リレー小説② タイトル未定
まうんてんごりら
第2話 初めてと誓い
森の中。
アルトの村を出発して2日ほど経った。教会にあった地図を確認しながら私たちは北を目指していた。
「おい、本当にこっちであってんのかよ。ここどう見ても道じゃないだろ。」
私の幼馴染、カシムが呆れ顔で聞いてくる。
「あってるに決まってるでしょ。地図読めないアナタは黙ってついて来なさいよ。」
そう言う私に向かって何か文句を言っているようであったが無視する。強引に道無き道を進んで行くそんな私に、
「あの…ラシルさん。あっち。」
先日、アルトの村で私たちと一緒に旅をする事になった神官のエリスは申し訳なさそうに指を指す。
その先を見ると、なんと、そこには道があった。
「それ、もう少し早く言って欲しかったわ。」
カシムはまた何か文句を言っているようであったが、やはり無視する。
かなり歩きやすくなりペースが上がって来た。そんな中カシムがいきなり大きな声を出し走り出す。
「おい、誰か倒れてるぞ。」
私とエリスも遅れて駆け寄ると10歳くらいの男の子であった。カシムが抱きかかえようとしたとき、
「待ってください。」
エリスの大きい声がカシムを止める。
「その子は呪いがかけられています。触れたら呪いが移る可能性があります。」
慌てて一歩引くカシムが
「じゃあどうすればいいんだよ。」
「ひとまず、応急処置で触れても大丈夫なくらいまで呪いを弱めます。しかし、呪いは教会に行って解呪するか呪いをかけた本人を殺さない限りこの子は救えません。」
エリスの応急処置でいくらか顔色がよくなったように見えるが、呪いを長く受けすぎたせいか衰弱が著しい。エリスの見立てではあと2~3日で命を落としてしまうとのことだ。
「急ぐわよ。」
私たちは本来の目的地であり、一番近くの村”ミール”に向かうことにする。
村に到着。
アルトの村とは違い村に入ってすぐに死体を見ることはなかったのだがひどい荒れようだった。荒れようであったが壊滅してはいなかった。村に入るなり女性が一人物凄い形相で駆け寄ってくる。この子の母親だ。私たちを殺そうとせんばかりであったが、神官であるエリスが説明すると徐々に落ち着きを取り戻す。
「それで、この村に教会はありますでしょうか。それとこの村の神官も紹介してください。」
別のところで情報収集をしていた私たちはエリスに重大な事実を報告する。
「ねぇ、聞いてエリス。この村、教会が無いみたいなのよ。」
「そうですか。」
意外と落ち着いた様子のエリスにカシムが、
「なんだよ、落ち着いているな。」
「いえ、このような田舎の村には教会が無いことは珍しいことではありません。」
別に信仰が無いというわけではないらしいのだが教会もこんな辺境に資金を回す余裕がないとのことだ。教会が無いならやることは決まる。
「じゃあ、行きますか。」
「どこに?」
エリスは驚いた様子でカシムに問う。
東の山、登山口。
村人から集めた情報によると、ここに攻めてきている魔族は東の山に住み着きそこを拠点に村を攻めてきているそうだ。何度か反撃に出ようとしたものの素人に毛が生えたような練度の村人では歯が立たなかったそうだ。敵陣に攻め込む前に作戦を立てる必要がある。
「ゴブリンか・・・。」
カシムがため息をつくように言う。
ゴブリン。
身長100センチメートルほどの人型の魔物。知性を持ち人語も理解するという。基本的には棍棒や石器といった原始的な武器を使用するが、高位な個体になると簡単な魔法も使うといわれている。打撃も魔法も効くが、連携が取れた攻撃をしてくるなど厄介な相手だ。
私とカシムはどのようにあのゴブリン達を倒そうか作戦を話し合っていると、エリスがおもむろに立ち上がる。そして走り出そうとする。
「ちょっと待ちなさい。」
慌てて止める。念のため何をしようとしたのか確認すると、
「えっ、魔物を倒しに行くに決まってるじゃないですか。」
などと当たり前のように言うエリス。
