第4話「Track 04. 一人じゃない、一つだから」
次々と更新される状況が、タブレットを通じて世界中に流れてゆく。
今、宇宙で必死に仲間達が戦っている。自分の雇った従業員、
そして、その興奮はこの上ない
「ルア、再生数がどんどん上がってるみたいだね。でも、宇宙では少し
すぐ横で、嫌に落ち着いた声が響く。
仮の避難所として開放された東京ビッグサイトで、
そして、皆が持つ携帯の中に、ウィーチューブ等の動画サイトを通じて希望が宿る。
宇宙で破滅に
その熱気を感じて、ルアの顔には挑発的な笑みが鮮やかに浮かび上がっていた。
「そろそろ、彼女達の出番ね」
「ああ、頼むよ。これから俺が最後の力を呼び寄せる。宇宙には大いなる乙女の火と火を
「あいかわらず達観してるのね。全て予定通り?」
「いや、そうでもないよ。俺の命以上のものが必要になったから……だから、彼女達の力が必要になったんだ」
平然と守和斗は、自分の命を捨てると言い放つ。
世界の敵の敵として、あらゆる異能の力をその身に収めてきた戦士……
だが、それを引き止める権利はルアにはない。
そして彼女は、助力を求めて拒めるような人間でもなかった。
そして、舞台に役者が揃う。
背後に複数の少女達が現れた。
「あの……ルアさん。準備OK、ですけど」
少し弱気な声は、リーダーの
そして、彼女達はルアの高校のスクールアイドル……グループ名は『
今、彼女達の歌に人類の存亡がかかっていた。
だが、華子の瞳は不安げに揺れている。
そして、メンバーの
だが、無茶で無謀と言われても、無理だとは言わせない。
それだけは、ELEMENTSの皆が共有していると信じていた。
「じゃあ、お願いするわね……華子さん。そして、ELEMENTS+1のみんな」
そう、プラスワン……本来いない筈の少女が声をあげた。
人数不足を補うべく、急遽臨時メンバーとしての参加である。その歌唱力はぼちぼち、ダンスの振り付けなども詰め込めるだけ詰め込んだ。
ただ、その圧倒的なやる気と根性、そして声量だけは本物だ。
彼女は、隣の一年生の背中をバン! と叩きながら笑う。
この状況下で笑える
「だいじょーぶだよ! ね、
「そうです、皆さん……私達がELEMENTS……精霊の祈りと願いを束ねる者達だと、証明します」
強く、熱い言葉だった。
その心地よい熱量が、ルアの中で燃える
少女の名は、
だが、彼女は灰の中から蘇る
「私がみんなのハートに火を付けます。そして――」
一歩進み出る結依の先に、スポットライトの光が舞い降りる。
精霊達の心と魂を繋げるべく、現代に蘇った
人数の数だけ灯った、その光の真中へ結依が進んでゆく。それを見送る少女達の顔に、あっという間にいつもの力が戻ってきた。
不安や恐れ、自分の弱さ……それを知るからこそ、乗り越える。
今の気持ちを乗りこなして、少女は
人はそれを、アイドルと
あのしおんでさえ、アイドル部の皆と並んで気後れしていない。
ルアはタブレットを操作して、ゴーサインを出す。
すぐにスタッフ達の音響と演出が、全避難民の視線を残らずさらった。
「みんなでハートに火を付けます! そう、私達は……この星のELEMENTS!」
ルアは確信した。
このライブは成功する。
そして、もう隣に守和斗の姿はない。
今、始まる……
ルアが見送る先、光差すステージの上に少女達は集った。
心地よい緊張感の中、彼女達の最後の
「ねえ、これ……スクールアイドルってレベルじゃないわよね」
「そ、そうですよ、マリナ先輩……えっと」
「全世界が見てる……ワールドアイドル? プラネットアイドル?」
「アースアイドル、とか?」
だが、何十万人という人間の不安に彩られた視線を吸い込み、華子が断言した。
その言葉を皆が、心に刻む。
「決まってるじゃない……私達は、
大音響で
派手にスモークが吹き出す中で、ELEMENTSのステージが始まった。
突然のことに
同時に、ルアは走り出す。
「回線を集めるだけ集めて! 全世界同時配信よ……それと、宇宙の中継にこの歌を重ねて!」
冷たい真空の
何もない空間をも震わせ伝わる、巨大な想いが燃え上がる。
世界中の精霊が耳を傾ける、応援というレベルを超えた
