第一章〜新たなる日々〜
第1話〜幸運と不幸、秘めし想い〜
前にも述べた気はするけど私はエルナ。
嘗ての世界では武勲車と呼ばれていた
栄光の重戦車だった。
それも長くは続かず、包囲殲滅をかけられて
その時に私も破壊された──
「───ッ!──」
「──……ウッ…──」
「ハァゥゥァ─!!!」
なんだ?ここはどこだ?私は……何?
いや分かっている。私はエレナ…
エレナ…だよね…?
私はなんだろう?
…………………?
…!そうだ、重戦車だった。
ティーガーIIって名前だった。
──この暗く何も見えない
のは何故なの?──
わからない わからない わからない
何度考えてもわからない
わからないって何?
何って何?
何って何って何?
何って何って何って何?
何って何って何って何って何?
嗚呼、私は考えたことなど無かったか
そうか、考える必要は無かったのか
では何故今この何も見えない世界で考えるの…?
何で考えなきゃいけないの…?
ん…何か聞こえる…。
聴いたこと無い筈の声なのに
何処か懐かしい……
嗚呼、これが、女神の囁きなの…?
嗚呼、これが、神の囁きなの…?
答えは分からぬまま…
闇に消え…る……
─────きな」
─レナ、起きな」
なんだろう、まだ聞こえる…
「起きなさいって…」
なんだか私に語りかけてるような…
ん?起きなさい…?
どういう事だ…?
起きてみる…?
彼女が瞼を開けるとそこには紅い瞳で
彼女を見つめる、女性の姿があった
「やっと起きたのね、エレナ」
と、彼女…エレナを見つめ乍、口を開く
困惑してはいるが、一つ一つ問題を
解決しなければならない
となればエレナは早速疑問を口にする
「…貴女の名前は…?」
とエルナが尋ねると、彼女はこう言う。
「あら…私としたことが…ごめんなさいねエレーヌ・ティーガーよ宜しくね」
…エレーヌ?何処かで聞いたことがある名前だ…
確か、対共和国戦で私達は投入されたその中でも
幸運に恵まれた私は「エレナ」と不運続きで戦果を挙げられず呆気ない最期を迎えた「エレーヌ」
と名前が付けられていたはずだとなると
私は幸運車と呼ばれたエレナであり
彼女は不運車と揶揄されたエレーヌである
と考えられる
しかし、その結論は早計だ
真偽を確かめたいが、どうなんだろうか…?
しかし嘗ての戦いで活躍できなかった過去
によって心に傷を負っているかもしれない
そうなると、軽率なことは出来ない…
どうしたものか…?
などとエレナが思考を巡らせていると
「あら、嫌悪されるかと思ったのだけれどそうでも無かったのね」
などとエレーヌは語る
エレナはその言葉の意味を理解出来なかった
…何故嫌悪されるのか?
何を根拠にそんなことを語っているのか?
そして、何故そんな考えに至ったのか?
考えられるのは、自己嫌悪
それか、他人に嫌悪された経験があるから
などが挙げられるだろう
しかし、どちらにしても許し難い
自己嫌悪などして欲しくないものだ
他人からであれば、私はその者を
問い詰めて問い詰めるだろう
そして、勇気を振り絞って問いかける
「…何故、嫌悪されると思うの?」と
「…だって、私は皆にとって不幸の象徴なんでしょう?」
エレナは絶句した不幸の象徴?誰がそんなことを…いや、言っていた私の乗員は決して言わなかったが、僚車の乗員はたまに言っていた
そして、最期の時は
「エレーヌ!エレーヌ貴様ぁ!」
などと、支離滅裂で意味不明な怒りを
炸裂させていた…
あの時も今も思うことは同じ
何をほざいているのだろう
エレーヌは全く関係ないし、悪くない
ただ、殺される責任を押し付けている
だけじゃないのか?
訳の分からない理論に滅茶苦茶な結論
など、笑止千万であると──
そして出したエレナの答えは
「何を言っているの…!」
微かな怒気を隠さず言い放つ
「え…」
困惑の表情をあからさまに浮かべるエレーヌ
「不幸の象徴だとか言ってるけど!なら、なんで私の枕元にいるのよ!自分に自信が持てないから、励ましてほしいだけなんじゃないの!?自分が寂しいから、寂しさを癒してほしいじゃないの!?自分の負った心の傷をまだ、話したこともなくて、どんな人かもわからない人に癒してほしい程追い詰められてたんじゃないの!?」
「ねぇ…言いたい事があるなら言ってよ…」
と最後だけ、声音を下げて言う。
その様子と言葉を聞いて私は唖然とする
そして後を追うように全てを見透かされたという感覚 いや、感覚ではなく事実ではあるのだが… しかし嫌悪感はない
「………」
考える、考えてはいるのだが…
何故?何故?返す言葉が思いつかない…
「…ぁ……」
声が…出ない…
「─────」
視界が…揺らぐ…。
ぼやける…見えない…。
涙で何も見えない…
泣き声で何も声を出せない…
考えられない…
「こんな…時に話せないなんてやっぱり不運だ…ね…」
「…ッ!」
「 その何でも結論に不運を持ってくるの」
「─────やめなよ!」
「そんなことばかり考えてると」
「いつか自我を保てなくなるよ!?」
その言葉を聞いたエレーヌは表情を変える
「自我を保つ…?」
その言葉を聞いたエレナは同意とともに
はっきりと
「そうよ!確かに起きて数分で」
「出会って数分で」
「まだ貴女の事をよく知らなくても!」
「貴女が常に本音で」
「生きていられているかなんて」
「はっきりと私には分かる!」
と力を込めて、エレーヌの心に叫びかける
「その瞳が!その顔が!その表情が!」
「本当は助けられたいのに」
「周りを遠ざける」
「そんなことして何になるというの!?」
「不運とか不幸なんて」
「断ち切ればいいんじゃないの!?」
「私は不運だから」
「不幸だからっていうのを」
「口実に逃げていいと思ってるの!?」
「貴女はまだわかってないよ!?ねえ!」
「本当の貴女はどうなの?」
「ほら、言ってみなよ!」
「本当は…救われたかった…」
エレーヌは涙ながらに、
本当の思いを伝えた弱みを全て吐ききった
エレーヌは気持ちが軽い
「少しは…」
「楽になったんじゃないのかな…?」
「えっ…ええ。」
抑え気味に答える
すると、エレナはいきなり声音を変えて
「ねえ。姉がそんなんだと」
「私、困っちゃうよ?」
その言葉を聞いたエレーヌは顔を変える
「姉…?私が姉…?」
「ええ。そうよ!貴女はエレーヌ姉!」
「そう…」
「確かに貴女の方が製造あとだものね…」
「………………分かったわ。」
「…」
「それじゃあ、私はエレーヌ姉!」
「貴女のことを今からエレナ」
「って呼ぶわよ?いい?エレナ?」
「呼んで呼んで!」
「じゃんじゃん呼んじゃってぇ!」
いきなりキャラの変わるエレナ…
「うっ…うん!」
困惑気味な返事で答える。
しかし、ここから全ては始まるのであった。
次回予告
「歩みだそう」
緋色の徹甲弾 霧雨 定月 @KirisameSadatuki
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