3. 最初の魔女といにしえの神
「――いつか必ず、友とまた語ろう」
少年はそう決めたが。
その「いつか」を待つには、人の心は脆い。
永い、ながい時の中で、少年の心の中に「もう一人」の人格ができた。
それが、後に「最初の魔女」と呼ばれる人格だった。
未来の魔女は、少年に呟く。
「もう、待つのも疲れたわ。あなたは、いつまで待つの?」
少年はこう返す。
「ぼくは、いつまででも待つよ」
「疲れないの?」
「それは……」
正直、少年だって気疲れしてくたくただった。ただ、意思だけは強い。
「ぼくは、あの猫と約束したようなものだ。約束は、守らないと」
「あたしは、もうイヤよ。こんなところに一人なんて」
「……なら、出てけばいい」
ボソリと言う少年に、魔女は、苦々しく返す。
「どうやって? あたしはあなたなのよ? 出れるわけないでしょ」
「本当にそうかな」
「え?」
意外な切り返しに魔女は目を瞬かせる。
「ぼくと君は、同じ魂だけど、一緒じゃないかもしれない」
まるでナゾナゾだ。
「ぼくはぼく、きみはきみ、さ」
「……やろうと思えば、別れられるの?」
「かもしれないね」
「どうやって?」
魔女は首を傾げてみるが、答えなどなく。
「んー……。わかんない」
――そんな時だった。「声」が降りてきたのは。
『――時はきたれり』
太い、男の声のようだった。
次に、スゥッと影が浮いた。
突然のことに、二人の人格の一人の体が、びくりと反応した。
「だれ!?」
「影」は囁いてきた。
『一人の器に、二つの人格。その身、別れたいとは思わんか?』
「え、なんで……」
『器を分けたいと、魂を別れたいとは思わぬか?』
追い討ちのように言われると、素直な気持ちのみが現れる。
「……できることなら、別れたいさ」
「でも、あたし達だけでできることではないでしょう?」
ククッと、影はわらう。
『我なら、それができるのだ』
「え、どうやって……」
『我は、いずれこの世の「神」となるものだから、だ』
「かみ?」
フワリ、影が二人を包み込む。
『取り引きを成そう。主らの「元」は、我と同じ者に。もうひとつを、この世の始まりの――そう。「最初の魔女」に。そうすることで、一つの魂を、別々の人格へと変化をしようぞ』
「……どういう、こと?」
『二択だ。これ以上は言わぬ。――応えよ』
どうしよう、とは思わなかったのは何故か。その選択は、はたしてその後にどう何を成すのかまではさすがに考えず。
「――わかった」
「取り引きに応じるよ」
音を合わせ二つの人格が応えると、影は「ククッ」と笑った。
『――成立、なり』
フゥッと、影が大きくなり、「場」が変化した。
そこには、多くの「影」がいて、一人のはずの体が、二つのそれぞれの体を持っていた。
その、いるはずのなかった「もう一人」は、女性だった。
それが、後の「最初の魔女」となる形だった。
ツヤツヤの黒髪は、緩くウェーブがかかって、腰まで長さがある。瞳は紅だ。
「…………」
驚きで声を失っていると。
『どうだ? あらたな自分は』
どこか楽しんでいるような声。
「……とても、不思議な気分」
彼女は、目を瞬かせ、手を動かして確かめる。
困惑しているところに、更なる「声」が響く。
『次に、そなたらに「名」を与えようぞ』
――最初の魔女と、いにしえの神、と。
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