マルと咲く

@u-_-u

第1話

世の中には不思議なことがある。


みんなも経験したことがないだろうか。


例えば 街中でばったり旧友に会ったり。


その時たまたま通った道だったりすると


なんとなく その人と縁を感じないだろうか。


この世界は沢山の選択と少しの偶然と


そして、不思議な縁で満ち溢れている。




「サクさん、また依頼が来てますよ!」


ほら!見てください!と便箋を広げたのは

マル -14歳ばかりの男の子だ。


「そんなに慌てて、まだ朝の11時じゃないですか。」


もう少し眠りたい、と布団を口元まで被ってごろんと寝返りを打ったのは

サク -この家の家主で見た目は20代後半くらいの男の人だ。


この家は京都の片隅、縁側からは

山が見える空気の綺麗な場所にある。

そして、ここにはサクとマルの2人が

書店を営みながら、穏やかに暮らしている。


そう、表向きは。

本当の家業は、探し物屋さん。

人々が無くした色々なものを見つけてほしいと依頼をしてくるのだ。

ペットの犬や猫、家宝の宝石から

時には人まで。

そして依頼は手紙のみで受け付ける。


「サクさん!起きてください!

もう11時ですよ、お日様が真上まで来てますよ!ん〜っ、もう、ほらっ!!」


ばさっと、布団を剥ぎ取ると、

一メートル八十センチ近くある男が

みの虫ごとく丸まっている。


「さむっ。寒い寒い。

風邪をひくよ。全く乱暴だなぁ。」


のそのそと近くに置いてあった靴下と

甚平を羽織って、やっと起き上がったかと

思うとやはり、足取り重く顔を洗う。


「ぅう、冷たい。これだから冬の朝は

特につらいんだよ。あったかいお湯でも

出ればなあ。」


「夏は夏で、暑くて汗がべとべとして辛いって言ってましたよ。全く。」


この家の朝はいつも、こんな様子だ。

まだ半開きの目をこすって

茶の間の丸い机の右側に座る

左側にはマルが腰かけ、ばんと

便箋を広げてみせた。


白い封筒に宛名は「探し物屋さん」

内容はこうだった。


-----

初めまして、こんにちは。

私はトキと申します。

どうしても探してほしいものがあり、

お手紙を書きました。

それは、祖母からもらった髪留めです。

ガラスの玉の中に赤い花が入っていて

光にかざすとキラキラと黄金色に

輝くのです。どこで失くしたのか、

もう一ヶ月も探していますが

見つかりません。

お願いします。

見つけてください。



流れるようなしかし、止めハネが

しっかりした字で書かれていた。


そして、一緒にその髪留めの写真が

ひとつ入っていた。


「おばあさんからもらったものを

なくしてしまったんですね、きっと

大切なものだったんでしょうに、」


マルは顔も知らないトキの事を想像し

きっと心細いだろうを同情した。


「そうですね。確かにかわいそうです。

大切な人からの貰い物。そこにはその想いものっかっているでしょうから。」


「サクさん、では引き受けるんですね。」


嬉しいです、とマルが言おうとしたのを

寸で先取りして、サクが言った。


「しかし、私は寒いのは苦手なのです。最近はここ何十年かで一番の寒さと言うじゃないですか。この中探し物なんて、雪山で遭難したも同然です。もう少し暖かくなってからでもいいでしょう。」


それにもう一眠りしたいんです、と続けた。


「サクさん!またいつもの悪い癖です

すぐに何かと理由をつけて、面倒くさがる。

仕事してください!

それに失くしたのではなく、誰かにとられてしまったのなら急がなくちゃ、いけません!

ほらーー、いきましょうよーー。」


「いたた、腕を引っ張らないで下さい。

ほんとに乱暴ですね。そんなこと言って

このトキさんに会いたいだけじゃあないんですか。ほら、差出人を見ると有名な和菓子屋さんの住所ですし、その看板娘は美人と評判ですからね。ほんと、知らぬ間にマセてしまって、」



「ち、ちがいます!ぼくはただ、

困っている人を助けたいという気持ちで!」



「・・・・・」


「・・・・って寝ないで下さい!」



マルとサク

こんな探し物屋さんの二人のお話


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