第5話「機神鳴動」
暗黒の宇宙に光が広がる。
宇宙ステーションの
大気との
古き神々の力を宿した鬼神ルシフェルの中にも、逃しきれぬ熱が這い上がってくる。
だが、周囲の仲間達には緊張感のない言葉が行き交っていた。
『わぁ、いいんですか!? あ、あのっ、僕、前から
『もちのもち、もちもちオッケーだよっ! サインくらいお安い御用さ、シャオフゥ』
『そういえば、鞠華さん達って、服とかどこで買ってるんですかぁ?』
ダイヒロインへと合体したグランドアークの中から、
皆、事情は違えど女装する美少年ばかりだ。
どういう訳か、地球存亡の危機に集った戦士達の中に、女装少年が5人もいるのだ。
『ったく、緊張感ねえのかよ! あ、悪ぃな、桜』
『まあまあ、
『
周囲にも笑いが満ちる。
これもまた人間の強さだと、桜は学園で多くを学んだ。
世界の終わりを背負っていても、人は笑い、泣き、歌い、踊る。人の心は形がなく、ただ存在するというだけで全てに作用してゆくのだ。心が曇れば世界に闇がさし、心の柔らかさや温かさは世界を照らす。
「へへ、豪気な連中だぜ。この状況で笑ってやがる」
「頼もしき者達です……それより、
「何っ? おいリリス、どうして」
「先程から鬼神ルシフェルを中心に、皆で
桜は首を
そもそも、本来は直径100mに満たない小さな宇宙ステーションの残骸である。それが今、周囲のデブリを吸い上げ取り込み、直径10kmを超える巨大構造物と成り果てた。
原因は今持って不明だった。
今、この瞬間まで。
リリスは冷静に、表情一つ変えずに喋り続ける。
「あの中に……宇宙ステーションの中に、閉じ込められている生命がある」
「何っ!? あの中に人間が?」
「人かどうかはわからない。実験動物の可能性も……だが、その生命は地球への
「じゃあ、周囲のデブリを吸い込んでいるのも」
「全てはもとは地球のもの、あらゆる物質は地球より生まれた。帰還を望む強力な思念が、地球の名残とも言えるデブリを巻き込んでいる」
全く想定外の事実だった。
問題の宇宙ステーションは、旧世紀に廃棄されたものだ。
冷戦構造の中で宇宙開発競争が加熱し、
件の宇宙ステーションも、その一つだ。
「つまり……中にいる誰かを、その何者かを」
「そう、救い出さねばなるまい。軌道上に浮かぶデブリを
「また?」
赤いドレスでコクピットに浮かぶリリスが、言葉を
だが、彼女は憂いを帯びた顔に寂しげな笑みを浮かべる。
「世界は無数に分岐し、数多の可能性は無限大……その一つ一つが、生命の輝きに満ちている」
「おいおい、何を言い出すんだよ」
「……その全てに、等しく光と闇とが内包された。そして、人の心はどちらにも
それが、
連なり続く終わらないメビウスの輪だ。
そして、リリスは驚くべき言葉を告げてくる。
「可能性は、その全てが未来。そして、交わらぬ道……しかし、その流れを繰り返し飛ぶ鳥がいるとしたら……その翼が、行き着く先もなく永遠に
「それが、リリス……お前だっていうのかよ」
「皆、同じこと。主様が今いる場所、今の名前……それはこの世界だけのこと。そして、
リリスの言葉は、まるで歌うように響く。
だが、意味不明な単語の羅列が、桜には不思議とわかる気がした。
理解ではない……直感でそう思ったのだ。
同時に、回線を通じて聴き慣れた声が飛び込んでくる。
『フッ、桜……見ちゃおれんな。少し手伝ってやる』
『僕ちんが手を貸してやんだ、下手こいたらブッ殺すかんな!』
学園の仲間、
「お前等……いいのか? 俺を手伝って」
『勘違いするなよ、桜。地球の危機は、地獄門だけじゃない。なら、その全てと鬼神は戦うべきだ。それに』
「それに?」
『
隼人の言葉に弁慶が笑う。
普段はなかなか素直になれず、互いが背負った宿命が対決を
そんな中でも、皆で人知れず世界を守ってきた自負が、桜にはあった。
そして、それは皆も一緒だ。
さらに、もう一機……地上から上がってきた小型の機体が、ブースターをパージした。
「ん? ありゃ……練習機!? だが、ありがてぇ! 今は猫の手も借りたいからな」
「主様」
「ああ、わかってる……任せろ、リリス。他の世界線なんざ知ったこっちゃねえ! けど、俺とみんなの世界は、守る! ここを、お前の泣かなくていい世界にしてやるぜっ!」
より一層の力を振り絞り、誰もが必死で巨大構造物を押す。
その間も、
ほぼ球形で固まり続けている落下物は、徐々にその先端が伸び始めた。
その時にはもう、教習用
白く輝く熱の中で、少女の声が
『少し、削らなきゃ……今のままじゃ、重過ぎるから!』
彼女の声に呼応する用に……突如、
それが、高速で飛翔する物体だと気付いた時には、桜の鬼神ルシフェルを
それは、獄炎を纏った魔神のような頭部だ。
『マコトォ! ジーオッドの力を使え!』
『言われなくても……ッ! ガイさんっ!』
頭部だけの魔神が、ビシューと重なる。
そして、桜は目撃した。
激しい発火現象の中、燃え盛る巨大構造物の上に……業火の化身たる魔神が姿を現す。腕組み立つ姿は、先程のジーオッドと呼ばれた頭部がビシューに合体していた。
それだけではない、両腕もパーツが合体して膨れ上がっている。
そこには、簡素な訓練用の頼りない姿はなかった。
『そこの悪魔っぽいのの人! 私は
『おうっ、助かるぜ!』
『これから私のビシューで……ゴッドグレイツでデカブツの質量を減らします!』