生きとし生けるもの全てへと
センターで歌う結依の声が、澄んで透き通る。
そして、静かに燃える
――今、もしも、もしも神様が見てるなら。
この私を見ていてくれるなら――
歌声が世界へと広がってゆく。
ルアには確かめる術がないが、世界中の精霊達が安定してゆく
日本の、東京の世界樹を通じて地球の全ての世界樹が感応した時……奇跡が起きる。
そう、奇跡を起こすのだ。
――ずっと、いつも、いつも神様がいるのなら。
この世界を優しく包んでくれてるなら――
ルアは神という存在については、無関心だ。
ただ、都合のいい時だけ頼るような真似はしないつもりでいる。そして、信仰心への敬意だって忘れない。神様を信じられるかと言われると、今はまだ答えは出せないが……神を信じてベストを尽くす人間は、無条件で信じられる。
「世界各地で世界樹が? ……何これ、光ってる。すぐに繋げなきゃ!」
タブレットでルアは、世界中の中継を繋げてランダムで流す。
このライブ会場のスクリーンに、無数に散りばめる。
同時に、配信されるライブシーンへも織り交ぜ、そして宇宙での奮闘を一緒に流した。
今、有史以来恐らく初めてかもしれない一体感が、地球と人類に満ちていこうとしていた。
――どうか、神様……お願い、神様。
その手をお貸しにならないで。
等しく優しい、その優しさで。
何もできずに孤独な神様――
「今度は……何!? 海が……東京湾が」
圧倒的なELEMENTSのライブで、東京ビッグサイトの無数の人々が一つになった。
誰もが一人じゃない、一つだということを思い出した。
この逆境、迫り来る破滅の中で誰もが祈る。
その想いを歌が
そして、ルアは不意に声を聴いた気がした。
『上手くいきそうだね。じゃあ、俺はここまでだよ。
「守和斗! ……あんた、いい仕事したわ。とてもいい仕事だった。だから」
『だから?』
「今度会ったら、雇ってあげてもいいわ。勿論、正社員待遇よ」
『君が世界の敵でない限り、俺は常に君の味方さ。じゃあ、また』
「ええ、また。またいつか」
――見守り、
それしかできない神様、お願い。
人を信じて、私に行かせて。
その先が闇でも、歩かせて。
ソロパートを歌い出した結依の声が、言葉の輪郭に翼を与えた。
そして、彼女の
「――例え
「照らすしかできない神様の光で――どんな闇へも、歩いてゆける」
そして、ルアは見た。
その場の全員が見た。
東京湾の中から、結依の声が点火した奇跡の
それはとても巨大な、そして
「「――
燃え上がる
その
登場人物紹介
💴労基ラブコメ ぼくとツンベアお嬢様
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884554542
・八頭司ルア:高校生、実業家。ウェブサービス企業の経営者。
🌲都庁上空の世界樹は今日も元気なようです。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884487981
・星宮しおん:高校生。英雄が精霊視ができるという秘密を知っている。胸が豊か。
🆘アルティメイタム~冒険生活支援者ライフヘルパーはレベルが上がらない!?( #アラレない )
https://kakuyomu.jp/works/1177354054883806205
・守和斗:冒険生活支援者。元・救世主。数多の異能力を持つ。
🎤IDOLIZE -アイドライズ-
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884335211
・火群結依:高校生。元人気子役。事故で聴覚障害となるも、アイドルを目指す。
・千葉華子:高校生。アイドル部を一人で支えてきた。アイドル活動に打ち込む。
・湊マリナ:高校生。元チア部でアイドル部をいじめていたが、今は仲間。
・網野あいり:高校生。アイドル部新入部員で、引っ込み思案ながらも頑張り屋。
・逆瀬川怜音:高校生。歌劇の男役として教育を受けた、異色のアイドル部員。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます