12-大会前日

ゴールデンウィークが明けて大会前日の木曜日、明日からの大会の緊張からか授業もなかなか集中できないまま6限目が終わった。試験が近いというのにこれではまずい。


お昼休み、飲み物を買って教室まで戻っていたとき幼馴染に話しかけられた。


「あれ?涼太じゃんー…最近写真部来てないから、どーしてるんか心配だったんだよ!大会近いんだっけ?」


「あ、おう、ごめんよ写真部行けてなくて。大会は明日からだよ」


山岳部で忙しくて最近では写真部にも行けていない、幼馴染とこう話をするのも久し振りのような気がした。というのも僕は同じ駅から通う新しい男友達ができてから、幼馴染と一緒に話す時間がなくなってしまった。一緒に行動していて友達に見られたら恥ずかしいと思ったのも実のところ…。


「ええ!明日からなの?涼太も出るんだよね?」


そうだ大会のこととか話してなかった。


「もちろん!でも優勝して全国行けるのは先輩たち4人のチームだけだけどね。僕たちも一応審査はあるからしっかりやらなきゃなんさ!」


「本当?じゃあ頑張ってね、怪我しないように!優勝できるといいね!…あ、あと大会終われば写真部にも来てくれる?」


「ああ、行くさ!大会頑張ってくる!」


そう言って僕は格好つけて立ち去ろうとした、幼馴染の寂しそうな笑みに背を向けて。



放課後、僕は早足に生物室へ向かった。


生物室のドアを開けると大会メンバーの先輩たちは机に多くの装備を広げ、明日の大会に向けて詰めの準備を進めていた。


「よお、五十貝!2部は2部で準備するから河井の指示にしたがって!」


慌ただしく動いている先輩たち、部長が僕を見つけて声をかけてくれた。


「先輩方いつも早いですねー!」


「まあ今日は俺たち5、6限公欠にしてもらって準備してるからな。さっきまでテントとかの確認をしてたんだ」


「そうなんですか。頑張って下さい」


これ以上話しかけるのも悪いと思い、そこを離れた。


大会メンバーの使用していない机で河井先輩が腕を組んで待っていた。


「こんにちは、河井先輩」


「やっときたか、こっちは一人で準備してたんだぞ!とりあえず団体装備は揃えといたから確認しろ」


「ありがとうございます」


そこにはこの前書いた計画書の装備リストに従って団体装備が用意されていた。


テント用品、調理用具、医療用具、補修用具、銀マット3枚、ザイル、ツェルト、重量計…。


「コッヘルの中に入ってる塩が足りてないから買い出しの時に買うぞ」


と河井先輩がコッヘルの中のジップロックに入った空になった小さなプラスチックのボトルを持ち上げる。他の調味料はまだあるようだ。


「で神崎はまだこねーのか?買い出しの時間もあるから早くしたいんだけど」


「ホームルームが長引いてるんじゃないですかね」


「ったく神崎が来るまでエスパース張って確認すっか」


「そうですね」


エスパースとは4、5人用のテントの名称だ。

大会メンバーはこのテントで、部室にはもっと大きな6人用のテントもある。


「あ、五十貝!お前メインザックは持ってきてたよな?」


「持ってきましたよ、恥ずかしかったんですから」


昨日先輩に言われて今朝はメインザックを背負って登校してきた。団体装備を入れるために。

さすがにクラスには持っていけないのでメインザックの中にいつものバッグを入れて、メインザックのほうは部室に置いてきた。


それにしても今朝は恥ずかしかった。

メインザックを背負って電車に乗り学校まで歩いてきたのだが、多くの学生の視線を集めていた。

他の人とは一線を画したその巨大なザックは、電車内でも異質なものになっただろう。


昨日まで普通のリュックを背負っていたのに今日はこれからどこに行くんですか、というような目で同じ学校の女子がチラチラと見てきた。


目を逸らし外を見ようにも、朝のラッシュ時の混みいった車内ではこのザックは迷惑だ、身動きが取れない。


同じ駅から通う同級生にもなんでそんなでかいリュック背負っているんだ、と少し引き気味に問われた。

僕は山の準備だから、としか答えられず、その同級生は山岳部も大変だなと言って苦く笑っていた。


僕はテントを抱えながら河井先輩にそのことを話した。

すると河井先輩は意地悪く笑って、僕にポールも持てと突き出した。


「恥ずかしかったんかお前!ま、俺も最初は恥ずかしかったわ。でもそのうち慣れてくる。テニス部で言えばラケットを持ってくるのと同じ。大きさと形と用途が違うだけ。あきらめろ!山岳部の宿命だ!本当に嫌なら親に送ってもらえ!」


