第8話 私はいつも道を間違える。

 「ラシル。いい加減にしてくれ。」

かなり怒気が込められている。

「3日だ。3日もいるんだぞ!」


さまよっているとは失礼だ。正体不明のトレンチコートと戦い、魂を失って死んだはずのルイ君の体を借りこの世界に現れた『サトリ』が旅の仲間になったのが3日前だ。確かに私の予想より時間がかかっている気がしなくもないが今回は自信があった。


「次の村へのルートはちゃんとあっているんだから。この川沿いに進めば北に向かっていることになるの。あなたは黙ってついてきなさいよ。」

「お前、この前もそういって道なき道を歩かせただろう。大体なぁ・・・・」

そのあとも何か言っているようだったが話が長くなりそうだし、鼻から聞く気もなかったので無視した。


今まで私たちの会話を黙って聞いていたエリスが申し訳なさそうに、

「あの、ラシルさん。今、川沿いを歩けば北に行くとおっしゃいましたか?」

「えぇ、そういったけど。違うの?」

「まぁあながち間違いではないのですが、この川はこの国で一番長い川でして国を二分するように西に流れているんですよ。正確には北東から西に斜めに流れているので上流を目指せば少しは北に進んでいることになりますけど。」

今、東西に流れていると聞こえたがもし聞き間違えではなかったらかなりの無駄足になっていることになる。すると『サトリ』が、

「聞き間違いじゃないよ、ラシルおねえちゃん。」

思わず口に出してしまったかと焦ったが、この子は心を読めるのであった。

「”聞き間違い”とか”東西”とか聞こえてきたが、やっぱりなんだな。」

カシムはかなりあきれた様子である。


「今回は自信があったのになっ。てへ。」

「”てへ”じゃないだろ。どうするんだよ。」

「うるさいわね、ちょっと道を間違えたくらいでグチグチ言わないでよ。」

「うるさいとは何だよ。方角もわからないくせに前を歩くなよ。」


さすがに頭にきた。ここで一発きついのをお見舞いしないと気が済まない。

「この中で一番戦力に難があるあなたに言われたくないわ。」

「おまっ。言ってはならないことを・・・。このやろー!!」

カシムが掴みかかってきたが私に届くことはなく、


「やめなさい。」

カシムだけに鉄拳という名の神罰が下された。さすがだ。

「ぼくさつしんかん?」

慌てて『サトリ』の口をふさぐ。

「何か言いました?」

「いえ、何も言っておりません。」

怖い。何が怖いかといえば、あの満面の笑みがとても怖い。

「ここで言い争っても仕方ありません。このまま上流を目指して王都を目指しましょう。」


「王都ですって!」満面の笑み。

「王都か・・・。」なぜか乗り気ではない様子。


そうだ、『サトリ』に頼んでカシムの心の中をのぞいてもらおう。

「ねぇ—。」

「嫌だよ。」

全て言い切る前に断られてしまった。


「補給もなしのこのまま北を目指してもただ消耗するだけです。それに私たちには情報もなく、装備も乏しい。ここから先、危険で強い相手と戦わなくてはいけません。そのためにも寄り道をする価値はあると思います。」

エリスの言うことは確かだ。

「まぁその通りなんだけどよ。いや、わかった。王都に行こう。」

何かの迷いを断ち切るようにカシムは言い切った。


私はいつも道を間違える。

あの時だってそうだ、村の門さえ開けていなければ違う道を歩んでいたかもしれない。故郷を失わずに済んだかもしれない。私が気づくのが早ければルイ君を助けられたかもしれない。私が—

「それは違うよ。お姉ちゃん。」

「たとえ間違えていたとしても一緒に歩いてくれる人たちがいるじゃない。僕もその一人だ。大丈夫。」

どこからとなく声が聞こえた。声の主はわからないけれど、考えるまでもない。

—そうだね、間違えても大丈夫だね—


「よし、行き先が決まったのなら私についてきなさい。」

「おい!!!懲りねぇな。」

カシムがあきれる。エリスは苦笑い。

でも、ついてきてくれる。

私はいつも道を間違える。でも、間違った道を構わず進んでやる。

そうして

私たちはまた歩き出す。



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リレー小説② タイトル未定 まうんてんごりら @Shirokuma3107

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