第42話 求めていた援護


 頭上から襲来する不可視の剣。棍の一端を持ってそれを打ち返し、そのまま振り回して周囲からの追撃も遠ざける。同時にベルメットが土塊を砲弾のごとく飛ばし、柚希は棍を振るってそれを破壊する。

 『俺は足止めを』なんて確かに言ったが、本当は一人で敵を始末してしまうつもりでいた。しかし、これでは本当に余裕のない足止めだ。寧ろ、足止めすら儘ならない。ジリ貧どころか、相手は手を抜いているようにすら感じられる。


「んー、あなた、本当に大したものね。ここまで頑張る子なんて初めてよ。」

「へ、アンタの初めてになれて光栄だよ。」


 ベルメットは愉快に笑う。その笑い方一つをとっても男心をくすぐる。彼女を笑顔にできた事に喜びさえ感じそうになって、自分に喝を入れなおす。


「あーもう、なんでこんな美人殺さにゃいけんのや。勿体ねえ。」

「あらあらあら! 嬉しいこと言ってくれるじゃない。褒めても加減はしてあげないわよぉ。」


 嘘だ。現時点で加減されている。


「てか隣のお前、なんか喋れや」

「……何故だ」

「いやなんか……不安になる」

「ごめんなさいねえ。この子普段からこうなの。」


 この子、というほどかわいげはない。金髪のとんがりヘアー。典型的な貴族服の、険しい顔つきの美丈夫。彼は先からベルメットの隣に立っているだけで何も動きを見せないが、不可視の攻撃は彼によるものなのかもしれない。

 全く見当がつかないが、会話をした事でひとつわかった。

 二人の声は、確かに目の前の二人から発せられている。これらが幻覚であるという事はないようだ。

 話はここまで、とでも言うように無数の弾岩が柚希を襲う。その合間を縫って避ければ、今度は不可視の追撃とかち合う。不可視の攻撃は確かに厄介だが、それらは深追いをしてこない。反撃をかけようとすれば、一目散に散ってしまう。

 つまりこれといった反撃をできていないということだが、同時に不可視の存在も反撃を警戒している証拠でもある。不可視は、実体として存在している。

 凶悪な魔気を感じて避ければ、そこに雷撃が走る。柚希は不可視を最小限の動きで躱し、全速力でベルメットへと走る。


「あら、今度はあなたの番?」


 ベルメットの頭蓋目掛けた一撃は、彼女を庇った"この子"に阻まれる。腰にさげていた剣はファッションではないようだ。

 彼の剣は柚希に畳み掛ける。

 肩、手首、首。局所を的確に狙う剣を、柚希もまた的確に弾く。まるで殺陣のような光景。

 そこへ、蟻が巣穴を掘るように歪な軌道を描く魔気。それは柚希を狙ったものだが、目の前の男の肩にも掠っている。柚希が大袈裟に避ければ、そこに走るは唸る雷撃。


「埒明かねぇ……ん?」


 バランスを崩しながらも一度距離をおいた柚希は、ふと首をひねる。雷撃が掠ったはずの男の肩には、何の跡も残っていなかった。雷など通じない、魔王軍ならではの特殊装備なのか、あるいは。

 本当は、当たっていないのか。


「早かったすね」


 体勢を立て直す柚希の隣に、スーパーヒーローよろしく壮年の男が着地する。


「そんなに急がなくても良かったのに。俺一人でなんとかできます」


 強がる柚希は、体中裂傷に包まれている。対する相手は、無傷の二人。


「僕も歳ですかね。視力が落ちてきているのかもしれません。」

「はっ、違いない」


 柚希は、壮に今わかっている相手の情報を耳打ちする。

 ベルメットが魔法を使う事、隣の男は近距離戦タイプという事、不可視の攻撃の事、目の前の二人は確かにそこに存在している事。


「すいません、これしかわかってないです」

「なるほど、厄介ですね」

「話し口だけで考えれば左の女の方が上っぽいです。そっちを先に潰したほうがいいのか、しかし不可視はどっちの技かすらわからない。」

「わかりました。」


 暢気に話すなと言わんばかりに不可視が壮を襲うが、柚希が庇って弾く。


「こんな感じです。」

「助かりました。では、僕が先に。」


 壮がベルメットに斬りかかると、やはり隣の男がそれを庇う。そこへ三方からかかる三つの不可視。背後の一つは壮自身が振り返って蹴り返し、左右の二つは、壮の上を飛び越す柚希が防ぐ。柚希は棍を槍投げの要領で投擲するも、ベルメットを貫く事は叶わず地面に突き刺さる。

 柚希はそれを引き抜き、更に後ろへ下がったベルメットを見て深く溜息。


「面倒臭ぇー………」

「あなた……本当に見えてないのよね? 人間なのに見えなくてどうしてそんなに動けるの……?」


 ベルメットの口調から少し余裕がなくなる。これが素なのだろうか。


「見えなくて、ねぇ。本当に見えねぇ……そっか、見えねえなら。」


 見えないのなら。

 見なければいい。

 視界に、囚われすぎていた。今まで、目で見た情報ばかり重視していたから。それがなければ、動けなかったから。


「柚君、何を?」

「ちょっと、試しです。」


 柚希は目を閉じる。目を閉じ、その他の感覚を研ぎ澄ます。聴覚、嗅覚、そして気配を感じ取る。匂いの位置、息遣い、移動による空気の流れの変化。視覚を遮断した途端、それ以外の情報が体に、脳に流れ込む。

 隣には不可視を凌いで横に立つ壮。向かいには柚希と距離を取ったベルメットと、横に男。更に柚希と壮を囲うように、三つの存在。

 見えないのなら、見なければ良い。


「前の二人、お願いします」


 そう言うと次の瞬間、柚希は左方の存在のすぐそばに。"それ"は咄嗟に剣で防御体勢を取るが、それごと蹴り飛ばす。ベルメットが飛ばした岩石は壮に砕かれ、そして遅れて援護に入った別の不可視に──


「「グッ………!」」


 柚希が剣を突き刺すと、その不可視ともう一人、前方ベルメットの横に立っていた男から、唸りが漏れる。


「そういう事、か?」


 と、怯む男にターゲットを変える柚希だが──


「柚君、待って」


 壮に静止される。


「あれを。」

「え?」


 そう、指差された先。街の中心部方面の上空に、穴が開いていた。

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