4. それは、魂の

 それを話し終え、アルテミスはひと息ついた。

『…………これが、わたくし達のはじまりですわ』

「……? 『わたくし達』?」

 話を聞いて、リースは不思議な心地だった。

 「驚き」というよりは「納得」だった。

 「なぜ」とは思わない。思えない。

 ――だって、「知っている」から。

 彼女は、知った。猫が最期に、何を願っていたのか。

 ――自分に囚われることなく、人の生を全うしてほしい、と。

 それは皮肉にも、残された者の行った行動とは、真逆のものだった。

 それは、つまり。

「……――私たち、最初は猫だったんだ」

『……やっと、思い出したんですのね』

 ――そう。

 リースの前世は、アルテミス。そして、その魂の先を遡ると。

 そのはじまりは、「猫」なのだ。

 まるで、魂の欠片が長い旅から帰ってきたような感覚。

 逆に、なぜ今の今まで忘れていたのかと思うほど、その記憶は色濃いものだった。涙までながれそうなほどの。

「おかしいな。どうして、今までずっと忘れてたんだろう」

『正確には「知らずにいた」ですわ。猫の記憶は、重い蓋をされていたものを、わたくしが開けたんですもの』

「え、そうなの?」

『そうなんですの。我ながらよく頑張りましたのよ?』

 ふふん、とアルテミスはすこしばかり得意げだった。そういうところは、彼女っぽい。

「……でも、どうして?」

 これは、聞いといてなんだが、なんとなく予想はついていた。

 だから、アルテミスも。

『解っているくせに、聞くんですの?』

 まるで、「当ててみろ」というような瞳だ。試しているのか。

 ならば、と。リースもそれに応じてみる。

「……クローディアと、ハウルさんの『魂』ね?」

『ご名答。ええ、それについては、あの従者も、何か動きがあるようですけれど』

「従者?」

 少し考え、ピンとくる。

「ジジのこと、ね」

『そうですわ。彼、本当にディアを慕っていますこと』

 クスクスと、笑みが浮かぶ。

「だってジジは、『クローディア至上主義』だもの」

『そうでしょうねえ』

 ――さて、と。

『では、やりますことよ? リース』

「うん、いこう」

 月は、決意を胸にして、空を舞う。

 ――魂の連鎖を、終わりにするために。

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灰色魔女は転生の果てに 月凪あゆむ @tukinagi

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