脳内妄想が現実で起こる件について

プル・メープル

第1話 目覚め

新和泉しんいずみ零王れおは普通の高校生、だった……


過去形なのは今は違うから。


零王は今、交通事故にあって生死をさ迷っている。



30分前、


「じゃあな、零王!」


「あぁ、また明日な!」


そんな挨拶をして友達と別れる。


明日も会える、そんなことを考えてはいなくとも、当たり前のように定着しているのだろう。


零王も荷物をまとめてカバンを持ち上げる。


教室を出たところで声をかけられた。


「レーオーちゃん!かーえろ!」


「鈴乃、まだいたのか」


彼女は八宮はちみや鈴乃すずの


零王の幼馴染でいつも一緒に帰っている。


というか、事情があって一緒に住んでいる。


両親は二人とも外国に転勤していて、家には二人しかいない。


今日は委員で遅くなったのだが、待っていてくれたのだろうか。


「ふふっ、ちょっと話し込んじゃってね」


「まー、そうだよな」


こいつが待つなんてことできるわけない。


いつも俺よりも先に突っ走って、後処理をするのはいつも俺。


迷惑ではない、むしろしてやりたい。


やってやらなきゃ鈴乃が不幸なことになるような気がしている。


「ねー、早く帰ろ!何ぼーっとしてるの?」


「あ、いや、何でもない」


「変なレオちゃんだね」


二人は並んで校門を出た。


遅くなったからか、人はあまりいない。


会話も門あたりでネタが尽き、静かになる。


別になにか話したいことがある訳でもないから無理に話さなくてもいいのだが、

零王は沈黙があまり好きではない。


「な、なあ、鈴乃!」


無理に話題を絞り出して声をかける。


「なに?レオちゃん」


「あ、えっとー、鈴乃は駅前のケーキ屋行ったか?」


「ううん、まだだよ」


「じゃあ今度一緒に行こうぜ!」


「いいよ!レオちゃんの奢りね!」


「あぁ!って、ちゃっかりしてるな……」


そこからはまた沈黙、


交差点に差し掛かり、青信号を渡る。


「レオちゃん!どっちが早いか競走だよ!」


そう言って鈴乃は走り出す。


「ちょ、まてよ!転ぶなよ!」


「わかってるよ!

早くしないと負けちゃうよ?」


零王も走って追いかける。


鈴乃はかなり脚が遅い、あっという間に距離を縮められた。


だが、零王の視界の橋に、猛スピードで走る赤い車が映った。


「ま、まて、鈴乃!」


「レオちゃん、おそいよ?」


「とまれ!危ない!」


「え?」


車に気づいた鈴乃は膝から崩れ落ちてしまった。


「なにやってんだ!向こうに走れ!」


零王は走りながら叫ぶ。


「む、無理だよ……、あ、脚が……」


鈴乃の脚は震えていた。


「くそっ!」


間に合うか分からない。


でも、可能性は捨てたくない。


俺の代わりに鈴乃が生きるなら!


零王はカバンを投げ捨てて走った。


赤い車が交差点内に侵入してきた。


「届け!」


零王は最後の力を振り絞って鈴乃に向かってダイブする。


「ふわっ!」


そして鈴乃の体を力任せに突き飛ばす。


軽い鈴乃は簡単に飛ばされて車線から外れる。


「よし!」


だが、赤い車は止まらない。


零王の体が地面につく前にフロントが腹部を突き刺していた。


零王の体は異様な音をたてながら宙に舞う。


赤い車は止まることなく走り去って行った。


割れたガラス片が体に突き刺さり、骨も折れたようだ。


「れ、レオ……ちゃん?レオちゃん!!」


鈴乃が駆け寄ってくる。


「なんで!?なんで私なんかを助けたの?」


零王は声になるかわからない声で話す。


「お前……だから助けたん……だ」


「私……だから?」


かすれた視界でも鈴乃が泣いていることがわかる。


涙が一滴、また一滴と零王の頬にこぼれる。


「死んじゃいやだよ……レオちゃんが死んじゃったら……誰が……私のお婿さんになるの?」


「ふ……まだ……いってる……のか?」


「私はずっと信じてるから!

だから……死んじゃいや!」


顔を零王の胸にくっつける鈴乃は大声で泣いた。


「ごめん……な、すず……の……」


「レオちゃん?レオちゃん!

レオちゃん!?何か言ってよ!ねぇ!ねぇ……」


完全に失われた視覚と聴覚。


感覚が全て失われていくのを感じた。


(もっと生きたかった……

鈴乃と一緒にいたかった……

もう一度、やり直したい……)


このまま天国か地獄か、はたまたさ迷うのか、分からないが自分は消えてしまう。


そう感じ、目を閉じる。


だが、しばらくしても何も変わらない。


恐る恐る目を開けてみると……


(?なんだこれ……)


目の前には赤色と青色、2枚のパネルのようなものがある。


赤色には

『死を受け入れる』


青色には

『やり直す』


そう書いてある。


(やり直す?生き返れるってことか?)


零王は青色の方に手を伸ばす。


選択されたのだろう、パネルは消え、今度は別のパネルが現れる。


『本当にやり直しますか?』


そう書かれた下に2枚のパネルがある。


緑色には

『はい』


黄色には

『いいえ』


(なんなんだ、これは……夢?)


零王は緑色に手を伸ばす。


(どうせ夢なら……幸せな夢を!)


パネルは消え、辺りが真っ暗になる。


『はい、が選択されました』


そう表示された直後……


暗闇が白い光に包まれた。


その眩しさと温かさに零王は目を閉じた。




「レ……ん!」


声が聞こえる……


「レオちゃん!」


「は、はい!」


「何ぼーっとしてるの?」


あれ?鈴乃?


