第4話新しい仲間に困ってる・続

「ほらほら、二人とも起きて、朝ごはんできてるよ」


 朝早くにサエラの声が家の中に響き渡った。


 サエラが家出すると宣言したあの日から数日が経過した。流石に1人で行かせるわけにもいかず、俺たちの家に一緒に住むことになった。

 サエラのお父さんは納得がいってなかったようだけど、このまま言い続けても聞かないと思ったのか仕方なく帰っていった。その後ろ姿からは反抗期を迎えた娘を持つ父親の寂しさが溢れ出ていた。


「何度も言うようだけど、ホントに良かったのか?」

「いいんです。お父さんにはいつもガミガミ言われててうんざりしてたんです」


 確かに余程鬱憤が溜まっていたのか、毎日お父さんに言われて腹が立ったこととか、我慢してきたことなどいろんな話を聞いている。


「サエラのお父さんもきっとさえらのことが本当に心配だからでこそ厳しく育ててきたんじゃないの?」

「それはそうかもしれませんが....でも、そのたびに私だって色々と苦労してきたんです」


 この家出は長くなりそうだな、ノアは心の中で思った。


「そんなことよりも早くご飯食べちゃってください、冷めちゃいますよ」

「あぁ、そうだな。それではいただきます」


 今日の朝食はスクランブルエッグのマヨネーズ和えに、カリカリに焼かれたベーコン、ふわふわのロールパンとコーンスープだな。どれもとても美味しく、朝に食べる量としてもちょうどいい量だった。


「サエラちゃんの親御さんにはわるいけど、このままこのうちに居てくれたら毎日美味しいご飯が食べれるわね」

「そんな、ユキノさんが作るご飯の方が美味しいですよ」

「確かにサエラのご飯は美味しいし、サエラがいいんなら何日でもこのうちにいてもいいが、そろそろお父さんと仲直りしたらどうだ?」


 今までもノアはサエラにお父さんと仲直りするように行ってきたが、頑として仲直りしようとしない。


「いいんですよ別に。私は今まで通りノアさん達とチームで居たいんです。だからお父さんがなんて言おうと私は冒険者を辞めるつもりもないし、家でも辞めるつもりはありません」


 サエラの決意は相当のもののようだ。俺としてもこのままサエラと冒険者を続けていきたいけど、さすがに親と喧嘩したままというのはこれから先のことも考えるとまずいだろう。


「じゃあさ、サエラちゃんが冒険者として一人前だってところを見せれば、お父さんも納得が行くんじゃない?」

「確かにそうすれば納得してもらえるかもしれないが、どうやってそれを証明すればいいのだ?」


 そもそも一人前の冒険者とはどういうものなのか?そのためには何が必要なのか?ノア達は深く考えたが、答えが出ることは無かった。


「とりあえず他の冒険者の人に聞いてみようよ」

「それがいいかもね」


 3人は一人前の冒険者とは何なのかを聞きに、ギルドへ向かった。


 ◇


 ギルドへついたノア達はまず受付嬢の人に聞いてみた。


「一人前の冒険者ですか、やはりある程度の実力を持っており、一人でも難易度の高い依頼をこなせるようになったら一人前の冒険者なのではないですか?」


 なるほどたしかに一理ある。一人前と聞くとやはり強いとか1人で何でもこなせるイメージがある。それならサエラもかなり強くなったし、ある程度の難易度の高い依頼なら1人でもクリア出来るだろう。


「ですが、これはあくまで私の考えなので他の冒険者方にも聞いてみてはいかがでしょうか?」


 ノア達は受付嬢に言われた通りに他の人にも聞いてみた。


「一人前の冒険者?そりゃお前、ただ強いだけじゃなく、知識が豊富だとか、人づきあいがいいとかそういったものを兼ね備えたやつのことをいうんじゃねぇか?」

「でもな、多分ここの冒険者ですかは皆自分が一人前の冒険者だなんてこれっぽっちも思ってないと思うぜ」


 この言葉を聞いて、ノアの中で疑問が生まれた。


「なぜなんだ?皆強くて、知識もあるし、人づきあいも良さそうなそんな人ばかりなのに」


 皆一人前の冒険者として仕事をしてる。そう思っていたからでこそノアは不思議におもった。


「坊主から見れば一人前のに見えるかもしれないが誰だって失敗はするし、そんな時は仲間に助けられている。そういったことを思っているからだれもが自分は一人前の冒険者だとは思ってないだろうよ」

