第2話
少女…いや、妖狐にとって、突然大国主がくるなんて予想外な自体だった。それに加えてなんだかよくわからないが妙に優しくされたような気がしていた。どう抗っても、妖狐であることにかわりはない。しかも、最も妖力の高いとされる空狐。それなのにどうしてここに居ることを認められたのか……。下手すれば攻撃してくる可能性だって捨てきれるものではなかったはず。そんな状況であったのにも関わらず、どうして……などと、読めぬ神の思想を考えるのを億劫に思うなるほどには疲れが現れていた。
(とりあえずここに住める。今はそれだけでいいじゃないか。……今は、それで。)
少し強めの結界を張りなおすと眠ることにした。この結界なら破れるのは神や上級の妖くらいで、それを幾つか重ねれば大丈夫だと安心して変化を解いていた。……それが大きな誤ちだった。
少しして、周囲の騒がしさで目が覚める。……微かに人の言葉のようなものが聞こえてた気がする。加えていえば、臭い。人の臭いだ。
「……こいつは…」
それはもうすぐ近くにいて見つけているらしい。……ならば、と、術を使って消えて見せる。ただそれだけ。うまくいけばちゃんと逃げられるはずだった。今までもそうだったのだから、今回だってそのはずだった。……なのに。
「……おい!消えたぞ。」
「そこにいるわ。でしょ!!」
ドンッ
「カハッ……なんでっ…!?」
鈍い音は何かの攻撃が見事に腹部に命中し立てた音だった。とにかく、と完全に出る前に変化する。もちろん人に、だ。敵が人ならなおのこと。まさか消えた後の動きが読まれるなんて今まで一度もなかったけれど……。
「やっぱりただの狐じゃあなかったわね。」
「あぁ……妖狐確定、だな。」
相手はただの人間じゃない……しかもけっこう強いしそこそこな妖付き。どうりであの結界が全て解かれたわけだ、と納得する。
「……強いのね、君たち。」
勢いで変化したせいか人の女に化けていた。特段支障はなかったが、口調は意識せざるを得なかった。
「お前は何者なんだ?」
「……普通、聞くときは自ら名乗るものなんじゃないの?」
素直に応じるつもりなんかなかった。だから敢えて危険を犯してこう言った。もしヤバイ相手ならば、この時点で殺られる。
「え、あ、悪い。」
少し申しなさげな様子を見せて一言そう簡単に謝ると男は本当に名乗ってきた。男の方は佐山優、妖の方が雷、というらしい……あっさりとそれを言われてしまうとこちらが拍子抜けしてしまう。まさか本当に名乗るなんて思ってもいなかったのだから。
こいつは馬鹿なのだろうか、という思いが居座る。
「……仕方ないな。私はサキという。わかってると思うけれど妖狐だ。」
名乗られたからには最低限でこちらも名乗った。信用なんてしていないが警戒するほどの相手でもなさそう……という油断から一つの名を明かす。その流れでなにか仕掛けられれば反撃はできる体制を整えていた。
「俺は別にお前に攻撃しようってわけじゃないんだ。ただここに力を感じたから様子を見に来た。ただそれだけだから。」
優という男はなかなか鋭く力も強いようだ……と考察が脳内に飛び交う。先程感じた考えの甘さ、素直さ、そしてこの力。敵であればもちろん厄介だろう。
……今は、敵でないというがはたして何処までが真実だというのか。
「でもあんたがここにいるってことは神が来たんじゃないの?」
妖の方も妙に色々わかっている様子だ……気は抜けないのかもしれない、とそれがバレぬように余裕の笑みを浮かべて
「詳しいのね。来たわよ?大国主様が直々に。」
と答えれば
「大国っ……!?なんて言われたんだよ!?」
と、慌てたのは男の方。
「人としても暮らせ、とは言われたけど。あとはここで暮らしていいと……。」
事情を軽く説明し終えた頃、再びあの騒めきが胸中に差し込んだ。
「ねぇ優くん、雷ちゃん、わかる?」
「……あぁ。凄いのがこっちにきてる。」
「わかるのね。……大国主様よ。」
また社の入り口が少しずつ光り始めた。眩くも清いその光は今が夜だなんて信じさせないほどに社の中を照らす。敵意のない光は何処か暖かいもので社の内部も眩い光の割には色や形が光によって消し飛ばされることなどなく、むしろ普段よりも柔らかな色味をもってその光の主をここに迎え入れようとしているようだった。
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