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少年は感謝の念をこめて、その魔法の針と糸を、魔法使いに返そうとした。すると魔法使いはこう告げた。
「さっきも言いましたが、あなたの傷はまだ完治したわけではありません。その魔法の針と糸はあなたの傷が完全に癒えた時に返してもらうことにします。その間、魔法の針と糸をどう使うかはあなたにお任せします。念のため、この烏があなたの行動を監視はしますが、よほどのことがない限り、魔法の針と糸の使い方に口出しするつもりはありません。私はただあなたの心の傷が一日も早く完治することを願うばかりです」
魔法使いはそれだけ言い残すと、現れた時と同じようにふわりと風を舞い起こし、あっというまに姿を消していた。
こうして少年の心は、ほんの少しだけ良くなった。だが実際は、魔法使いの言った通りに、完全に傷が癒えたわけではなかった。心の傷は時折、針が刺すような痛みを伴った。しかし最初の頃の鋭い痛みと比べ、まだ軽い痛みであった。
少年は考えた。自分のように傷ついている人は、たくさんいるに違いない。ならば、この魔法の針と糸を使って、他人の心の傷も縫い上げるべきではないだろうかと。例え完治しない傷であったとしても、何もしないで手をこまねているよりかは、それはとても良いことに思えた。早速少年は、人々の心の傷を縫い上げる仕事を始めた。心からたくさん血を流している人々は、数え切れないほど、あふれていた。それでも少年は傷を縫い続け、いつしか少年は青年へと成長していた。
けれどもどんなにたくさんの人々の心の傷を縫い上げても、彼が負った心の傷が癒えることはなかった。青年はただ淡々と人への手助けと仕事として、人々の心の傷を縫い続けた。
そんなある日のこと、青年の下に一人の少女が現れた。彼女もまた辛いことがあったためか、心からあふれんばかりの血を流していた。
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