第43話 予定外
転移魔法は術者が魔法を行使し続ける間だけ、二点間を結ぶ道が開く。転移の道が開いたままという事は何者かが力を注ぎ続けているという事で、つまりその何者かを潰せば道は途切れる。
一箇所術者を潰した優奈とカエラはギラと合流しようと戻るが。
「おねぇちゃん、何か増えてるの……」
「多分、いまさっき消した魔法陣のとこにいた奴だね。」
通りで丸腰術者のみのガバガバ警備だったわけだ。そこ護衛も、ギラが相手していた敵に合流していたのだ。
二人は建物の屋根に乗り、傾斜から顔を覗かせる。
「あの男のニンゲン、いなくなっちゃったの?」
最初から居たヴァンパイアに加え、グレーの肌の巨人とフードを目深に被った男。彼等が集まって何か話しているすぐ横には、赤い血痕が地を湿らせていた。
ギラの姿は、見当たらない。
「いないねー……ミヤちゃんが連れて行ってくれたのかな」
敵の様子、そして別れた時の状況からしてあの血痕はギラのものだろう。しかし彼は何処にも見当たらないし、匂いもしない。
ギラが傷を負い、それをミヤが連れて逃げたのか。もしくはその逆か。
しかしそれも、半分くらいはそうであってほしいという願望だ。
「とりあえず、一旦離れようか。」
「うん。それがいいの。」
人数差があったとはいえギラが敵わなかったのだ。迂闊に手出しするよりも下がるのが得策だろう。
勘付かれないよう静かに、ひとまずは敵と正反対の方向に逃げよう。
そう言って敵から視線を離した、その瞬間。
何かに背中を。否、背中側から心臓を直接撫でられるような、筆舌に尽くし難い凶悪な悪寒。
咄嗟にカエラを突き飛ばし、その"凶悪"に槍を突き刺す。目で見て狙ってはいない。ただ感覚、本能に突き動かされての刺突。
「──!?」
それは凶悪の脇腹を掠めるのみに終わる。脇腹を掠める事に成功した、と表現した方が正しいかもしれない。
「おね──」
「フッ!」
小さく息を吐きながら、双剣の追撃を防ぐ。優奈は近距離での実戦など皆無と言っていい程経験が無い。が、頭で考える前に体が勝手に動いていた。
二対の迫り来る短剣、それをひたすら、必死に弾き返す。
本能が言っていた。
気を抜けば死ぬ、と。
優奈は打ち合いながら大きく後方、別の建物の屋根の上に大量の氷柱を形成する。
「えい!」
カエラが拾ったなまくらを凶悪、もといフードに投げると同時に優奈は大きく後ろへさがり、代わりに氷柱の雨をお見舞いする。
まさしく雨の如き無数の氷柱。フードはその尽くを双剣で切り裂く。結果として氷柱が出来たのは、その男のフードをはだけさせる事だけ。
「………」
真っ白い肌のスキンヘッド。白い、というのは色白だとか白人だとかいうレベルでなく、真の意味での白。彼こそが正しく『白人』なのかもしれない。
毛髪が一本もない頭部だけでなく袖をまくった腕もびっしりとタトゥーで埋め尽くされ、その瞳は碧、更に通常の人間では白目の部分が黒く塗りつぶされている。
それはカエラには目もくれず、只押し黙って優奈を睨み付ける。
やがて白人が立つ隣にヴァンパイア、遅れて巨人が降り立つ。三メートルは超えるであろう巨体。だのに2階建ての建物の屋根まで安安と跳躍してみせる。
「うお、おおお……」
巨人の足が勢いで屋根に突き刺さり、その場で軽く悶える。同時に室内から悲鳴が漏れる。まだ人の居る建物もあるのだ。
「ぬ、ぬけない」
「間抜けを晒すな」
ヴァンパイアはそれに歩み寄ると、片手で軽々とその足を引き抜く。
「おねぇちゃん、これはちょーっと……やばいの?」
「……うん。そうだね」
カエラはまた別の剣を拾うが、敵はそれを眼中に入れていない。
巨人が槌を優奈に投擲。同時にヴァンパイアも動くが、カエラが体当たりしてそれを止める。
「わーこわいの!」
ヴァンパイアのヘイトを拾ったカエラは反撃を受ける前に飛んで逃げ、相手が優奈に向き直るとまたちょっかいをだす。
一方優奈は、ミサイルの如き槌を回避するが、その先にまたも白人が瞬間移動し──
「……!」
白人は攻撃せずに身を引く。その次の瞬間に、確実に命を刈り取れるだけの雷撃。あのまま攻めていれば、白人はそれをもろに食らっていただろう。
優奈はそれだけの魔法を行使する用意を、予め自身を覆う殻のように張り巡らせていた。
しかし常にその殻を維持するというのは、相当に体力を使う。全速力で走り続けるようなもの。
「化物め」
「えっあの、えと……お互い様、っていうか……」
「あ、ぶきがない」
「えいっ」
「やめろ。やーめーろ。ガキ殺す気はねぇんだよ」
彼等の役割は恐らく、魔法陣の防衛がメインだ。ならばここから離れれば追ってくることはないだろうか。しかし、あのスキンヘッドの白人は瞬間移動をする。簡単に逃してくれるだろうか。
そうこう睨み合っている間にも、優奈は常に魔法を展開できる状態を維持している。今のところ問題はないが、あまり長期戦に渡るのは好ましくない。
ならば、こちらから仕掛けるか。
白人は瞬間移動をするが、しかしそれを連発はしない。連続して使用できないのかもしれない。だとしたら一度使わせて、その瞬間に撤退。
優奈は構える槍にも雷を纏わせる。ギラから学んだ技の一つだ。
「………」
白人は相変わらず寡黙。ヴァンパイアはカエラとじゃれ合う。
そんな中残る一人、知能指数の低そうな巨人が空を指差し、呟いた。
「あれなんだ」
すぐ近くの上空。
そこに、"穴"が空いていた。
勝手に呼ばれて勇者にされてた 新木稟陽 @Jupppon
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