第3話「真打の登場 -Be Arise-」
東京都内は大混乱だった。
だが、どこへ逃げようというのか……空から、恐竜を滅ぼした規模の巨大構造物が落下してくるのだ。爆心地は
太陽の光が届かなくなる、これが
「
「う、うん」
周囲を逃げ惑う人達は、誘導する警察官の声にも
そして、どうやら都庁の世界樹に向かう幹線道路は封鎖されてるらしい。
「まずいな、ルートを変える必要がある……でも、どうして世界樹へ?」
英雄には莫大な富もないし、それを適切に運用する判断力もない。そして、あの
ただ、精霊達を
それすらも、背後の真姫に比べれば未熟だった。
だが、静かな声がはっきりと目的を教えてくれる。
「今……地球全土の世界樹が、呼んでるの」
「呼んでる?」
「そう、呼んでる……この世界に満ちた精霊達と共に、みんなの地球を守るために」
「何を……やろうっていうんだろう。俺にも……何か、できるのかな」
「それは、わからないよ? でも……でもっ!」
グッと真姫は、英雄の背後から飛び出した。
そして、
「何かができる
「真姫と、俺と?」
「他に誰かいるの? ……あー、いるんだ? ねえ、いるんでしょ。私の他に誰かが」
「いっ、いや! いないっ! いません! いてはなりません!」
「ふふ、よろしい」
いつもの真姫がそこにはいた。
そして、いつもの調子ではいられない現状がある。
その中で、彼女が無理して普段の自分を演じてるのが伝わった。
こんな時、どうしていいかわからない。
だが、改めて英雄は
必ず真姫を守ると。
サイレンの音がジリリとけたたましく響いたのは、そんな時だった。
「な、何だ!?」
「見てっ、英雄くん! あそこ、銀行!」
目の前の銀行から、突然
「って、丸太ぁ!?」
「
「真姫……今度からあいつの言うこと、まともに聞いちゃ駄目だぞ?」
「えっ!? ち、違うの!? 都会は変わってるなあって……てっきり」
この非常時に、銀行強盗だ。
いや、非常時だからか……逃げるのが無駄と知った、それは暴徒の
そして、逃げようとする銀行強盗の一団がこちらへやってくる。
思わず英雄は、真姫を抱き寄せた。
身を
精霊に頼んで、連中に何か……だが、何を? どうすれば!
声が降ってきたのは、まさにその瞬間だった。
「
暗雲垂れ込めるビルから飛び出た、立て看板の上に人影がある。赤いマフラーを風に
彼の左手には、不思議な腕輪が光っていた。
そのまま、謎の少年は英雄と真姫の前へと降りてくる。
その時にはもう、彼の腕輪は光と共に黒い
「精霊使いには初めてだな……ちょっと彼女を借りるぞ、英雄!」
不意に少年は、真姫に触れた。
その左の瞳が、真っ赤な光に満ちて彼女から呼吸も鼓動も奪う。
あまりに突然のことに、英雄はただただ真姫を抱きしめてやるしかできなかった。
そして……少年はなんと、真姫の中から、メモリのようなものを引っ張り出した。大きさは丁度、カードケース程度だ。それを篭手へとセットすると、無機質な声が響いた。
『
「っと、なるほど……こいつで、巻き付けて、巻き取れ! ってね!」
あっという間に少年は、篭手から現れた光の布を解き放つ。真姫から取り出したそれは、帯のように伸びて巻き付き、銀行強盗をその場に縛りあげた。
悲鳴を上げて残りの
だが、余裕の笑みで彼は振り返った。
「佐倉英雄に巻波真姫、だな? 俺の名は
「あ、ああ……えと、ありが、とう。でも、俺達?」
「ああ、メガフロートから来た俺達が、だ」
ユウトと名乗った少年の声を、激しいスキール音がかき消す。
逃げ出した銀行強盗の数人が、待っていたトラックへと飛び乗ったのだ。共犯者のトラックは、荷台から荷物を
なんてさもしい……英雄の心が暗く冷たくなってゆく。
今、この瞬間の危機の中でさえ、己のエゴと欲を振りかざす人間がいる。
一方で、ユウトのような
そして、トラックがこっちへ突っ込んでくる中、ユウトは余裕の笑みだ。
「お、おいっ! ユウト、後ろ! トラックが!」
「ああ、大丈夫。真姫さん? 俺達が守ると言った……真なる姫を守る、最強の鎧がね」
激しい振動と共に、何かが頭上から降りてきた。
そして、巨大な手が英雄と真姫を守る。その外側では、弾き出されたトラックが
