第2話 告白
「レオちゃん!朝よ!」
いつも通り鈴乃の声で気持ちのいい目覚め。
目覚ましなんて必要ない。
「すぐに降りてきてね」
そう言い残して鈴乃はキッチンのある一階に降りていった。
零王の家は二階建てで零王の部屋と鈴乃の部屋、あとは物置部屋があるのが二階。
リビングとキッチン、ダイニングに和室などがあるのが一階。
風呂ももちろん一階だ。
昨晩は鈴乃が
「お風呂一緒に入ります?」
なんて言ってきて……
確かに望んだけど……
望んだけど違うんだ。
あまりにも分岐点がありすぎるんだ。
これは大人まで我慢だ。
そう自分に言い聞かせて『いいえ』を選択した。
朝は食パン、これに決まりだ!
まぁ別に食パンくわえて登校する気は無い。
むしろそんな状況なら遅刻大歓迎だ。
さっさと食パンを口に押し込むと鈴乃に食器を渡して零王は部屋に戻る。
タンスから制服を取り出して着替える。
今は夏季なので半袖のシャツだ。
着替え、歯磨き、準備、すべて終わらせて現在出発20分前。
鈴乃も洗い物を終わらせて着替えに来たみたいだ。
その足音を聞いてつい妄想が出てしまう……
「レオちゃん!ちょっといい?」
「え?あ、うん!いいよ?」
ドアを開けて入ってきたのは鈴乃だ。
だが、シャツのボタンは開いたまま。
「今日のブラ、似合ってる?」
いつもならこんなこと絶対に言わない鈴乃が言っている理由、もちろん分岐能力のせいだ。
「……似合ってるよ」
少し目線をずらしながら横目で鈴乃を見る。
だが、目線の先には
『ブラを変えさせる道』
『ブラはそのままの道』
『パンツも見させる道』
(三択かよ!一番と3番はありえない!
俺の中のジェントルマンが傷つく……)
零王は少しの未練も残しながら『ブラはそのままの道』を選択する。
選択肢が消えると鈴乃はシャツのボタンを閉めてしまっていた。
(全く見えなかった!
選択肢に邪魔されて……
安堵したような残念なような……)
「ではレオちゃん!行きましょう!」
支度を済ませた鈴乃が元気に声を上げる。
戸締りもしっかりしていつものように学校へ向かう。
いつもの交差点……
昨日あったはずの事故の痕跡は見当たらない。
二人が来なかったルートは事故の起きないルートだったのかもしれない。
元気に青信号を渡る鈴乃の背中を見て、昨日の光景がフラッシュバックする。
血まみれの道路と狂気に満ちた鈴乃の眼。
いくら消えたルートだからといってあれが嘘ではないのだ。
確かに鈴乃の中に眠る『ナニカ』なのだ。
そうとも知らずにウキウキなテンションで学校に向かう鈴乃を追いかけて零王も学校に向かう。
途中、いくつも試練があった。
綺麗なお姉さんを見かけて……
選択肢は妄想が膨らむ限り消えない。
もちろん『いいえ』を選択したが本心は『はい』一択だ。
なんとか試練を乗り越えて学校にたどり着く。
「ふぅ、やけに疲れたな」
「そうかな?」
鈴乃は零王の隣のクラスだ。
残念だが同じではない。
教室前で分かれ、零王は自分の席に向かう。
零王の席は一番後ろ 窓側。
最も素晴らしい席だ。
だが、隣の人が問題である。
零王の隣は学校一のマドンナと言われている
スタイルのいい体に童顔。
声も綺麗で天使の囁きだ。
妄想の根源と言っても過言ではない。
隣にいるだけであれやこれや。
『いいえ』の選択が止まらない。
(だが、こうやって見ると、つまらない妄想ばっかしてるな……)
パンツ見える……とか、
胸が揺れる……とか、
「変態かよ!」
しょうがないのだ。男子なら当たり前。
だが、その当たり前が当たり前じゃない形で実現されている……
しかも、『いいえ』を選択することでそれらはなかったことになるのだ。
零王だけは覚えているのに、周りの人間どころか本人さえも知らないのだから……
授業終了後、
「零王くん!」
石田が話しかけてきた。
「石田さん、何か用?」
「も〜、そろそろ石田さんってやめてよ、
ミルクでいいからさ!」
「いや、でも……」
「でもはなし!ほら!
リピートアフターミー、ミルク」
「み、ミルク……」
「はい、よく出来ました!」
「……で、用は?」
「いや、別に用はないんだけど……」
(なんだろう、この焦らした感じは……)
「何かあるなら隠さないで言ってほしいな」
「……うん、分かった!」
石田は頷くと零王の耳元で囁いた。
「今日の放課後、1人で屋上に来て」
「へ?」
一瞬意味がわからなくなった。
「お願いね」
返事も待たずに女子グルーブに混ざりに行ってしまった。
(これはもしかして、自分の妄想が現実化したのか?)
信じられない、マドンナがこんな誘い……
ドキドキが鳴り止まない胸を抑えながら2時間目に挑んだ。
だが、隣が気になってしまう。
妄想の制御ができない。
本能のままに……
そんな言葉はイケナイぞ?
だってそんなことになったら学校なくなっちゃうから……
なんとか放課後まで乗り切った。
鈴乃には先に帰ってもらった。
約束通り屋上に向かう。
扉を開け、屋上へ出ると既に石田がいた。
「いし……じゃなくてミルク、
待たせてごめん……」
「うん、別にいいよ!」
「は、話って何?」
「それがね……」
石田は零王に距離を詰める。
それは息のかかる距離まで近づく。
「わたし……零王くんのことが好き!」
妄想はしていたがやっぱり直接言われると違うな……
胸に刺さる感じが……
でも、分かった……
やっぱりこれは能力のせいだ。
じゃなきゃマドンナが自分なんかを好きになるわけない。
悲しいがそれが現実なのだ。
「ねぇ、返事は?」
「……悪いけど「ダメなの?」!?」
泣きそうな目を見せつけられて心が痛む。
「どうしてダメなの?」
「それは……」
「やっぱり鈴乃ちゃんが好きなんだね」
「……」
そうかもしれない、
命をかけてまで守ろうと思えた相手。
好き以外の何者でもないのかもしれない。
だが、零王にはまだ分からない。
この感情がなんなのか……
「ねぇ、どうしてもダメ?」
「……あぁ、ダメだ、ごめん」
「そっか、だよね。うん、ごめんね」
「いや、こちらこそごめん」
「うん……じゃあね!」
涙で濡れた瞳を隠すように走り去るマドンナ。
心痛むがこれでいいのだ。
能力なんかじゃ愛は作れない。
学校を出て家に帰る。
家の鍵は空いていた。
「ただいま!鈴乃?」
返事がない……
「いるのか?」
一階にはいなかったので二階に上がる。
自分の部屋にはいないことがわかり、鈴乃の部屋を開く。
「すず……の?」
その目に飛び込んできたのは大量の血でカーペットを濡らした鈴乃だった。
「鈴乃!?大丈夫か!」
急いで駆け寄るがもう息はしていなかった。
「……なんでだ?……なんで鈴乃が?」
思い当たる節がないのだ。
涙で濡れた視界の中にそれらはまた浮かび上がってきた。
『告白を受ける道』
『告白を受けない道』
今は告白を受けたルートを進んできた。
つまり、逆を行けば鈴乃は死ななかったかもしれない。
零王はいそいで『告白を受けない道』を選んだ。
『告白を受けない道……が選択されました』
そしてまた、光に包まれた。
「レオちゃん!かえろ!」
目を開くとやはり鈴乃が目の前にいた。
「あ、あぁ!」
一緒に帰れば問題ないはずだ。
予想通り何事もないまま家にたどり着いた。
だが、注意するのは鈴乃の部屋、
何かがいるかもしれない。
二階に上がり、そっと覗く。
(何もいない……か)
ひとまず安心だ。こっちルートが正解だったようだ。
「レオちゃん、私の部屋に興味があるの?」
覗く零王を見て鈴乃はそんな質問をしてくる。
「あ、いや、違うよ?」
「そう……」
(なんでちょっと残念そうな顔をするんだ?)
その日の夜、妄想どおりの晩御飯を食べた。
妄想のせいなのだが鈴乃の暴走はなんとか止めることができた。
寝る前、
『鈴乃と添い寝する』
『鈴乃に添い寝させてもらう』
という選択肢が現れた。
どっちにしろ添い寝は確実な夜らしい。
悩んでいると鈴乃が部屋に入ってきた。
「レオちゃん……一緒に寝てもいい?」
「いいけど……」
「ありがとう、怖い夢を見ちゃって……」
「どんな?」
「私が知らない人に
部屋で刺されちゃって……
レオちゃんがそれを見て泣いているの」
「……そうか、一緒なら大丈夫だろ?」
「うん、レオちゃんとなら大丈夫だよ!」
「じゃあおやすみ」
「おやすみなさい……」
電気を消してひとつのベットに二人で眠る。
しばらくすると隣からは鈴乃の寝息が聞こえてくる。
(鈴乃は違うルートの記憶を少しは持っているみたいだ……)
さっきの夢はきっとその影響だろう。
選ばなかったからと言って観世をやに消えた訳では無いようだ……
これで鈴乃が恐怖心にとらわれなければいいのだが……
そう思いながら零王は眠りに落ちる。
脳内妄想が現実で起こる件について プル・メープル @PURUMEPURU
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