――ゴッドグレイツ。
文字通り燃え
大気圏すれすれを飛ぶ中、燃え盛る灼熱地獄をも吹き飛ばす圧倒的な熱量。
噴き上がるマグマにも似た
そして、援軍はそれだけではなかった。
不意に、巨大な質量反応が真上に現れる。
『見てっ、アヤ! あれ……地球! えっ、何!? ここ、宇宙!?』
『そう、見たい……どうして? 光に吸い込まれて、それでさっき』
少女の声だった。
そして、その清らかな純真さが似つかわしくない程に、禍々しい巨体が降りてくる。それはまるで羽虫のようであり、ゴッドグレイツという名の
だが、桜は敵意を感じなかった。
そして、リリスの驚きの呟きを聴く。
「まさか……異なる世界から呼び出したのか。
「何だそりゃ、リリス!」
「ここではない時、いまではない場所……凍れる煉獄を灼く力。それだけの召喚をする対価を、使ったというのか? いや、違う……
真空の宇宙に、歌が響いていた。
そして、その想いが身を寄せ合うような震えが、巨大な異形の神を変形させてゆく。巨大な両手が、激しい振動と共に凶星を
交わした言葉より先に、少女達が操る巨神が力強く後押ししてくれる。
『見て、ハナ……あの地球、明かりがあんなに。人があんなに住んでる! 生きてるんだよ!』
『これが落っこちちゃ、駄目だよね。何かの本で昔、呼んだ……核の冬……太陽が見えなくなって、氷河期がくる』
『それって、わたし達みたいになっちゃう! 止めなきゃ!』
『えっと、ちょっと待ってね。あの、そこの皆さん! 私達、敵じゃないです! こんな姿だけど』
見るも異様な威容、それは圧倒的な存在感で原初の記憶を呼び覚ます。
サヴァイブと呼ばれる特殊なマン・マシーン・インターフェイスを使う桜も、繋がった鬼神ルシフェルを通じて感じた。
鬼神ルシフェルは知っている……あの邪神のことを。
周囲の鞠華達からも声があがる。
『いけるっ、これならいけるよ! ……じゃあ、こっちもちょっぴり本気、出しますかっ』
『おうこら、鞠華っ! 本気出してなかったのかよ!』
『もう、嵐馬くーん? これからは、本気と書いてマジと呼ぶやつだよ? ……マジ、超やばいから……本当のっ、全力全開だよっ!』
それは熱を超えた光に包まれた。
この場に集った戦士達のエネルギーが、熱量が支配する物理法則を書き換えてゆく。あまりにも不可解な現象の中、ゆっくりと巨大な落下物が衛星軌道上へと持ち上がる。
徐々に落下コースを離脱し始めたのだ。
だが、ゴッドグレイツが削る速度を超えて、歪な芽が伸び始めていた。
それはまるで大樹のように、どんどん枝葉を広げてゆく。
「やはり……中に残された生命、その願いが利用されている」
「くっ、じゃあ……その生命を……断つしか、ないのか? そういう道しかねえのかよ! リリスッ!」
その言葉に応えたのは、以外な人物だった。
『桜さんっ、僕が行きます! ダイヒロインからマリンアークを切り離してください……ここに宇宙服もありますし。……この、全身タイツみたいなピッチリ、着たくはないですけど』
誰もが機体の制御で必死な中、声をあげたのはツトムだった。
そして、合体を解くダイヒロインから、マリンアークが浮かび上がる。すぐに桜は鬼神ルシフェルにそれを拾わせ……真っ直ぐ巨大な鋼鉄の世界樹へと飛び出したのだった。
登場人物紹介
😷鎧装真姫ゴッドグレイツ
https://kakuyomu.jp/works/1177354054882022630
・真薙真:高校生。巨大ロボSV操縦の訓練生、あだ名はベイルアウター。
👭魔導少女リリウス☆セレナーデ
https://kakuyomu.jp/works/1177354054883363547
・アヤカ:中学生。太古の遺産リリウスで、凍った世界のために戦う。
・ハナ:中学生。アヤカと共にリリウスに乗り、生命を削って戦う。
♠魔神閃鬼デビルオン
https://kakuyomu.jp/works/1177354054882730026
・御門桜:高校生。巨大ロボット、鬼神ルシフェルを駆る熱血少年。
・リリス:桜を導く、謎多き神秘的な美少女。
👗聖女禁装ゼスマリカ.XES-MARiKA
https://kakuyomu.jp/works/1177354054883341204
・逆佐鞠華:ウィーチューブの女装配信主。根は熱い頑張り屋。
・古川嵐馬:歌舞伎の女形おやまの青年。女装コンプレックス。
・星奈林百音:ニューハーフの青年。お気楽な小悪魔キャラ。
💴労基ラブコメ ぼくとツンベアお嬢様
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884554542
・若倉ツトム:高校生。借金返済のため、八頭司ヤトウジルアに雇われている。
🔥機動彼女ダイヒロイン
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884085967
・天地英友:高校生。無能力者だが、美少女型巨大ロボ、タラスグラールを駆る。
・瑪鹿真心:高校生。地球圏最強のヒーローにして、タラスグラールの動力源。
・姫小狐:高校生。無能力者だが英友の親友で、ヒーローオタク。
・アーリャ・コルネチカ:高校生。無能力者で、口うるさいクラス委員長。
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