「ですよね〜」


仕方ない。

河井先輩は校庭に歩き出し僕も後ろについていった。


「うし!五十貝、そっち持て!」


校庭の端で野球部の邪魔にならないようにテントを袋から引き出し地面に広げた。


「テントの袋とかポールの袋、ペグの袋は飛ばないように服のポケットに入れとけよ」


「はい、本番ってこの下にグランドシートって敷くんですよね?」


「敷くよ、今は確認だけだから敷かない」


僕たちはポールを中に通し、ポールの反対側をテントのゴム紐に付いている穴に差し込む。


「立てるぞ!せーの!」


河井先輩と一緒にポールを押し込んだ。


テントがテントの形になるとフライを被せ、フライの内側に付いている黒いフックをテントの尾根の穴に通す。こうすることでフライがテントから外れなくなる、この作業を山岳部では「なかそと」と呼んでいる。


そしてテントをひっくり返して確認を始めた。


「どっか穴が空いてる場所があれば言えよー!ガムテープ持ってっから!」


「わかりましたー」


僕と河井先輩がテントの確認を始めたとき、校舎から神崎くんが走ってきて叫んだ。


「まじですいませーん!今から手伝いまーす!」


「おっせんだよ、いっつも!なにやってんだよ」


河井先輩が怒鳴る。


「だってしょうがないじゃないすかー、掃除が長引いちゃったんすよ。そこの担当の先生が全然返してくれなくてー、はやくいかなきゃって思ってたんすけど」


「言い訳すんな!今テントの確認してるから手伝え!」


「ええ!今河井さんがなにやってたって聞いたんじゃないですかー」


神崎くんは唇を尖らせながら僕たちに加わった。


テントを太陽の光に透かして穴がないか確認する、その繰り返し。


作業が終わるとまたテントを袋に丸めて戻し、生物室に戻った。

幸いにもテントやフライは破けたり穴が空いたりはしておらず、ガムテープの出番はなかった。

強いて不具合を挙げるなら多少入り口のファスナーが閉めづらかった所か。


「ペグも折れたり曲がったりしてあったやつは省いて使えるやつ選んどいた、医療用具と補修用具は中身が揃ってるやつ持ってきてる。良い団体装備はみんな1部が持っていっちまうから」


河井先輩が団体装備を眺めて言った。


「ありがとうございます」


「じゃ、1部の奴らが文句言う前に先生に買い出し頼むか、誰か白井先生に車だしてくれって言ってきてくんね?」


「俺が言ってきますよ、遅れましたし」


すぐさま神崎くんが答えた。白井先生とは顧問の先生のことだ。


「準備は進んでるかー、1部は2部が行ってきた後いくからなー」


神崎くんが先生を呼んできた。お金は顧問の先生がファスナーのついたメッシュケースに入ったお金で立て替えてくれるらしい。計画書に書かれた金額のお金は明日持ってくることになっている。