ようやく警察官達が駆け寄る中、英雄は見上げた。
そこには、
そのコクピットが開放されて、眼鏡をかけた少女が叫ぶ。
「ユウト、平気? あんたまで面倒、見きれないよ! ……保護対象の安全は確保。って、ユウトー? あれ? 踏み潰しちゃったかな……」
小柄な少女は、ユウトと同じメガフロートから来た
メガフロートは現在、多くの先進技術や魔術等が研究される特区になっている。
そのことを思い出すと、鋼鉄の手の影からユウトが
「あっぶねー、おいマコト! 俺じゃなかったら死んでるって!」
「
「しょうがないだろ、こんな時だ!」
「こんな時だから……女の子の約束くらい、守ったら?」
「……こんな時だからこそ、俺は自分にしかできないことを選びたい。お前はどうだ? ベイルアウター」
「……やっぱ殺そう。うん、そうしよ」
「わーっ、ゴメン! 嘘だ! でも、来てくれて助かったぜ!」
英雄は真姫が声をかけてくれるまで、
そして、言われて気付く。
ずっと、彼女を強く抱き締めたままだった。
「ご、ごめん! でも……助かったあ」
「凄いね、英雄くん。さっきの、魔法? ちょっと聞いたことがあるけど、ルーンの腕輪の力かも。あと、このロボットは……しおんちゃんがオマケつきチョコ買ってる、あれかなあ?」
周囲が騒然とする中、どうにか英雄は心を落ち着ける。
また、何もできなかった。
ただ、身を固くして真姫を抱き寄せるしかできなかった。
そんな自分に、ユウトは言ってくれた……戦っては駄目だと。それは、どこか
そう思っていると、見下ろすマコトも側のユウトも、緊張に身を正した。
二人の視線を追って振り返ると、一人の少年が立っている。
だが、彼の瞳には不思議な闇が
酷く老成した目が、一同を見詰めて笑っている。
「
「あ……!
「へー、あれがレディムーンの言ってた……」
椚先生……先生という敬称がぴったりの貫禄で、
「ちょいと元凶が
マコトが
「ユウト、お前さんは引き続き二人を警護だ。悪ぃが、死守しろ」
「わかりました! ……でも、精霊使いなんて探せば他にも」
「ま、そう言うなや。この土地の精霊、そして世界樹に一番身近な精霊使いが好ましいんだからよ。
「そういうことなら」
そして、最後に椚は……先程クラッシュしたトラックにも声をかける。
「悪いなぁ、巻き込んじまって。巻き込まれついでだ、頼まれてくれねえか?」
彼の声に、ふわりと白い影が浮かび上がった。
その男は、透けた身体で呆然と自分を指差している。
「お前さん、名は」
「あ……
「まあ、運がなかったなあ。さらに悪い事に……お前さん、あの世にはいけねえぜ?」
フウロが目を
頼もしいその笑みに、英雄は底知れぬ恐ろしさを感じずにはいられない。だが、悪意は感じられない……むしろ、椚と呼ばれた男の周囲では、不思議と精霊達も
登場人物紹介
🌲都庁上空の世界樹は今日も元気なようです。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884487981
・佐倉英雄:高校生。精霊を視る力を持つが、周囲には秘密にしている。
・巻波真姫:高校生。強い力を持つ精霊使い。
🅾蒼眼の魔道士(ワーロック)
https://kakuyomu.jp/works/4852201425154893854
・吉野ユウト:高校生。人の思念や想いを武器化して戦う魔法使い。
🐣鎧装真姫ゴッドグレイツ
https://kakuyomu.jp/works/1177354054883341204
・真薙真:高校生。巨大ロボSV操縦の訓練生、あだ名はベイルアウター。
☯闘仙クヌギは鬼よりこわい
https://kakuyomu.jp/works/1177354054883276139
・椚:大学生。妖魔や怪異に精通し、闇の仕事を請け負い邪を鎮める。
🎯魔法創造者の異世界人生 ~テンプレ世界を謳歌せよ!~
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884298797
・有川楓路:ラノベが大好きで異世界転生を夢見る青年。
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