第2話
カラカラカラ–
「ごめんくださーい。」
ここは京で少し名のある和菓子屋、福屋。
そう、手紙の差出人トキの実家である。
「おいでやす。」
戸を開けると、
淡い水色の着物が似合う百合のような女性が、ふわっと笑顔で出迎えた。
そして、少し驚いた様子で目をぱちっと
マルの手元にとめた。
「その手紙は・・」
「はじめまして、マルといいます。
あなたが、トキさんですね。」
柔らかい雰囲気と凛とした空気を同時に
纏うトキは噂に違わぬ美人であった。
「こんにちは、サクです。
あなたがお困りのようでしたので、お力になりたく参りました。」
マルの言葉に間髪いれずサクが続ける。
ちらっと横目でみると、
朝の様子からは想像出来ないほど、
背筋はぴんと表情はきりっと、
口調は はきはきとしていた。
「・・・来るのしぶってたくせに。」
「・・・うるさいですよ。」
「あ、あの噂の探し物屋さんですね。
本当に来てくれはるなんて、ようお越し下さいました。私がトキです。」
よろしくお願いしますと
背筋をぴんと綺麗なお辞儀をする。
2人も慌てて、同じようにお辞儀をした。
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
マルは緊張した様子で
床に釘を打つような勢いで上半身を倒した。
がばっと起き上がった、その顔は
初めて海を見る子供のようだ。
「・・・マル、顔に出やすいタイプですね」
「・・・うるさいですよ。」
サクはさっきのお返しとばかりに
クスッと笑った。
客間へと案内された二人は
トキより事の詳細を聞いていた。
「では、その髪留めはこの箱の中に
仕舞ってあったんですね。」
マルが言う。
二人の前には
桜の花の彫りが綺麗で、引き出しが三つある
両手サイズの木箱があった。
「はい。ここにずっと仕舞うてたんです。
いつのまにか無くなってしもて。最後は使うたんは、一年くらい前です。」
トキが下から二番目の引き出しを開けると
本来髪留めが入っているであろうスペースが
空っぽになっている。
「鍵などは特につけていないんですね。」
このような時に積極的に質問をするのは
いつもマルの役であった。
「はい。この箱は私の部屋のタンスの奥にあって、誰かが間違うて開ける場所ではありません。それにわざわざ持ち去るような、高価なもんでもありませんし。」
「うーん。一年以内にその部屋に客人などは来られていないのですか。」
「はい。いらっしゃっても一階の客間のみで
二階へは家族のもんしか上がりません。」
「では、知らぬ間に、
ということはないですか。」
「さぁ、ないと思いますが・・
客人が来はる時は店先からですし、
その店には私がいつもおりますので」
では、もしかすると悪人が
裏からそっと入って・・と考えたが
マルはそれをトキに言うことが
なんとなく憚れた。
その代わり、横でぼーっとしている男に
話をふった。
「サクさん、どう思いますか。」
「そうですねえ。なぜでしょうね。
少し、散歩してみたかったのかもしれませんね。」
「さんぽ・・」
「でたよ、もう。」
思わぬ回答にトキは大きな目をぱちくりさせ
マルは、またかというふうに小さく溜息をついた。
「ものだって、息してますからね。
狭いところばかりだと、外に出たくもなるんですよ。」
全く気にしていない様子でサクは続ける
にこっとサクが笑うと、
トキは少し間をおいて、やはりふわっとした
笑顔を見せた。
「おもしろいお方ですね。
初めて聞きました。
ものが息してるなんて。」
「ふふ、人間も同じでしょう。」
そうサクが言うと
トキはまた目をぱちくちさせた。
そして今度は
少し切なそうな顔で
少し微笑んだ。
マルと咲く @u-_-u
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