ダイエットはじめました

柳人人人(やなぎ・ひとみ)

21gのダイエット

私があなたを好きになった日。

私はダイエットを始めました。

振り向いてくれるには

どうすればいいか分からなくて。

なんでもいいから

始めてみようと思って。

今日からダイエット。

まずは食事制限してみます。




ダイエット初日。

はやくも0.5kg減に成功!

……なんて。

誤差ですよね。

食事の前後くらいの誤差。

でも

目標はまだ遠いけど

こんな小さい数字でも

励みにしてがんばります!




ダイエットから一週間。

効果が出てきました。

なんと5㎏減!

鏡に映った自分の姿も

こころなしか

ほっそりしています。

うれしい。


けど。

これからが本番。

リバウンドしやすい時期。

天敵です。

今は贅肉を削いだだけ。

次は肉体を磨かなきゃ。

すこしずつ体を磨りつぶすように。

気を引きしめて

引き続きダイエット

がんばります。




ダイエット生活、三週間目。

太腿も お腹も

二の腕も 指も

ちょっと細くなった実感があります。

ここのところ

減らなくて 停滞してて

困ってたけど。

なんとか乗り越えられそうです。

最近 食べなくても

お腹が鳴らなくなったので

大丈夫です。

ときどき

ふとしたとき。

衝動的な食欲が

おそうこともあるけど

平気です。

食べたら食べたで

トイレで処理しますので。

大丈夫です。

ダイエットは滞りないので

大丈夫です。




一ヶ月が経ちました。

皮膚がカサカサ。

唇はヒビ割れ。

髪を梳かすと

櫛に毛が絡まっています。

たくさん

たくさん

たんたんたん。

鏡を見ると

目の周りにクマが。

最近眠れないのです。

横になると

息苦しくて。

息が

口とか

喉とか

肺とか

あばらとか

こすれて こすれて

気になって

眠れないんです。




ダイエットから……

何日が経ったでしょう?

いち、にぃ、……三カ月?

ちょっと確信がないです。

近ごろ頭がぼぉーとして

いつも肌寒くて

服が重くて

倒れそうです。

体が震えていつも揺れてて

ここちいい。

とても とても

ここちいいんです。




削らなくちゃ

細くしなくちゃ

もっと、もっと。

尖らなくちゃ。

じゃなきゃ、あなたに届かないから。

だから、もっと頑張ります。

もっとあなたに刺さるように。

この想いが届きますように。

こころ 尖らせなきゃ。




ダイエット

ダイエット

ダイエット

ダイエット

ダイエット

ダイエットダイエットダイエット

毎日ダイエットいつもダイエット

ダイエット明日もダイエットット

つねにダイエットでダイエットを

ダイエットがダイエットしてダダ

ダダダダダダイエッっダダダダダ




ダイエットしなきゃ。




つらい

くるしい

こわれそう


でも

そんなとき

あなたの言葉を思い出す。


「もし自殺するなら」

あなたを好きになった日。


「遺書にはだれかの名前を書かないようにしたい」

私が自殺しようとしてた日。


「友人でも兄弟でも親でも恋人の名前でも」

思いとどめさせた

あなたの言葉。


「だって『自分が自殺するのは貴方のせい』って言ってるみたいだから」

もうすこしだけ

頑張ってみようと思った

あなたの言葉。


「『もし貴方が助けてくれたなら、手を差し伸べてくれたなら、自分は死ななかったのに。まだ、生きられたのに』って」

あなたの言葉が

私を勇気づけてくれます。


これが

あなたのための

痛みだと思えば

ここちいい。

たましいが

かるくなって

すごく すごく

とても とても

ここちよくて

がんばれる。

あと なんグラム

けずれるかな?




もう

しょくじ すいみん

取っていません。

なにか食べても

体が拒否します。

胃が掃きだします。

砂の味がする

食べ物にも満たないものを

ぜんぶ戻します。

眠たくても自重が保てなくて

すぐ目が覚めます。

もっと痩せろ、と。

私の体が言ってるみたい。


ダイエットしなきゃ。


だって私には

あなたと一緒にいる権利が

まだないから。


だって私には

あなたへの恋愛感情以上の

余計なものは要らないから。


あなたの写真

いっぱい撮ったんです。

あなたは知らないけど。


あなたのゴミ

たくさん拾ったんです。

あなたは知らないけど。


あなたの合鍵

なんこも作ったんです。

あなたは知らないけど。


この体とこころを

あなただけ考えられるように

あなただけ思えられるように

あなただけで満たしたくて。

いろいろ


ダイエットしなきゃ。




明日からあなたは旅行へ。

彼女さんと二泊三日そうです。

あなたのとなりに

私はいらないって

最初からわかって

ました。

わかって

わかって

わかってます。


ダィエットは最後の仕上げします。

21gのダイエット。

たのしみだなぁ

たのしみだなぁ

ほんとうに

たのし














私は息を引きとりました。

享年十八歳。

遺体わたしの体重は19kg、身長は147cmでした。

餓死です。

半年以上ろくに食べず

食べても吐きだすをくり返し

最後の四日間は

水すら口にしていませんでした。

警察は

私の努力ダイエット

どれだけしてきたか

あなたに伝えてくれるでしょう。

だって

あなたの家の、

あなたの部屋にいた、

遺体わたし

旅行帰りのあなたが

第一発見者

見つけてくれましたから。


取り乱して、

吐いちゃって、

私の好きな人は

とても可愛かったです。


私の手元には白封筒があります。

『遺書』と書かれた封筒です。


あなたはそれを

手に取って

中身を

読んでくださいました。

一番

一番

最初に

読んでくれました。


それを読んで

どう思いましたか?

ちゃんとこころに刺さりましたか?


私の遺書ラブレター


深く、どの言葉より深く

友人より 家族より 恋人より

深く 深く

あなたのこころの中へ

刺さってくれましたか?


ううん。

すでに分かってます。


私が死ぬ瞬間

からだが軽くなったのを感じたから。

私のダイエットは成功したから。

私はこうしてあなたといるから。

あなたのこころに

すでに『私』がいるから。

一緒 一緒 ずっと一緒だよ


そのために

遺書には『あなたの名前』だけを

書いたのですから。


そのために

こころのダイエット

したのですから。

たましい21gのダイエット

したのですから。


あなたに忘れられないように。


これから

ずっと一緒。

あなたと これから

21g

あなたの中に

ずっと ずっと ずっと……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ダイエットはじめました 柳人人人(やなぎ・ひとみ) @a_yanagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