第13話

[10月27日 晴れ

君が帰ってきた。]



「ご苦労様です。」

僕はそう言って、君を届けてくれた役人を丁寧に玄関から送り出した。

一時僕を襲っていた凶暴な怒りはもうない。

あるのは奇妙な静けさだけだ。

ダイニングに引き返し、テーブルにのせられた君と向かい合う。

「…お帰り。ずいぶんコンパクトになっちゃったね。」

超高温で焼かれた君の骨は、完全密封の白いタッパーウェアみたいな容器に収まっている。

「色気のない入れ物だよね。ちゃんと君のお気に入りのあの花瓶に、入れてあげるから。」

僕は大型ナイフを取り出し、プラスティックの蓋に突き立てた。

『感染の恐れはないと思われるが、開けないことが望ましい』

そう役人は言っていたが、そんなのは気にしない。

「あ。」

…パサッ…

手が滑って容器が滑り、粉になった骨がテーブルにこぼれてしまった。

「ああ、君がこんなに広がってしまって…」

僕は卓上用の小さなほうきをとると、丁寧に君を集め、青い花瓶の中に落とし込んでいく。



ふいに、部屋の中にハミングが流れた。

一瞬期待してあげた目に、君の姿はうつらない。首をかしげて気がついた。


……僕だ。


浮かんでくる微笑の中で、僕はぼんやりと思っていた。

(僕の骨も、だれか花瓶に入れてくれたらいいんだけど…)


僕は青い花瓶を抱いてソファに座った。

満足のため息を一つつき、僕は僕の歌をハミングしはじめた。

腕の中から聞こえる君のハミングに合わせ、これからずっと、高らかなハーモニーを歌い続けるために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Bird 青羽根 @seiuaohane

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