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今までにこにこしていた魔法使いは寂しげな表情で、その少年の心の傷をじっと見つめていた。
「あなたには僕が傷ついているのが分かるのですか」
「ええ、分かります。心がとても傷ついて、今もその傷から赤い血が流れ出ているのを」
魔法使いのその言葉に、少年は驚いた。
「私が手伝うことができるのは、この魔法の針と糸をお渡しするぐらいしかできませんが」
「魔法の針と糸? 」
「心の傷を縫うための魔法の針のと糸です。残念ながら、これを使って私があなたの傷を縫うことはできません」
魔法使いはそこでいったん言葉を切ると、小さな静かなため息とともに、少年に言った。
「私にも傷は見えますが、正確な位置は分かりません。本当に深く傷ついた者にしか、その傷を縫うことはできないのです。あなたなら、できるはずです。それからもう一つ言わねばならないことがあります。たとえ傷を縫ったとしても、心から流れ出ている血を止めるだけで、本当にその傷が完治するわけではありません。傷を本当に治す方法は、誰にも分かりません。ですが、血を止めることができれば、少しはあなたの心の傷も癒されるかもしれません」
少年は魔法使いの言われるままにその魔法の針と糸を素直に受け取った。すると少年の胸の真ん中に、丸い月のような美しい円が現れた。その円の中にはひび割れた灰色の線があった。その線からあふれんばかりの血が流れ出ているのを、しっかりと見つめた。少年の手は自然と今何をすべきか、何もかも知っているのかのようにその光り輝く球体の線を、魔法の針でゆっくりと静かに縫い始めた。傷があまり痛まないように、他の部分に傷つけないように縫うことは、そうたやすいことではなかったが、彼はやり遂げた。縫い上げてみると、血が流れ出ていた時と比べると、随分と痛みが和らいだ。
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