GATEスライダー

星野フレム

CODE00:タイムスライダー

 西暦三千二百十三年。人類が第三世代へと進化した時代。人も機械も超えた新たな人類達が、宇宙の中で暮らしていた。二百年前、重力制御装置の開発に成功した人類は、第二世代人類と呼ばれ、今の第三世代人類は、それから丁度百五十年後に誕生した。しかし、多くは兵士として利用されていた為。彼ら第三世代人類は、旧第二世代人類の支配下にあった。そして、その中で一つの人格とも言えるコンピューターヒューマノイドは作られた。ヒューマン・シャドー・ホログラフィ:P38と名付けられた彼は、自立型IQ搭載型のシェルアーマーのコア・コンピューターだった。彼の姿がシェルアーマー本体となるまで。第三世代人類は、彼に旧世代から、現時点の時代までの学習をさせていた。当然彼は記録していく。だが、その彼の判断が、今まさに下されようとしていたとは、第三世代人類達も気が付いてはいなかった。

この時代は、GATEスライダーと呼ばれるシェルアーマーが、産業から個人利用まで多岐に渡っており、素材は主に宇宙の鉱石から作られていた。多くのGATEスライダーは、作業用として用いられており、高度なレベルのシェルアーマーになると、ターミナルゲートセンターと呼ばれる場所を介して、タイムジャンプ。つまりタイムトラベルを行うことが可能になっている。そんな中、軍として製作に当たっていたGATEスライダーのオリジナルが、完成されようとしていた。そして、軍用GATEスライダーの監視下。彼は宇宙空間内でのテスト飛行をしていた。

 タイムスライダーと名付けられた彼は、IQ回路を高速に動かしていた。自分の置かれている状況。そして、この状況下からいかに脱出の糸口を見つけるか。彼の演算能力は、優秀と言うものを既に超えていた。人間では絶対に出来ない思考回路を持ち、且つ彼独自のパターンは、人間で言う思考のパターンではなく。人間が知恵を出すというパターンまで追いついていた。言わば、彼はタイムスライダーと言う名の機械的生物であると言える。そして、彼の人類で言うべき『暴走』と言うモノが始まる。タイムスライダーには、数々の実装兵器が装備されており、自立プログラムを介せば、それらを消費しても自ら作り出すことも可能。それ故に彼は、兵器を搭載された時から、人類側の高度セキュリティでも見破れない高度なプログラムで、自力での脱出プログラムをシュミレーションしていた。それは、人類側からすれば、ただのバグで問題無いとされていたのであった。

 さらに彼には、人類の創り出した結晶とも言える動力炉を持っている。そのほぼ無限に動く動力炉は、彼のこれから起こす行動全てを可能にする値であると確信した時、事は起こる。タイムスライダーを囲んでいた、軍用GATEスライダーの第三世代人類のパイロット達のコックピット電子ホログラフィ映像に異常なまでの時空変異が計測されてゆく。その変異は徐々に拡大し、軍用GATEスライダーのプログラムに異常を起こさせるほどになっていた。全パイロットに手動操作の命令が下される。第三世代人類の兵士達は、手動操作など軍のアカデミーでの二週間きりでマスターしていた為か、全員余裕を持っていた。それが油断であるという事を彼らは確信していなかった。機械に頼りすぎていた過信。それを知らない兵士達は、これから絶望するであろう事など思いもしない。時空変動の元は、タイムスライダー自身から放たれていた。それは、彼が今からタイムトラベルを行う為の行動。兵士の内、いち早く気づいた者は言った。このままでは時空系列で、タイムスライダー諸共。全機の軍用GATEスライダーが、その時空異変による余波に巻き込まれる事を。

「隊長! このままでは危険です!」

「解っている! クソ! オートじゃなきゃ慣れてない自分を呪うしか無いのか!」

『GATEシステム・オンライン』

「な! 誰だ? 誰が今オンラインになってる! おい! 何でもいい! P38を止めてくれ!」

 瞬時、答えるように白銀の機体が兵士達の前に現れる。洗練されたそのフォルムは、特にその色が目立つ。機体の右肩には、F49と刻印されていた。長細い銃らしき物をP38に向け、撃ち放つ。閃光が真直ぐにP38に飛んでいく。機体の頭部を破損させることに成功したF49の機体は、次にコア・コンピューターを狙う。しかし、寸での所でP38は、その場を離脱。助かった兵士は、銀色の機体のパイロットにコンタクトする。GATEスライダーである事に間違いはないが、その機体は兵士達の知らない機体だった。荒々しく響く軍用GATEスライダーからの無線。

「俺は、ガルロ・エニウス大佐だ! お前の所属は何処だ? ……いや、そんな事より何故、ここを知っていた? 軍関係者か?」

「……」

「おい! 何とか言え!」

「フィリス・ホーン少尉であります」

「女? いや、すまん。助かった。今の余波で全員のGATEシステムがイカレた。軍関係者なら話は早い、救援を呼んでくれ! 俺達はオートしか慣れていない」

「既に救助は呼んであります」

「了解した」 

 ガルロの返事を聴くと、F49とネームされた機体に乗ったパイロット、フィリスは辺りをくまなくレーダー検索する。もう、何処にもP38の移動痕跡は残っていなかった。タイムスライダーとネームされた機体であるが故に、エネルギーは軍用や常用機体とは違い、特殊なモノだった。熱光路を持たないP38は、さながら人の体と同じように、通信機を失った宇宙浮遊兵達の様に解りにくい構造になっている。フィリスは、舌打ちをすると、ガルロ達を置いて、P38の行方を捜しに行くところを、ガルロに止められる。

「アイツには熱源が無い。ホーン少尉、追っても無駄だ、感知出来ないだろ?」

「エニウス大佐でしたね」

「ああ」

「軍上層部で、貴方達の処分が決まったそうです」

「何?」

「兵役を全員降りて貰うという内容だそうです」

「何だと……!」

 その一言を通信すると、フィリスの乗るF49の機体は、そのままそこから去って行った。

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