現代討魔伝~異能犯罪取締人~

相馬尚輝

第1話 取締人~将輝と光幸その一~

 現時刻は午前一時。関東の某所の森林にて、木々の隙間を走る二人。


「オイオイオイッ!だから言っただろ、俺が調べる前に”呪物じゅぶつ”に触るんじゃねぇぞってさぁ!?」


 一人の男が前を走るもう一人に声を荒げて言う。


「てか、将輝まさきッ!!、その、手にくっ付いたどうにかならねぇのか!」


 前方を行く男は、足を止めずに後ろの彼に顔を向けつつ左の掌を見せる。

そこにはが文字通りくっ付いていた。


「駄目みたいだな、先程から振り回してるが一向に離れない……!!」


 そう言いながら左手を大きく振るうが、藁人形は掌に張り付いて微動だにしない。


「ええぃ、クソッ!これでは、鬼神丸きじんまるが抜けないッ……!」


 自身の右手に握っている、鞘に納まったままの一振りの太刀に目を向けるが、左手は未だ使えないままである。


光幸みつゆき!!、悪いが時間を稼いでくれ。この呪物が”いん”の呪物なら鬼神丸のやいばで破壊できるかもしれない!」


 言い終えると、すぐに彼は走っていた方向の反対側に向き直り、右手の太刀を左脇に挟み込んだ。


「はぁ~!!マジですかい!? 俺、戦闘キャラじゃねーんだけど……」


 森林の暗色とは真逆の、薄めの金髪を右手で搔きながら彼も後ろに向き直る。


 バキャッ!! バキバキバキバキッ!!!


 二人の走ってきた道を追うように山林を破壊しながら突進する……。


「ア"ア"……ユ"ル"サ"ナ"イ"……コロスコロスコロスコロス……コ"ロ"オッツ""""!!」


 殺意に満ち満ちた軽トラック程の、ボール状の体で左右から生えた細長い腕を使い木々をなぎ倒しながら二人目掛けて一直線に突き進む。


「あ~、怖いねぇ……まぁ、悪いけどこっちもなんでね。とっとと片付けて、必要があるんだわ。」


 異形の何かに、言い放つと彼は服の内ポケットから、人の形をした紙を取り出す。


賀茂光幸かものみつゆきの名にて命ずる。』

『数多の木霊こだまよ。今一時、この仮姿かりすがたを持って顕現せしめよ!』


 その言葉と共に、彼は人差し指と中指に挟んだその紙を、歪な存在に向かって投げる。


 紙は、つばめの如く、倒れる木々を避けて対象に飛んで行く。

ついに、それが接触する寸前まで来た途端、黄緑色の光を放ちつつ人型の紙は本物と何ら遜色そんしょくのない、無数のシダのツタに変わり向かってくるそれを捕縛する。


「ほらよ。一丁あがりっ! 将輝―――いけるかっ?」


 光幸が将輝に対して、問いかける。


「ああ! 流石は稀代きだいの陰陽術師だな!!」

 

 そして続けざまに、彼も


『ここに、天剣てんげんを持って惡鬼を調伏ちょうぶくせん。』

『我が、心魂しんこんの呼びかけに答えよ!! 天剣鬼神丸てんげんきじんまるッ!!!』


 彼がそう唱え終わると、鞘から引き抜かれた刀身があらわになる。


闇夜を切り裂くかのように大きくれた刀身が威風堂々いふどうどうとその姿を現わした……。


(その二に続く)

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