第5話勘違いナルシストに困ってる

 サエラと一緒に暮らし始めて、数日が経過したある日、ユキノの元に一通の手紙が届いた。


 〜拝啓 ユキノ様

 暖かい春風が吹きつつも、まだまだ寒さの残る今日この日、僕はあなたへのこの持ちを伝えたく、手紙をつづることに致した。ユキノさん、あなたはまるで満月の日に湖の近くでしか咲かないと言われる水月花のように美しく、 そのオーラからは母親を連想させるような優しさに溢れたあなたに一目惚れをしました。どうか願いが叶うのならばあなたと結婚を前提にお付き合いさせていただきたく存じます。5時に西通りの酒場で待ってます。どうかよろしくお願いします。

PS.いつもあなたを影から見守っていす。

 ミッシェル・ブラウン〜


 何か物凄い感じのラブレターだな。この国のラブレターは全部こんな感じなのかな?


「凄いね姉ちゃん。ラブレターもらうなんて」

「確かに嬉しいっちゃ嬉しいんだけどいかんせん文章がねぇ」

「これがノアからのラブレターだったら泣いて喜ぶほど嬉しいけど」

「そうんなこと言ったらミッシェルさんに失礼ですよ」


 確かに、ユキノの気持ちは嬉しいがこんなこと聞かれたらミッシェルさんに怒られそうだ。


「それで、姉ちゃんはどういう返事をするの?」


 ラブレターのことよりも、ノアが一番気になっていたのはユキノの気持ちのことだった。普段はノアのことを好き好き言っているが、本当はからかっているだけなんじゃないか、もし、ユキノの事を好きだという人が現れたら、そっちの方へ行ってしまうんじゃないか。ノアは常々思っていた。


「もちろんお断りよ。私が好きなのはノアだけだもん」

「からかわないでよ...」


 つい、素っ気ない態度を取ってしまったが内心ほっとしていた。


「やっぱりユキノさんはノアさん一筋なんですね」

「サエラも茶化さないでよ」


 そう言ったサエラの表情は少し悲しそうな顔をしていた気がした。


「ところで、どうやって断るつもりなの?」

「そこは普通に他に好きな人がいるって答えるわ」


 ユキノにしては普通な回答だった。いつもなら「ノアのことが大好きだから付き合えない」とか、「ノアは以外恋愛対象にならない」とか物凄いブラコン発言(自分で言っててものすごく恥ずかしい)をしているが普通すぎる回答にノアは驚いた。


