第2話 取締人~将輝と光幸その二~

 ____暗黒を断つやいばが異形の者に向けられる。

 

「行くぞッ!覚悟しろ闇霊ラルヴァッ!」


 右手に握られた鬼神丸きじんまるみね左掌ひだりてのひらの呪物へ押し当てる。

 すると、瞬く間に、藁人形から黒い粒子りゅうし噴出ふんしゅつする。藁人形はそのまま何事もなかったかのように地面に落ちていく。


「よし。これで鬼神丸が握れるな……」


 光幸みつゆき解呪かいじゅを確認し、そうつぶやくとほぼ同時に、将輝まさきが前方へ駆け出す。


『数多の<よう>の力を以て……その邪惡を断て!』


 足元の悪さも関係なしに、まさに獣の如き速さ。

 木々をかわしつつ、対象の直前まで迫る。


「シ"ネ"シ"ネ"シ"ネ"シ"ネ"……シ" ネ" ェ"ェ"ェ"ェ"!!!!!!!!!!!!」


 闇霊ラルヴァも全力を以て抵抗する。

 ボール状の胴体から無数の手を出現させ、拘束を引き千切る。


 そして、その腕は瞬時に将輝に対して伸びてゆく!


「____うおおおおぉッ!!!!」


 腕が四方八方から彼に対して伸びるが、両手に握った鬼神丸で襲い掛かって来るものが次々と斬り落とされていく!


「ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッ"ッ"ッ"ッ"!!!!!!!!!」


 切断された腕たちは断面から黒い粒子を噴出して消滅する。


「将輝ッ! 間違いない、そいつは人工的に造られた闇霊ラルヴァだ!お前の鬼神丸の光霊エーテルで完全分解できる!!」


 その言葉を聞き、一瞬だけ光幸に目を向ける。

 そして、間髪入れずに跳躍ちょうやくする。


 生い茂る樹木じゅもくを蹴って空中を飛び回る。


 それに翻弄ほんろうされる異形の手が虚しく木々を破壊していく。


『この地に眠る陽の力…………今一時、此処こことどまりやいばす!』


 ____詠唱の開始とともに、何処どこからともなく刃に光の粒子が集まっていく


惡鬼斬伐天剣鬼神丸あっきざんばつてんげんきじんまるッ!!!』


 さらに、集まった光がより大きな刀身を形成していく……


「______これで終わりだぁぁぁッ!!!」


 森の木々と同じ程の刃が光を放ちながら空中で大きく振り下ろされる!!


「グギャ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!!!!」


 胴体どうたいを上から真っ二つに割るように放たれた一撃により、闇霊ラルヴァは黒い粒子をまき散らしながら消えていく。


「…………?! なんだこれは……?」


 消滅した闇霊の後から何かを発見したのか、そこへ近づいていく。


「______!? 光幸ッ!! 早く来てくれ!!」


 その異常な物体を見て、流石に声に力が入る。



「んぁ? なんだよそんなに急かすなって……」


 ぶつくさ言いつつも少し急いで、光幸も近づいてくる。


「なんだ、よく見えねぇな…… こういうときは……っと。」


 またしても、上着の内ポケットから紙を出す。

 今度は、長方形の形で中心にと書かれていて、が描かれている。


火霊かれいよ……ともれ!』


 すると、突然、手に握っていた紙の先端が赤く光りだし辺りを照らす。


「ん?____なんだこりゃッ!! 滅茶苦茶じゃねーかッ!!!!」


 照らし出された二人の視線先に転がっていたのは、腐食が激しく進んでいたいのししらしき野生動物の死骸であった。


「それにしては…… おかしな。腐臭ふしゅうもしねぇし、なにより蛆虫うじむしもいねぇ……」


 光幸は左手であごを触りつつ、死骸を凝視ぎょうしする。


「そう、それなんだ。明らかに誰かが呪術の生贄いけにえあるいは、媒体ばいたいとして使っている痕跡こんせきがある。」


「そうだな、しかもにだよこりゃ……」

「普通は隠すぜぇ……特にこのレベルの呪術を使う異能犯罪者いのうはんざいしゃなら当たり前のようにな。」


 二人は、この死骸に関して疑問を抱いた。なぜ、あえて犯人が証拠となる媒体を残したのか。本来であれば、憑依ひょうい及び降霊こうれいさせた闇霊が消滅すると同時に、媒介を火霊を用いた呪術で消滅させることも何ら造作もないことだからだ。


「にしても、さっきの藁人形といい、これといい今回の犯人はかもな。」


「そうだな。だけど、僕たちも引くわけにはいかない。今回の件が終わればことができる。」


「確かにな。流石にこれだけおかしな呪術使って悪さしてる奴ら捕まえたとなれば、<ほうしんちょう>の連中も無視はできないだろうな。」


 二人は獄中の恩師である草壁宗助くさかべそうすけのことを想う。

 かつて、行き場を失った異能者である自身を養ってくれた存在。

 そして、何よりも彼らの二人のかえるべき場所に必ずいてくれた人。


 だが、無慈悲にも先生との生活は終わりを迎えることになる。


 彼は、所属していた組織である異能犯罪者を裁く封神庁ほうしんちょうの何者かによって罠にめられた。神田将輝かんだまさき賀茂光幸かものみつゆき以外にも、行き場を失った多くの異能者を養っていた彼に対して、が行われたのである。


 証拠は明らかな偽造品ばかりだが、上層部の何者かの思惑によって、宗助は無期懲役刑となる。だが、不幸中の幸い、上層部は一枚岩ではなかった。

 草壁宗助を支持する派閥の人間が、彼の裁判結果取り消しと冤罪えんざい証明を求め水面下で動いてくれている。

 

 そして、この二人もそれに協力する形で、彼の無罪を証明すべく国家にあだをなす異能犯罪者を取り締まる、取締人とりしまりにんとして活動している。




「さて、まぁわからないことを考えていても時間の無駄だな。俺たちにはそもそもし、とりあえずこの死骸はに診てもらうか。」


「僕たちはあくまで、でしかないのか……」


 自身の無力さに、くちびるを噛みしめる。


「まぁ、そう悲観すんなよ。あとは魔導鑑識課まどうかんしきかに任せて、俺たちは俺たちの仕事をする!!」


 光幸が、笑いながら拳を伸ばす。


「そうだな、ありがとう光幸。僕たちには僕たちのやるべきことがある!!」


 拳がぶつかり確かな絆を感じる。こいつとなら必ず成し遂げられる。

 そんな気がしている。


「さて、まぁ魔導鑑識課への転送術てんそうじゅつは俺がやるからいいが……それはさておき……将輝~、お前、はどうした~?」


 ____一瞬、沈黙が走り場が凍る。


「______探してくる……。」


 先程までの気迫はどこに行ったのか、惡霊殺しの太刀を携えた青年は申し訳なさそうに、荒れた森林を探し回るのであった……。



(次回へ続く)

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