そのまま3人で先生の車に乗せてもらい、駅近くの大きなスーパーマーケットへ向かった。県内をチェーンで展開する赤色がイメージカラーのスーパーマーケットだ。


広い駐車場に車を停め、風除室でカートを受け取って店の中に入っていった。

顧問の先生は僕たちの買い物に干渉せず、車で待っている。買う物はアルファ米以外は生徒に任されている。


「よし、計画書の買い出しリストに沿って買っていくぞ、チェックしろよ」


計画書を取り出し買い出しリストを開こう、

として表紙が目に入ってしまった。

これでよかったのだろうか、そこにはネットで調べた赤城山の遠景が描かれていた。僕が鉛筆で下書きを描いてそれをボールペンで仕上げたものだ。

裏表紙には結局、この前買ったヤマノ◯スメのキャラクターを描いた。

他の高校がどんなクオリティーの計画書を持ってくるのかは未知数だが、少なくともみすぼらしく見えないようには描いたつもり。

お二方には好評だったが。


「まずは一番近い生鮮食品からだな」


河井先輩は入り口から入って右側にある生鮮食品コーナーへと進んでいった。

僕は神崎くんと河井先輩の後ろをカートを押してついていった。


「白菜、ネギ、人参…と…おい!全部適量じゃねぇか!手抜きか!」


河井先輩が神崎くんに振り向いて言う。


「適量で良いって言ったのは河井さんじゃあないすか!」


「ああ?そうだっけ、まあいいや」


とぼけたように河井先輩が自分の頭を掻いた。


「白菜は半玉でいいか、ネギは2本が1組になってるからこれでいい。余れば次の日のうどんに入れればいいし」


「人参はどうします?1本すか2本すか?」


「人参はー、2本ぐらいでいいだろ」


そのまま買い物は進んでいった。


ある食品コーナーにくるまでは…。


「キノコぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


急に神崎くんがバカみたいに叫んだ。


「そうだああ、キノコってのがあったんだ、河井先輩ー、えのきだけでいいんじゃないすかー?俺言ってなかったんすけど、キノコあんま好きじゃないんすよ」


それを聞いて河井先輩はフッと鼻をならしこう返した。


「何舐めたこと言ってんだ!実はこっちも言ってなかったことがある。あのな顧問の白井先輩はキノコがだーい好きなんだ。いつも入れてるし沢山いれるからな!白井先生は俺たちのテントに泊まるんだから!」


