第3話ご当地クイズと温泉ロケ!

東京駅—6時00分。

早見と今村は、地方ロケに行く前に弁当を人数分買う。

朝から集合の場合、朝食も制作会社で用意するのが通常。


今日は『ご当地クイズで元気!』の収録だった。プロデューサー、ディレクター、AD早見、AD今村、MC分である。またメインMCは1本遅れて来ることになった。

(技術やメイクは現地で派遣するのでいない。)


早見と今村は早めに弁当を買おうとする。早見は最近テレビで特集されていた人気の東北ノリ弁当を買おうと急いでいた。しかし、グルメファンは弁当が並ぶ前に待機していて、6時10分には売り切れてしまった。

「しまった。チェックしておきたかったのに、食べれなかったか」

「いや〜東京駅のお弁当ってすごいんですね。というか、弁当のためだけに東京駅くる人って普段何してるんだろ」

「う〜ん、謎だよね…。まあ、最近はグルメブームだから、ただ純粋に食べたい人もいるし、レポしたりする人もいるんじゃないかな。他の弁当を買おう。他に人気のお弁当は…」

早見が目線を移すとそこにはプロデューサー橋切がいる。

「お〜い、おはよう。お前ら、なに高い弁当屋いるの?あっちの駅弁400円のあるんだけど」

早見が眉をひそめる。

「あっちゃ〜・・・。見つかっちゃった」

早見と今村は残念な気持ちを押し殺し、橋切の元に向かった。


早見は橋切の指定した駅弁屋に向かう。

「俺、おむすび単品2個でいいや。君達は?」

橋切は早見と今村を見つめる。

「僕もおむすびで・・・」

「私も・・・」

「じゃあディレクターとMC雪菜さんは弁当ね」


橋切はニコッと笑った。

テレビプロデューサーは制作の全体を統括する。予算の調達やキャストスタッフなどを選び管理をする。予算についてはシビアで、一円足りとも無駄にはしたくない。そのため演出のために予算オーバーしようとするディレクターやADを厳しくチェックしなければならない。


「なんで、さっき950円もする弁当屋にいたの?予算は一人400円だよ」

橋切が早見を見た。

「今東京駅でグルメ向けの高級弁当が人気なのでチェックしておきたかったんです。お昼番組で特集されていて、テレビ見た人が買いにきてるので、何か番組のネタになると思ったんです」

「ああ、そういうことね!早く言ってよ〜。そうだよね〜、早見くんといえばお弁当選びに卓越したセンスを持ってるもんね〜。俺グルメじゃないからさ。

じゃあ、今度は1000円ぐらいの弁当、1個だったら買ってもいいよ。3等分したら、予算内だし。それ俺も食べてみたいしさ」

「・・・いえ、大丈夫です」

早見は苦笑いをした。

集合時間5分前にディレクター秋元とMCの雪菜と合流した。

「おはようございます。本日もよろしくお願いいたします」

雪菜はすっぴんで帽子を深く被っている。

普段は大人しくてあまり言葉を多く語らない。

MCとは番組内の進行役。しかし最近のMCは色々な能力を求められる。

今回の雪菜は現地の食レボと温泉入浴も出演交渉の時快諾している。

「おはよう!今日もよろしくね。これ朝食ね」

橋切がニコニコと笑う。しかし心の奥底でもっと早く来いと言っている顔だった。


山形行きの新幹線に乗り込むとそれぞれ近くの別の指定席に座る。それぞれ作業をしていた。

テレビ制作会社は掛け持ちで番組を持っているため、忙しい。今日は平日で新幹線が空いているため、制作班はパソコンを開き書類作成をしていた。

今回は地方での撮影のためスタジオ等とは段取りが違う。

また今回は山形だが、来週は鹿児島、再来週は和歌山とスケジュールが詰まっていた。

地方ロケで頼りになるのは市の観光課や観光協会。ADは円滑なコミニケーションがもめられる。

撮影前にロケハンと呼ばれる野外の撮影に適した景色をある程度選び、確認するのだが、制作側と現地の人々では『地方の良さ』の認識が違う。

また雨や雪が降った場合で撮影場所が変わるので撮影場所は複数用意しなければならない。時間感覚も違う。そう言った人々が短時間で一つの作品を作るのは高度なコミニケーション能力が必要なのだ。


山形のとある市に着く。12時前だった。

観光課の担当者の男性、佐藤さんと市原さんが迎えてくれた。現地のメイクさんも一緒である。佐藤さんがワゴン車でロケ地を一緒に回ってくれるということだった。

制作側としてはこんなに嬉しいことはない。

「後、撮影が大変だと思いまして、おにぎり作ったので食べてくださいね」

観光課もそれぞれだが自分の住んでいる場所を愛している人の行動も愛が溢れている。

クイズの撮影は14時からのため、時間がない。温泉地の撮影班と野外クイズの撮影班で別れて行動した。

温泉地の撮影班は現場につき撮影の用意をした。

秋元は制作側で用意したカメラを使い、カメラアングルを確認。

メイクを車の中で済ませたMC雪菜は温泉に入るため、今村が用意した肌色のブラジャーとパンツを身につけタオルを巻いた。更衣室は野外の板で仕切られただけのものだったが、恥ずかしがっている場合ではない。手際よく着替え、今村はなるべく見えないようにタオルで周りを隠した。


クイズ撮影班は橋切と早見。山形の雄大な山をバックに簡単なクイズクリップなどを用意する。そして重要な参加記念グッズ。

「記念グッズ!これがあるのとないのでは全然違うんだよね〜」

橋切はなぜか自慢げである。

そして現地の撮影スタッフも合流し、メインMCの大園泰造も到着した。少し疲れ気味の顔をしている。

撮影は14時だが13時半には現地の人々が集まった。

そして同時刻に温泉地班合流した。

普段とは違い、カメラや照明が準備され現地の人々はワクワクした表情をした。

そしてテレビの時代劇に出ていた俳優の大園泰造を直近に見れるのは嬉しいようだった。


あっという間に14時になる。

大園もカメラが回ると生き生きとした表情になり、クイズを出題する。普段おとなしい雪菜もハキハキと喋り、大園や現地の人々をフォローする。

あっという間に撮影が終わった。撮影前はハラハラとするが現地の人々の元気さが伝わる良い画がとれた。

観光課の佐藤が早見と今村の元にやってきた。

「今日はとっても楽しい撮影をありがとうございました!おばちゃんたちも楽しかったようです」

佐藤が弁当6個ほど入った袋を渡す。

「これ、東北ノリ弁当です。こないだ早見さんが電話口でお話しされてたでしょ。お昼までは用意できなかったんですが、お弁当屋さんに伝えたら持ってきてくれました」

「わあ!本当ですか!今日朝東京駅に行って売り切れてたんですよ!嬉しいです!ありがとうございます!」

早見はいつになくテンション高めで言う。

早見は大事そうに弁当が入った袋をもらった。

それを見た橋切も嬉しそうにお辞儀をする。

「そーそー、こう言うのが現地の良さなんだよねー」

橋切は言う。

今村は橋切を見てため息が出る。

「絶対高級弁当ご好意でもらえたことが嬉しいんでしょうね」と呟いた。

「うん、でもなんでも口に出して言ってみるって大切なんだなー」って実感した。観光課の人々の振る舞い、僕たちも参考にしないとな」

早見は嬉しそうに言った。

現場が潤滑に回り、天候に恵まれる。人々に感謝し、感謝される、それが毎日が忙しいADの喜びと生きがいである。





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早見くんとこのロケ弁当! 上原トム @tomuuehara

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