魔法の針と糸

はやぶさ

少年の心は傷ついていた。それはある人のなにげない言葉だった。けれどもその言葉は心に傷を与え、赤い血を流させるには十分な凶器となった。言った本人は次の日になると、そんな言葉を言ったことすら忘れ、いつものように笑顔で応え普通の生活を送っていた。

傷を受けた少年は、いつもと変わらない相手の様子に、怒りにも似た悲しみと、胸を切り裂かれるような痛みを感じた。

「痛い、痛いよ」

目に見える外傷ならば、少年もまた大きな声でそう言えたに違いない。けれどもこれは心の傷。痛いということも言えず、自分自身も傷ついているのか、いないのか、それすらも分からない傷だ。 自分で言わなければ傷ついていることも分からないそんな傷に、いったい誰が気づくというのだろうか。


少年は心の傷と誰にも言えない悩みの中、夜の家の側の木立ちの間にうずくまっていた。

『ああ、誰にも言うことはできない』

心の中でそう呟いていると、突如ふわりと風が舞い上がった。何事だろうと思い、後ろを振り返ると、そこにはとんがり帽子をかぶった、小太りのお婆さんが、にっこりと微笑んでいた。思わず少年も、そのお婆さんの微笑につられて、笑みをこぼした。お婆さんは樫の木で作られた杖を持ち、肩には黒い烏を乗せていた。

少年はこんなことを聞くのは非常に馬鹿らしいと思ったが、それでも聞かずにはいられなかった。

「ひょっとしてあなたは魔法使いですか」

そう聞かれたお婆さんは

「そうですよ」と、一言答えた。

「魔法使いさんが、僕にいったい何の用があるのでしょうか」

「あなたがあまりにも傷ついているので、何かお手伝いできることはないかと思って出てきたのです」

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