「ええええ!まじすかーーー!俺食いませんよ!?」


「いいや食わせる!よーし五十貝!キノコもってこい!えのき、しいたけ、しめじ、舞茸!」


「かんべんしてください!地獄だ!」


河井先輩と神崎くんがいがみ合う、キノコ持ってくるんでそこどいて下さい。

あと買い物客の邪魔になってます。


神崎くんは完全に意気喪失し、ムスッとした表情になってしまった。


こんどは肉のコーナーへと進んで行く。


肉は豚肉、薄切り肉500gぐらいのパックをカゴの中に入れた。


うどんは袋入りの茹で麺を4つ、ボトルの鍋の素、パンは菓子パンとバターロールを適当にカゴの中に入れてゆく。山岳部の適量は本当に適当なんだと分かった。


その他には即席ラーメン、乾燥具材、非常食としてビスケット、カルパス、チョコレートとカゴの中に入れていった。


買い出しリストにチェックが全て入ると、3人でレジに並んだ。


ケースに入ったお金で会計を済ませ、袋に入った食料を車へ運ぶ。

すると、


「おーし、神崎、五十貝!自分の買いたいものがあったら買ってきていいってさ!」


「いいんですか!?」


河井先輩が僕たちにそう言って自分の財布を持って再びスーパーへと向かった。


良かった、これで家に帰ってからまた買い物に出かけなくていい。


僕もスーパーに戻って、行動食を買って行った。


ポカリスエット、スナック菓子、グミ…。


神崎くんもお菓子を抱えてレジに並んでいる。


買った後神崎くんにレジ袋の中を見せてもらうと、ポテトチップス、ポップコーン、沢山入っている。


「こんなに食べんの?てゆーか持っていける?」


「持っていくに決まってんじゃん、涼太こそ少なすぎじゃね?」


いや、神崎くんこそそんな食べる時間ないでしょ、まずザックに入らないと思う。


言わなかったけど。



学校へ戻ると、食材を分ける作業に入る。

河井先輩に指示されその通りに食材を分けていく。


「肉はそのままパックからだしてジップロックにいれて、野菜はまな板でジップロックに入るように切ってキノコはキノコでまとめろ」


河井先輩が棚から大量のジップロックを取り出す。


「河井先輩、包丁は前の机に置いてあるナイフ使っていいんですか?あとまな板は?」


「使っていいぞ!まな板は団体装備の所に置いてあるやつをつかえ!あとで洗っておけよ!」


まな板とは…このペラペラしたプラスチックの板のことだろうか。


「これですか?」


「それだ」


僕はそのペラペラのまな板を敷いて食材を大雑把に切る。

神崎くんも言われたように用意をしている。


パンも入っていた袋から出して、ジップロックに詰めるという。

なんでもかんでもジップロックに詰めるのか。


そしてうどんやラーメンも含めて日ごとに分けてビニール袋に入れ、そして最後に白いガムテープに〈2日目夜〉という風にマジックで書いてビニールに貼ってゆく。


非常食もチョコレートやビスケット、カルパスを4人分に分けてジップロックに入れる。


食材の袋詰めを終えると、棚の近くにいた神崎くんに河井先輩が指示を出した。


「食材は準備終わったな!神崎!そこの棚の下に予備食のラーメンがあるから取り出してくれ」


予備食ってなんだ?その疑問を神崎くんが聞いてくれた。


「河井さん、予備食って非常食のことじゃないんすか?」


「バカかお前は!非常食とは別の欄に書いてあったろーが!予備食は何かが起こって、もう一泊とかしなきゃならなくなった時のみんなの食事だよ!合宿のときは持っていくの!非常食は個人!」


「そうなんすか」


神崎くんは一番下の棚から即席のラーメンを取り出した。

確かに〈予備食〉とテープが貼ってある。…いやに年季を感じた。

たぶん何回かこの予備食は合宿を経験しているのだろう。


「賞味期限とか大丈夫なんすか?」


「大丈夫だ!くれぐれも期限とか見んなよ!」


河井先輩が押し通した。



食材の用意が終わるといよいよ団体装備の振り分けとなった。

顧問の先生は持ってくれないらしいのでこの三人で分ける。


すると河井先輩が適当に食材も含めて団体装備を3人分に分け始めた。


僕らは何もできないので河井先輩が振り分け終わるまでそれを見ているしかない。


振り分け終わると、


「よしじゃんけんだ!」


河井先輩が拳を突き出した。


「じゃんけんで誰が持つか決めるんですか?」


「そうだ、恨みっこなしな!いくぞー」


まじか!これは勝たなくては!


3人で拳を構える。



…じゃんけん……ほい!



…これは…勝ったか


やったぞ、一発だ!よし、楽そうなの選んでやる!


「勝ちました!自由に選んでいいんですね!?」


「ああ、いいぞ!テントがいいぞ!五十貝、テント持て!」


「そうだぞ!五十貝テント持ってくれ!きっと軽いぞ!」


横から投げられる野次は無視して、三等分された団体装備を見る


大まかに説明すると全員銀マットは一人一枚持って、その他に団体装備を分担する。

テントを持つ人、コッヘルを持つ人、ガスボンベやコンロを持つ人に分けられている。


楽そうなのは…テントは嫌だしガスは重そうだし、


コッヘルでいっか。


僕はコッヘルを手に取る。

横の二人も勝敗が決まったようだ。

僕の次に選んだのは河井先輩だった。

河井先輩はガス、コントを選び、神崎くんはもれなくテントとなった。


神崎君は、なんで俺がテントなんだよ!とブツブツ文句を言いながら自分の団体装備を持って行く。


そのタイミングで顧問の先生が生物室に入ってきた。


アルファ米と大会の地図を持ってきてくれたのだ。


「アルファ米は3人で自由に選んでいい!あと地図は必ず防水にしてウエストポーチにいれること、あと明日は前橋駅に三人で集合して、そこから開会式の会場まではバスだからね!私は1部のメンバーと朝早く車で行ってしまうから、何かあったら電話かけてくること!いいね!」


顧問の先生はそう言って生物室から出ていった。


今日、1部大会メンバーは学校に泊まり、明日朝早く開会式の会場へ向かうらしい。

1部と2部で開会式の場所、コースが異なるので2部は2部だけで行動することになっている。

リーダーは河井先輩、明日は10時半受付開始なので9時に駅集合となっていた。


「おし、もう帰りたいから荷物ザックに詰めちゃうか!ザックはでかいビニール袋を中に入れて、必ず防水しろよ!でないと雨降ったら大変なことになるからな!アルファ米はーさっきじゃんけんで負けた順でいいか!」


河井先輩がアルファ米を袋から取り出すと、やったー!と神崎君が選び出した。


団体装備は勝ったんだし、このくらいは譲るか。


神崎君は笑顔で〈牛飯〉と書かれたアルファ米を握りしめた。おいしそうだ。

河井先輩は〈チキンライス〉を、これもおいしそうだ。


さて、最後の一つはと…


僕も袋の中に手を入れ、最後の一つを取り出す…


〈わかめごはん〉


わ、わかめごはん?