「そうなのか。じゃあ、サエラもきっと同じこと思うだろうから」


 この人からとても大切なことを学ぶことが出来たが、サエラのお父さんを納得させる方法を無くしてしまった。


「さて、どうしよっか?」

「やっぱり、きちんと話し合って納得させたほうがいいんじゃない?」


 ノアは2人に言った。きちんと腹を割って話し合えば、お父さんも納得してくれるんじゃないかと。


「でも、あの人が私の話をきちんと聞いてくれるとは思いません。いつも私が話している途中で割り込んで自分の意見を言ってくるんです」

「あぁーそういう人いるよね 。人の話は聞かないで自分の話ばっかり話す人」


 確かに話し合おうとしても向こうが聞いてくれないんじゃどうしようもない。しかし、このまま何も行動しないのは良くないと思う。


「それでもきちんと自分の思っていることを話すべきだよ。相手が話を聞いてくれなくても、自分の意見を言わないと何も始まらないよ」

「分かりました。お父さんときちんと話してみます」


 この日、サエラはお父さんと話すために家に帰っていった。

 それから2日後、ノア達は戻ってこないサエラの心配をしていた。


「あれから2日経つけど、サエラちゃん来ないね」

「そうだね。お父さんとうまく話ができなかったのかなぁ」


 そんなことを話していると、


「ノアさん、ユキノさん私やりました!」


 サエラが息を切らしてやってきた。


「やりましたってことは、お父さんをきちんと納得させることが出来たの?」

「はい。最初はやっぱりこっちのことは聞いてくれなくて、だんだん腹が立ってきたので強気にでたら凄く驚いてて、それから私の気持ちを伝えたら条件付きで許してくれたんです。」

「条件って?」


 一体どんな条件なんだろう?


「それは、これからもノアさんとユキノさんと一緒に依頼をこなしていくことと、どんな依頼を受けたのか報告することです」


 それだけでいいのか。もちろんサエラをチームから追い出すなんてことは無いし、今のランクの依頼にも慣れてきたし、危なくなることはほとんどないだろうから、安心して報告出来るだろう。


「良かったな、サエラ」

「良かったわね、サエラちゃん」

「はい。これも2人が私のために色々考えてくれたおかげです。本当にありがとうございました」


 これでさえらの家でも終わり、また一緒に仕事が出来る、そう思っていたら、


「実はもう1つこれは条件と言うより私のわがままなんですが」

「なんなのサエラちゃん、言ってみて」

「もし、2人が嫌でないならこれからもここで一緒に暮らしていいですか?」


 驚いた。サエラがそんなことを言ってくるとは思ってもみなかった。ノアは冷静に考えて答えを出した。


「俺は別にいいよ。サエラと一緒に暮らしてみて悪い気はしなかったし。それよりも家出して暮らしてた時もそうだけど、一応俺男だからチームとはいえ、男と一つ屋根の下ってのはお父さんてきにもだめなんじゃないか?」


 一緒に暮らしてた時から常々思っていたことを言った。


「それは大丈夫ですよ。実際私がいた時ノアさん何もしなかったじゃないですか」

「それにノアさんになら何されても構いませんし」


 サエラは小さな声で呟いた。


「え?今なんて?」

「なんでもないですよ」


 サエラは笑って返した。

 ユキノはその様子をみて、なにかに気づいた。


「サエラちゃん、ちょっとこっち来て」

「はい、分かりました」


 そう言ってユキノはサエラを連自分の部屋へ連れていった。


「サエラちゃんってさ、ノアのこと好きでしょ」

「えっ....えぇぇぇぇっ!」


 サエラは顔を赤面させ、大声を出して驚いた。


「どうしたのサエラなんかあった?」


 ノアがさえらの声を聞いて心配してくれたらしい。


「いいえ、なんでもないです」


 サエラはそうノアに返事した。

 そして、


「どうして分かったんですか?」


 とユキノに訊ねた。


「だって、サエラちゃんたらノアと話す時いつも幸せそうな顔してるし、さっきの一緒に住むって話の時、うまく説明出来ないけど、女の子って感じの顔してたから」

「そんなにわかりやすい感じでした?」

「傍から見てたらね」


 ユキノは、サエラがノアを思う気持ちに前から気づいていたのだ。


「実は、そうなんです」

「やっぱり。ねぇ、どのに惚れたの?」

「最初は私をチームに誘ってくれて優しいなっておもってたんです」

「でも、一緒に依頼とかをやっているうちにカッコイイなぁって思うようになって、湖でで私とユキノさんを助けてくれた時その姿に一目惚れしちゃったみたいなんです」


 サエラはノアに対する自分の気持ちを打ち明けた。その気持ちを聞いたユキノは、


「そうなの...。でも、ノアを好きな気持ちなら私も負けてないわ」

「あの子とは親がいなくなってから、ずっと一緒に生きてきたの。苦しき時も、楽しい時もずっと一緒に。私があの子を思う気持ちは世界一いや、宇宙一よ」


 ユキノもノアに対する自分のの気持ちを打ち明けた。


「そうだっんですか。やっぱりユキノさんもノアさんのことが好きだったんですね。でも、お2人は兄弟なのですから、ユキノさんの気持ちは弟として好きってことなんじゃないですか?」

「私も最初はそう思ってた。でも、一緒に暮らしていて気づいたの。どうしてもノアのことを異性として見てしまう自分がいるって」


 ユキノはノアと一緒に暮らし始めてから、兄弟2人暮しになったせいもあって過剰にノアを可愛がるようになった。そのせいもあってか、ユキノがノアを思う気持ちは人一倍強くなった。それが弟としてから一人の男性として好きになるには十分な理由だった。


「ユキノさんもノアさんのことが好きなら、これから先、このままの調子でやって行けるか心配になってきちゃいました」

「うーん、確かにこれまで通りにはいかないかもしれないわね。でもお互いノアのことが好きで、同じチームなんだからこれからもやっていけるわよ」


 こうしてユキノとサエラはより一層やか良くなり、よき恋敵ライバルとなった。

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