好きだったのは顔と性格だけ

みりん

第1話          かなわない

「美夜ちゃんって、真邊のどこが好きだったの?」

「うーん、晃は顔かなぁ、やっぱり。」


元カレのこといちいち話題にしないでよ、思い出したくないの。

そう言いかけたのを噛み殺して、質問に沿った答えを返す。

高校生なんて他人の恋愛事情だとか、芸能人のゴシップニュースを餌にして生きているんだから、こういうのは、まあしょうがない。


「顔って、はっきり言うねえ。私は久保田くんの方が好きかな。」

「久保田って2組の?4組の?」

「4組のはないよ、絶対2組。」


ごめんね。挨拶を交わしたことしかない4組の久保田くん。私もやはり人間だからこうやって人との距離を保ちたいの。


「そういえばさぁ、その久保田くんから聞いたんだけど、真邊、美夜ちゃんとの思い出とか友達に話してたんだって。職員室前の自習室で。」

「へぇ、馬鹿だね。自分から振ってるくせにね。」

「男なんてそういうもんなんじゃないの。思い出だけ大事にしたくなるんだよ、きっと。」

半年記念に遊園地で遊んだこととか、おそろいの十字架のネックレスとか、話してたんだって。


覚えてる。ぜんぶちゃんと。私の頭の中に大事にしまってある。

思い出をしっかり覚えていい資格があるのは私だけだと思うけどな。

思い出だけじゃなくて、私をちゃんと大事にしてよ。それじゃあ私って、まるで報われないじゃない。自慢できる記憶だけ残して捨てられちゃうなんてみじめ。


「美夜ちゃん、私の家もうすぐだよ。」

「へー、ここらへんなんだ。毎日登校大変だね。」

そういえばさ、と切り口に、私はまたえぐられる。

「顔じゃなくてさ、性格で選ぶなら、学年の中で誰が一番好みなの?」

「えー、性格かぁ、話したことある人そんなにいないからなぁ。」

「知ってる範疇でいいから。誰かいるでしょ?」

「うーん、あっ、信号変わりそうだから、ごめんけど行くね。また明日。」

「あ、うん。じゃあね、宿題忘れずに。」

母親目線のお節介な別れ際の一言に口角が不自然に上がる。


性格で好きな人。あぁ、誰だろう。考えたくもないな。

4組の真邊 晃くん。私が1年だけ、恋人という立場でそばにいた。

私の人生の16分の1を捧げ、これからまたしばらくも実体のない君へ私を捧げていくのでしょう。




「真邊だよね。」

信号は赤になっていた。宿題忘れずに、なんて言って、私をずっと眺めていたその人がつぶやく。

「性格好きな人。真邊なんでしょ、知ってる。そのネックレス、あんまり隠れてないよ。」

十字架が制服の中から光っている。シルバーは光を反射させやすい。


「うん。晃だよ。」

忘れさせてくれ。お願い。


「だってかなわないの。こんな恋心かなわないよ。絶対無理だから、忘れたいの。」


「部屋にね、置いてあった。ゴールドのネックレス、十字架の。美夜ちゃんのそれと同じのだよ。」


捨ててないんだね。ダメじゃん。家の犠牲になるなんてずるいこといったんなら最後まで突き通してよ。


「美夜ちゃん、真邊のこと好きなんだね。顔も性格も。全部。」


いまはあなたのものなのに。ずるい、ずるい、ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい。




「わかんない。敵わないって知ってる。婚約者のあなたには、絶対。」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

好きだったのは顔と性格だけ みりん @noa_abc72712

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