「そんな驚くことでもないでしょ」

「私だって相手の気持ちを尊重して、きちんと断るわよ」


 きちんと断ると言っても実は弟のことが好きだから付き合えないなんて言えるわけないよな。


「とりあえず、ミッシェルさんにあってくるね」


 時間的にも丁度いい時間だった。

 ユキノが家を出てすぐ、


「実はミッシェルさんってどんな人なのか気になっているんだ」

「だから、こっそり姉ちゃんの後をついて行こうよ」

「私も気になっていたんですよ。早速追いかけましょう」

「なんか嬉しそうだな」

「そんなことないですよ」


 ミッシェルという人物が気になっているのは嘘ではないが、ノアと一緒(つまり二人っきり)で一緒にお出かけ(尾行)をするのだからそっちの方が楽しみなのだ。


「さて、そろそろ行くか」


 2人はユキノの尾行を始めた。

 やがてギルドに着き、中で椅子に座っていた男の人がユキノを呼んでいた。どうやらあの人がミッシェルさんらしい。


「金髪で、顔はイケメン。なんか腹が立つほどモテそうなやつだな」

「やっぱり、サエラもああいうやつがすきだったりするの?」

「なんかチャラそうであんまり好きじゃないです」


 そんなものなのか。俺から見たらモテそうでも、女の子から見たらそう見えないんだな。

 その頃ユキノの方では、


「初めまして、あなたがミッシェル・ブラウンさんですね?」

「そうだよ。僕がミッシェル・ブラウンだ。お会いするのは初めてですね、ユキノさん」

「そうですね。それではラブレターの件なんですが....」

「皆まで言うな、答えは分かってるようなもんだ。」

「は?」


 ユキノがラブレターのことを話そうとした瞬間急に遮られ勝手に納得し出した。


「僕ほどの男に言い寄られた女の人が、僕の誘いを断るわけがないんだから」


「こいつはやばい」ユキノはすぐに悟った。

 そう、ミッシェル・ブラウンはかなり自意識過剰なナルシストだったのだ。


「あのー、そういう訳じゃなくて、わたs」

「分かってるとも。僕に会いたいがためにわざわざ来てくれたんだろ」

「そんなに照れることないのに」


 また遮られた。全く人の話を聞きそうにない。さすがにキレそうだったので、


「すみませんが、ちゃんと話を聞いてくれませんか?」

「そう焦るなって。この後で好きなだけ話してあげるから。まずはどこにいこうか?」


 またまた遮られた。もう我慢出来ない。


「ねぇ、さっきから人の話を聞けって言ってるよね」

「えっ.....?」


 急に口調の変わったユキノに、ミッシェルは面をくらってしまった。


「なんか様子が変ですね」

「ありゃまずいな。姉ちゃん相当怒ってるみたいだ」


 様子を見ていたノアたちもユキノの異変に気づいた。


「こっちがずっと話そうとしてるのに遮ってばっかで、人と会話もできないの?」

「いや、そういう訳では...」

「じゃあ、どういう訳なの?人の話を遮ってまで優先させる訳があるなら言ってみなさいよ」


 怖い、ミッシェルは心の中でそう思った。

 それと同時に何か湧き上がるようなものを感じた。


「僕が思うにあなたは僕の告白にOKのふたつ返事をしに来たじゃないですか」

「そもそもそこが間違ってんのよ。私はあんたからの告白を断りに来たの」


 ミッシェルは考えた。どうして自分ほどのルックスの持ち主が振られるのかを。


「ちなみに、どうしてなのか聞いてもよろしいですか?」

「私には好きな人がいるのよ。それにあんた見たいなタイプ、1番嫌いなのよっ!」


 ミッシェルは自分を思いっきり否定され、物凄く悲しくな.....らなかった。この時ミッシェルはユキノに冷たい目で見られ、罵倒されることに喜びを感じていた。


「うわー、あれは相当言われてるな」

「声は聞こえませんが、ユキノさんがかなり怒ってるのがとても伝わります」

「でも、あの人がなんか嬉しそうな顔してないか?」


 ノアは考えた。ミッシェルはなぜ嬉しそうなんだ。ユキノの様子から、かなりキレられてものすごい文句を言われているはずだけど、当の本人は嬉しそうな顔をしている。一体なぜ...?


「あっ、あの人Mだ」


 ノアも気づいた。ミッシェルがMであるということに。


「あの様子だと、姉ちゃんがどれだけ言ってもあの人には意味が無いな」

「どうしてですか?」

「あの人がMだからだよ」

「えっ.....」


 やばい、サエラの顔を見るだけで、ものすごい引いているのが分かる。


「確かにそれはかなりキm...危ないですね」


 嫌だこの子、今キモいって言いかけた。


「そうだな。かなり危ないな」


 ノアは聞かなかったことにした。

 しかし、ユキノはミッシェルの状態に気がついていないようだ。


「そういう訳だから、あなたとは付き合えないわ」

「そして今後一切私に話しかけないでちょうだい」

「......」

「返事は?」

「はいぃぃ...」


 どうやら話が終わったようだ。不機嫌そうな顔をしてるユキノに対し、ミッシェルさんは満足そうな顔をしていた。


「あら、ノアとサエラちゃんじゃない。わざわざ来てくれたの?」

「うん、そうなんだよ。それより姉ちゃん、あの...大丈夫?」

「少しイラッときたけど、とりあえず断っておいたわ」

「ふーん、そうなんだ」


 初めてユキノが怒るところをみた。しかし、ユキノがブラコンである限り、自分が怒られることはないかもしれないと思うと、少し安心したノアだった。


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異世界に転生した俺だが、姉がブラコンすぎて困ってる 緑山 碧 @yakiimo

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