第3話

部屋中に光が満ち、次第に広がる温もりはきっとこの神特有のものなのだと3人は直感的に感じた。それが何故、なんてものはとうてい説明は愚か理解さえもできないものでただそう感じさせられるというのが一番近しい回答だと思われる。

「何度もすまないね、君が来たことで状況が少し変わった。」

再び姿を現した大国主は真っ直ぐに優を指さしてそう告げた。色々考えのあった大国主だったがこんなにも早い展開は望んでいなかったらしい。指をさされた優、及び雷は一瞬の戸惑いとともに申し訳ないような空気をまとわされた。

「簡潔に言おう。私は彼女にここを任せた。ここは彼女の妖力である程度扱うことが可能にしている。経緯は彼女から聞くといいが、彼女をここから追い出そうとすることや彼女へ危害を加えようとすることは経った今から私が許さない。君はその証人となる。……いいね?」

温厚な中の、威圧。言い方は優しく柔らかな雰囲気を持ちながらも絶対的に逆らわせない言葉に優は頷くことしか出来なかった。多少の力があるとはいえ、所詮は人の子。これに抗える力などたかが十数年生きた程度の小童にはあるはずもない。

「よろしい。じゃあ君たちにはそもそもお願いしようと思っていたことなんだけれど……」

続く言葉はまた、優を半ば強制的に頷かせた。……が、それは優にしか聞こえない言葉であったことに私も雷も戸惑いを隠せなかった。神が、それも大国主が直々に人の子に頼むようなことなんて微塵も考えが浮かばない。そしてそれは少しだけ長かった。


「じゃあ、今度こそお暇するよ。騒がせてすまなかったね。」

軽い挨拶をしてこの場を後にする大国主をただ操られるように形式ばったお辞儀をして見届ける他なかった。彼が去ると同時に部屋を満たしていた光も淡くなっていき、ついには儚くも消えた。名残か、少しばかりの暖かさだけがこの部屋を満たして、今度はついさっきまであった光とは違う冷たい月明かりが部屋に差し込みぼんやりと照らす。

「……分かったら、もうここを出てはくれないか。」

口をついて出たのはただそれだけだった。緊張や警戒を繰り返しさせられては疲労も溜まるものだ。今までも緊張や警戒は慣れきってしまうほどにはしてきたけれど、それは継続してのものであってこうも断続的なものではない。どちらも疲弊することに変わりはないがどちらかと言うと自分は継続の方が楽に思える質故に今日は疲れが何にも勝る。

「今日のところは帰るわ。」

雷の方はあっさりとそう切り返した。が、すんなりと返事をしなかったのは優の方だった。

「……優?」

「え、あぁ……悪い、少し考え事をしていた。今日は帰るよ。」

名を呼ばれて歯切れの悪い反応をした優はそう言ってやっと立ち去ろうとした。やっと眠れる……!!そう思うことしか出来なかった。それだというのに、この男は

「また明日。」

などと戯けた事を吐かした。

(明日などあるものか。)

そう言い返そうとしたが、口は重たく開かなかった。あやつの言葉を否定出来ないまま、相手は立ち去ってゆく。動かねばならない、言わねばならない、そう思う反面で体はいうことを聞かない。まるで今までの蓄積がどっと押し寄せたかのようだった。視界は霞み、瞼が落ちる。完全に二人の気配が社周辺から消える頃にはもう深い眠りの中に落ちていた。

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怪しい瞳にご用心 狐狗羽 @Kokuu04

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