なんで先生はここにきてわかめごはんを選んだのか、いや別に期待してたわけじゃない。まずいと決まったわけじゃない、案外牛飯やチキンライスよりもシンプルなこっちのほうがおいしいのかもしれない。

うん、きっとそうだ。



それから僕たちはザックの中に大きなビニール袋(といっても学校で使っているゴミ袋なのだが)を入れて、団体装備を詰め始めた。


僕の担当する団体装備は銀マットとコッヘルの他に、ハンマー1本・風防・コンロ台・炊事用の雑具・まな板・調味料(塩がなかったのでスーパーで買った塩を詰めた)・レジャーシート・補修用具・一日目の夕食が僕の担当だった。


アルファ米とお昼のパンは個別に持つ。


三人で分担するので一人当たりの団体装備が多い、これで個人装備まで詰めたら本当にザックがパンパンになってしまうだろう。


「あ、俺迎え来たからいくな!肉は冷凍して明日の朝渡すから!装備忘れんなよ!米は一合、研げないから無洗米のほうがいい!明日は絶対遅れんな!」


と言い残し、河井先輩は大きなザックを背負って生物室から出て行った。


「なあ五十貝、明日の朝なにでくる?」


「僕は最寄り駅まで自転車で行ってそこから電車で行くと思う」


「そうか、俺は明日なにで行こう、親に乗せていってもらおうかな。親送ってくれるか分かんないけど。とにかく不安だー、河井さんと3日も一緒に過ごすとか…。

しょうがないか、じゃ五十貝また明日な」


神崎君は力なくそう言うと自転車置き場に行ってしまった。神崎君は学校まで自転車で通っている。



はあ、僕もこれから電車で帰るのか、めんどくさいな。


僕もまた、膨らんだザックを背負いながら群青色の空の下、通学路を帰っていった。



電車内では部活帰りの生徒たちから珍しそうな視線を受け取りつつ、黙って窓の外を眺めていた。

今度からは絶対親に送ってもらおう、そう心に決めた。


家に帰ると早速、個人装備の準備を始めた。


個人装備は計画書の中にある装備表にチェックを入れながら準備をしてゆく。


服、行動用具、生活用品…。


服は下着の替えを圧縮袋に入れて、明日着てゆく登山服はすぐに着替えられるようベッドの上に用意した。帽子は雨蓋の中へ。


サブチェックというものがあり、サブザックの中に入れるものは装備表にチェックが入っている。

サブザックは一日目は使わないので、小さく丸められるリュックを袋に詰め、メインザックに入れて持っていくしかないだろう。


ウエストポーチには小物類、ナイフやライター、コンパス、ヘッドライト、軍手などを入れていった。

備考欄に防水と書いてあるものはことごとくジップロックに入れて、空気を抜いた。

親に、そんなにジップロックを使わないで!と言われてしまったが、濡れてしまったら元も子もない。


コッヘルを拭くのでロールペーパーは多めに、ポリタンクにはもう水を入れておこう、タオルも多めに持っておくべきか、カメラは…邪魔になりそうだから今回はコンデジにしよう…


そんな感じで装備を揃えていると小一時間ほど準備に使ってしまった。


親にご飯だよーと何度も言われ、ザックに詰めるのは後に回した。


食卓につくと、母が嘱望に満ちた眼差しで僕を見てくる。


「まさか涼太がねー、大会に出られるなんて嬉しいよ、これから期待してるからね!いつか涼太もインターハイにいけるといいだけど!」


「別に今回は山岳部ならみんな出られるし!来年は1部に入れるように頑張るよ!」


父も大会頑張って来いと言ってくれた。


この自分に期待されている感覚、気持ちがいい。


運動部の大会に出場するなんて、2ヶ月前には考えられないことだった。


夕飯を食べ終え、メインザックに荷物を詰める作業を始めた。

左右で偏らないように、バランスよく周りから見ていびつな形にならないように、座学講習会の時に教えられた通りに詰めていった。


案の定、メインザックはパンパンになってしまった。スナック菓子の袋系は入らないのでジップロックに詰めて入れた。割れてしまうのは不可避だが。


完全に詰めてバックルを締めると、ザックがカッコよく見えた。

やっぱり中身が空の時よりも山のザックとして様になっている。


これを背負って山に登るんだ、本当にテレビで見る登山家みたいだ。



明日からの大会、不安もあるけど山と他校との交流を楽しめればいい、そう思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

やまんちゅの森 たけゾー @11378538

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