「現代妖怪文化」小説の最前線、あるいはメタ的妖怪大戦争

現代妖怪小説の最先端をいくジャンル小説です。

基本的なスタイルはシリアス路線の伝奇サスペンス。物語は奇妙な連続殺人事件から幕を開けます。被害者をつなぐのは「牛の首」というキーワード。あり得ないはずの怪異が現実と交差していきます。収束しかけたかに見えた事件は二転三転し、やがて現代の妖怪概念の根本を揺るがす事態へと発展し……。

主人公の刑事・鬼島三月が警察署と事件現場、そして探偵役の樹木慈姑のいる古書店とを行き来することで、お仕事もの的な面とお店もの的な面を自由に場面転換させる冒頭は入りやすく、すっと作品世界を受け入れることができます。

他人との会話を不得手とする慈姑と、その意志を十二分に汲み取る三月――二人の関係は気のおけない幼馴染というものでもあり、また両者の「言わずとも分かる」という信頼がストーリーを牽引するうえで重要な役割を果たしていきます。

レーベルジャンル的に言うと、角川ホラー文庫等にあるオカルト刑事ものの系統が好きな向きには、本作品の雰囲気はかなり刺さるはず。

盛り込まれた要素も贅沢で、マイペースな女性刑事に何か過去に影のありそうな強面の相棒、明らかに怪しさ満点の官僚。正体不明の怪異に、裏国家機関。陰陽師。見鬼。そして父娘の愛憎劇……。

民俗学等の知見も設定に深く取り込まれており、たとえば、原初的な鬼〈モノ〉と俗的な妖怪〈バケモノ〉とを相対させる配置は、従来の妖怪学研究の史観を知っている読者には頷けるものかと思います。

少し一歩踏み込んだことを言及しますと、妖怪ジャンルという点から見た場合、実在の人物や事物、作品を連想させる描写は京極夏彦や大塚英志リスペクトが垣間見え、ファンとしてはニヤリとさせられますし、また作中でも言及されているように特に化野燐作品の影響は色濃いものです。また中盤以降登場する事件の対策本部――日本妖怪愛護協会へとあぶれものたちが集まってくる展開は『シン・ゴジラ』パロディ的で、これも特撮と妖怪は相性がよいということを踏まえると納得の取り合わせと言えます。

特定の作者や作品、文脈を意識させるつくりは如何にもマニアックなジャンル小説という感じがあります。というか、めちゃくちゃハイコンテクストですね、これ。

そして何より注目すべきは選ばれたテーマ、題材です。
それがずばりなんと、【妖怪図鑑】。
何故これが注目すべきなのかと言いますと、非アカデミックな妖怪図鑑・辞典の類というのは昭和のオカルトブームから現在に至るまで膨大な量が出版されているにもかかわらず、妖怪の学術研究の分野ではほぼ言及や整理が為されてこなかったという来歴があるのです。おそらく相当な妖怪マニアでも、当該の児童書、ムック、コンビニ本等を全て把握している人は稀なのではないでしょうか。たとえば、今のところ佐藤有文らの業績を主要テーマに据えて分析した学術論文はゼロに等しいはずです。

しかし、学問的な研究対象となってこなかったとは言え、それら妖怪図鑑の数々が現代の妖怪文化の重要な部分を形成し、そして今も続々と出版され続けているのは間違いのないことで、そこに着目したのは慧眼と言わざるを得ません。同じ妖怪ジャンルで創作に携わっている身としては正直、やられた!という思いがあります。

オカルトものでは、インターネットで語られる都市伝説を題材とする作品は昨今すっかり珍しくなくなりましたが、そこで逆に書籍媒体のメディア性に言及したのは、実に上手い。

――が、一方でその取り上げ方としては、ちょっと危いかもしれないというのもあります。
と、申しますのも、本作品内で描かれるエピソードのいくつかはここ数年の間にSNS上で実際にあった出来事をモデルとしているのですね。
ソースの曖昧な創作妖怪がWikipediaで記事となっていたことや、オカルトライターと妖怪クラスタの衝突的やり取りの件などはその最たるものでしょう。これらは“ニヤリとさせられる”というよりもハラハラさせられる、という感じがあります。不特定の「妖怪あるあるネタ」ではなく、具体的な事例を挙げられるというところがくせものでしょうか。コアな時事ネタを巧みにフィクションに取り入れているとも言えますが、また同時にある種の炎上案件を作品のネタとすることは、あるいはその作品自体が炎上しかねない危険性を孕んでいます。誤解を恐れずにあえて換言させていただくと、まあ、些か趣味が悪い(笑)。
表現としては非常にリスキー、ある意味でとてもWeb小説向きの題材です。少なからず先鋭的かつ挑戦的な試みといえるでしょう。個人的には、こういう試みは大いに好みですが……。

あと、各話タイトルがサザンオールスターズの曲名から引用しているのもこだわりが感じられます。こだわりはジャスティス!

いずれにせよ、現代の妖怪文化とは如何様にして成っているのか、という題にこれでもかとこたえ、弾をぶちこみまくった情報量、熱量には感服。

この作品を読み終えたとき、あなたの「妖怪」に対する見方はどこか変わっているはず。

おススメです!