第13話じんわりカレーとさっぱりポテトサラダ

 飯田さんが初給料をもらって、父母にプレゼントを郵送で贈った日、雪が降っていました……。





『届いたよ。ありがとうね』


 と、連絡があり、飯田さんママは言いました。


「たいしたものじゃないから……」


 いいえ、プレゼントのためにアルバイトしたようなものでした。


『今度お礼になにかしてあげる』


「いいよ。それより、くしゅん!」


『あら風邪? しっかり休養とるのよ』


「うん、ありがとう」


 とはいえど、バイトはきっかり8時間。


 休み時間はあってないようなもの。


 ああ、正社員ていいなあ。


 毎日働いても全然扱い違うもんね。


 バイトはしょせん、バイトなのでした。





「風邪ひいたって? 俺に感染さないでくれよ」


「はいはい」


 マスクと手袋をして、会社に行ったら、彼氏であるはずの飯塚君はドライです。


 やっぱり休もう……。


 飯塚君の一言で、飯田さんはもう、どっときてしまいました。


「ふんふん! いいわよ。自分さえよければいいんでしょ! わかってるわよ。ふーんだ!」


 飯田さんは主任に病欠する旨告げました。


 そして家に帰り、ベッドでダウン!





 カチカチカチ、時計の秒針が飯田さんの命の音を刻みます。





『ご飯まだ―?』


「……」


 飯田さんは、あえて答えません。


 それどころでないのは、見ればわかるはずですから。


 昼過ぎ、おもての方でガタガタいう音が聞こえました。


 スーパーのレジ袋がシャカシャカいうのも。





「感染すなよって、言ってたくせに」


「言ったよ」


「じゃあなんで?」


「病欠するほどひどいなんて、たいへんじゃないか」


「……」


 おまえのせいだ、と飯田さんは言うのをやめました。


「さ! 食え。食って元気出せ」


「と、言われても……」


 


 <レシピ>


 ・飯塚君のカレー(四人分)


 1、 鶏モモ肉250㌘。玉ねぎ一個。カレールウ80㌘。固形コンソメ2個。鷹の爪二本。チョコレート一かけ。水80ml。を用意。


 2、 玉ねぎを薄切りにし、電子レンジで加熱。鶏肉はひと口大に切って、油をひいた鍋で焼き色がつくまで焼いて皿にあけておく。


 3、 同じ鍋に玉ねぎをいれ、きつね色になるまで炒める。ここで鷹の爪も入れる。炒めている間に水を800ml、沸かしておく。


 4、 同じ鍋に沸いた湯と、固形コンソメを二個入れて、煮立てる。火を止めてルウとチョコレートを入れ、溶けたら肉を鍋に戻し入れて煮込む。 





 ・飯塚君のポテトサラダ(二人分)


 1、 ジャガイモ二個にフォークで何回か穴をあけ、ラップでくるんでレンジで7~8分加熱。指で押してやわらかくなったら、とり出し、皮を剥く。


 ※熱したジャガイモの皮は簡単にむけますが、やけどしないように対策をするように。耐熱手袋など。


 2、ジャガイモをレンジにかけている間に調味料を計っておく。たまねぎを二分の一個、スライスし、ニンジン四分の一本は細切り、きゅうり二分の一本は薄い輪切りにして、塩でもむ。しんなりしてきたら、水洗いして水気をとっておく。


 2、ボールにジャガイモを入れて潰し、熱いうちに酢大さじ二杯をまぶしてかき混ぜておく。ジャガイモが冷めたら、用意しておいた野菜を加えて、マヨネーズ大さじ三杯を入れ、塩で調味する。






「おいしいけど……」


「けど?」


「さびしい」


「俺がいるだろう」


「わかんない。いきなり冷たくしたり、こんなことしてくれたり……」


 飯塚君は、困ったようにうなだれました。


「冷たくなんてしてねーよ!」


 飯田さんは、黙ってじっと見つめました。


「二人ともダウンしたら、誰が飯つくるんだよ」


「……!」


「じゃ、俺、帰るな!」


 飯田さんは、熱にうるんだ瞳で、言いました。


「まって……帰らないで」


 それでも、飯塚君は帰り支度をやめません。


 飯田さんは彼のコートの裾をきゅっとつかみました。


 飯塚君は黙って、飯田さんの頭をぽんぽんしました。


「また明日。しっかり暖かくして、よく眠るんだぞ……あ!」


「?」


「おまえ、風邪予防、全然してないだろう? うがいと手洗い! ハンドソープとうがい薬もってきたから、洗えよ!」


「病原菌扱い?」


「おまえのためだ」


 


 飯塚君は、座っていた飯田さんを洗面台まで引きずっていくと、彼女の手にハンドソープをつけ、コップの水にうがい薬を垂らします。


「これで完璧」


 飯塚君は満足して帰りました。


「渡そうと思ってたのに……」


 飯田さんは、引き出しの中の包みのことを考えます。


『せっかくのムードが台無しじゃったのう』


「もう! 意味不明! お料理仙人も人の恋路をのぞくの、やめなさーい」





 次の日、すっかり元気になった飯田さんに、飯塚君から連絡がありました。


「なんなの?」


『……風邪ひいた。飯、持ってきて』


「知らないわよ!」


 そんなーという悲鳴を聞き流して、飯田さんはお化粧を始めます。


 昨日はノーメイクの顔を見せてしまったから、いまさらなのだけど。


「もう、しょうがないわね」


 それでも行かないわけにはいかないほど、


「昨日のカレー、特別おいしかったよって、言いに行くだけなんだからね!」


 ポテトサラダもね!


 そう言いながら、飯田さんはうれしそう。


 はりきってますねー。

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お二人様からのおいしいご飯 水木レナ @rena-rena

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