止めて正解だった。回復魔法を使える神官を最前線で戦わせるわけには行かない。ひょっとして馬鹿なのだろうか。呆れた様子でカシムが声をかける。
「魔物は俺たちがやる。エリスは物陰に隠れて万が一の時に備えてくれ。」
「わかりました。」
どこか不満げであったが納得してもらえたようだ。カシムが敵を引き付け、私が魔法で後方から援護。撃ち漏らした敵をカシムが各個撃破する。そしてエリスは私たちに何かあった時の回復役だ。戦術としてはオーソドックスなものだが簡単な方が戦いの最中にお互い確認し合う手間が省ける。
そんなこんなで、入口の敵はあっさりと撃破。山をどんどん登って行くとする。
山を登る道中何度も敵と遭遇したが、私とカシムの連携でなんとか進んでいる。しかしながら、エリスには戦闘経験があるのだろうかごく稀に私たちが撃ち漏らした敵をあっさりと倒してしまう。あの軽やかな身のこなしとメイスの操作、もしかしたら実力はカシム以上なのかもしれない。そんなことになったらカシムの居場所がなくなるわね。
順調に山を登り、山頂に到着。私たちは帰りたくなった。ゴブリンの親玉に恐れをなした訳ではない。私たちの目の前にはゴブリンの軍勢が。数えるだけで眠くなりそうだが、ざっと50はいるだろう。カシムは、
「なんか秘められた力とか発揮してコイツら全滅させられないかな?」
「そんな都合のいい話ある訳ないしでしょ!」
ゴブリンの親玉が私たちを見るなり、
「ナンダ、ガキトメス2匹ダケカ。ガキハトモカク、メスノブンザイデオレノマエニアラワレルトハ。」
親玉に続いてゴブリンたちが笑う。
とても腹が立ったのだが、この軍勢を前にして強気でいられるはずがない。そんな中、一人だけ違う態度の者が居た。エリスだ。
「『メスの分際』だと。おい、テメェ畜生のくせに舐めた口聞いてんじゃねぇぞ。」
ん?えーと、ここいるのは神に仕える神官殿だよね?
「女舐めてると承知しねぇぞコノヤロォォォ。」
メイスを振り回しながらゴブリンの軍勢に襲いかかる。それはもう一騎当千の活躍でゴブリンの軍勢の殆どを倒してしまった。カシムは何故か内股になっている。残りの兵も私とカシムで倒す。あっという間に手下を全滅させられた親玉は戦意を喪失してしまっている。しかし、男の子の呪いを解くには掛けた相手を殺さなければならない。戦意を失った相手にとどめを刺すのはなんとも言えない。しかしエリスは、
「あなたがいる限り男の子は救えません。たとえ他者を傷付けようとも私は救いを求める人たちの味方でありたい。だから、神のもとで悔い改めなさい。神は全てを許します。」
メイスで撲殺。
「神よ。どうか未熟な私をお許しください。」
そうして静かに涙を流す。
私は彼女になんて声をかけたらいいのか分からなかった。
矛盾を孕んだあの言葉、
『たとえ他者を傷付けようとも私は救いを求める人たちの味方でありたい。』
彼女の強い意志が伝わってきた。私にここまではっきりとした意志があるだろうか。
暫く沈黙が続く中カシムが一言。
「帰ろうか。」
ミールの村に帰った私たちは男の子の様子を見に向かった。エリスによると快方に向かっているらしい。村の人々はそれを聞いて大喜びしている。
カシムと私は今は無い故郷を思い浮かべていた。
「あの時、俺がみんなを守れるくらい強かったら。」
「タラレバの話をしたってしょうがないじゃない。でも、奪われ続けていた私たちは初めて何かを守れたのよ。」
「そうだよな。まぁ守ったのはエリスだけど…。」
カシムは真っ直ぐな眼差しを私に向け、
「よし、俺は決めた。俺誓うよ。もっともっと強くなる。そして、お前もエリスもここの村の様な人たちも皆んなまとめて守れるくらいになってやるからな。あとはエリスは怒らせない様にするのもな。」
そう言って笑うカシムから私は目を背けてしまった。眩しかったのだ。いや、あの頃から何も進めていない私自身が恥ずかしくなった。
未だ道半ばの旅は何が待っているのだろうか。私は一歩でも進めるのだろうか。
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