様は腐乱した肉に集る蛆虫を彷彿とさせた。


「な……なんで、こんなものが僕に……?! しかも、これって……!?」


闇霊ラルヴァだよ。間違いねぇな。だ。二段発動型とはな。」


「とりあえず、よかったな将輝。お前が鈍感なおかげで、真希姉と俺が先に気づいたから、情報漏洩じょうほうろうえいせずにすんだぜ!」


 将輝は、血の気が引いた体で光幸を見つめた。

 そして、その瞬間、何かが自身の中で蘇る。


「______、我が半身からだ……。」


「はぁ、なんだ?今なんて言った? 」

「おい……将輝? おい、大丈夫かオイ!?_____、しっかりしろ……!?」


 光幸の叫ぶ声がだけが聞こえる。

 からだは重たく、意識の水底みなぞこに沈んでいく……。


(第四話に続く。)

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現代討魔伝~異能犯罪取締人~ 相馬尚輝 @naonao141

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