「大丈夫?」


「……鈴乃?鈴乃か?」


「そ、そうだけど?」


「い、生きてるよな?俺、生きてるよな?」


「当たり前じゃん?」


「生きてる!生きてるよ!」


「変なレオちゃん……

ほら、早く行こ!先に向こうついたら勝ちね!」


そう言って鈴乃は走り出した。


見てみるとここは……


(交差点!?)


「ま、まて!」


とっさに鈴乃の腕をつかむ。


「そ、それはルール違反だよ!」


「いいから待て!」


その直後、赤い車がものすごい速さで通過して行った。


「え、あれ……」


その車はほかの車と衝突し、奥の方で止まった。


だが、被害を受けた車や運転手、乗っていた人などはボロボロの姿になっている。


「え……あ……」


自分が走っていればはねられた可能性もある。


その恐怖に鈴乃は座り込んでしまう。


「あ……あ……」


「大丈夫か?」


「レ……オ……あ……」


虚ろな目で零王を見上げる鈴乃


その姿はもう、恐怖に飲み込まれた者の姿だった。


炎を上げる車から血を流した人や服に引火して悶えている人、体の一部が無い人など、


様々な人が這い出てくる。


「あ……あ……ダメ、来ないで!」


「大丈夫か!?誰も鈴乃に近づいていない!正気に戻れ!」


「こないで!こないで!」


鈴乃はカバンを開いて中からカッターナイフを取り出す。


「私に触らないで!」


完全に焦点の合わない瞳でそれを振り回す。


「や、やめろ!」


必死に止めようとする。


だが、カッターナイフは零王の胸にグサリと刺さってしまう。


「ぐっ、あ……」


「あ……嫌!嫌!嫌!」


流れ出る血を見て鈴乃は叫ぶ。


「レオ……ちゃんを……私が?

そ、そんな……わけ……

ふ、ふはははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」


気が狂ったように笑い始める鈴乃は零王を刺したカッターナイフを両手で握りしめ、自分の胸に当てる。


「や、や……めろ!」


「レオちゃん……一緒に行くから……ね?」


消えかける意識の中、最後に鈴乃に刺さる刃が光って見えた。




「まただ……」


さっきと同じ赤と青の選択肢が現れた。


「やり直す……正解なのか?」


(分からない、でも!)


零王はやり直すを選択する。


次に現れたのは白と黒の選択肢。


白には

『30分前に戻る』


黒には

『15年前に戻る』


(15年前……鈴乃と出会った年だ。)


つまり、鈴乃と出会わないルートを歩くってことだろう。


(いや、俺は鈴乃を守る!)


零王は白に手を伸ばす。


『30分前に戻る……が選択されました』


そう表示された直後、また白い光に包まれた。




気がつくと……


(教室の前?)


「レオちゃん?帰ろーよ!」


目の前に鈴乃がいた。


さっきの狂った目ではなく、クリっとした綺麗な瞳だ。


「お、おう!」


だいたい分かってきた。


俺は成功する人生を歩む力を手に入れたんだ。


死なないルートを探さなくてはならない。


俺は周回者となり、人生の二周目、三周目を歩むんだ。


中二病くさいがこうなった以上、そう思うしかない。


そして死ねば選択肢が出てくる傾向にある。


一周目と同じように二人並んで校門を出る。


「あ、鈴乃!」


「どうしたの?」


「足りない食材はないか?」


「あ!そうそう!玉ねぎが……」


「じゃあ、買いに行こう!」


(よし、これで交差点回避)


二人はいつも行っているスーパーマーケットに入る。


買い物は鈴乃担当、零王はよく分からないから頼んでいる。


カートを押しながら店内を回る。


(今日はカレーがいいな……

でも、今日の夜はオムライスって言ってたしな……)


「レオちゃん!カレーにしましょう!」


「え?いいけど……」


「なんだかカレーが食べたくなっちゃった!」


(あれ?きこえた?わけないよな……)


その時、また目の前に選択肢が現れる。


「レオちゃんはにんじん好きよね?」


鈴乃がこちらを向く。


「あ、あぁ!」


「じゃあにんじん……あ、でもまだ余ってたから……」


どうやら鈴乃には選択肢が見えていないようだ。


また赤と青のパネル……


赤には

『カレーの道』


青には

『オムライスの道』


零王は迷わず赤を選択する。


(この選択肢、死んだ時以外も出るんだな……、

つまり、俺の予想だと俺が何かしたいな〜とか思うとルートが分岐して

、気に入らなければ

戻ることが出来る……のか?)


初めの分岐は俺が死にたくないって思ったから出てきたんだろう。


俺ははねられるルートを消して刺されるルートに進んだ。


そしてそれも消し、今のルートに進んだ。


つまり、今はオムライスを食べるルートを消して、カレーを食べるルートに進んだということだ。


「レオちゃん!なにやってるの?早くついてきてよ!」


「あ、ごめん!」


(これは……便利な力を手に入れたぞ!)


「なにニヤけてるの?」


「いや、何でもない」




買い物を済ませ、帰宅。


この力を使えばあんなことやこんなことを……


なんてこと、一般の男子なら考えるだろう。


あぁ、零王は一般の男子だ!


もちろん考える。


だが、正直そういうのは好きじゃない。


無理やり、なんて相手を傷つけるような真似はしない主義だ。


それにこの力、いつ、どこで、どうやって、使うのかがまだはっきりしない。


分からないうちは使わない方が良さそうだ。


そんなことを考えながらカレーを頬張る。


「レオちゃん、そんなに美味しい?

ニコニコしちゃって……」


「あぁ!美味いよ!」


「ふふっ、ありがとう」


明日はどんな日になるのだろう。


日常が日常でなくなるかもしれない。


そんなワクワクと少しの恐怖心とカレーライスを噛み締める零王であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る