第4話恩師の教え ②
いま自分は何をしてるのだろうか。
流れる音楽がクラシックで変わったあたりでふと考えた。
ここにきてからは完全におばあちゃんのペースだったので考える余裕がなかった。
入ってみたかっただけの理由で入ったのは果たして正解なのだろうか。
考えて自分でふっと笑みがこぼれた。
正解……正解か。
自分に最もわからない言葉じゃないか。
どこへいったって居場所一つ見つけられないのだ。
今日ここで一つ休んだところでどうなるというのだ。
明日は待ってくれない。
明日はどうすれば……
「焦らなくていいのよ。あなたはまだ若いんだから。」
ハッとして顔を上げる。
気がつくとおばあちゃんがすぐ後ろに立っていた。
そしてすぐ鼻腔にコーヒーの香ばしい匂いが届く。呼吸を忘れてたのだろうか。ここまで気づかなかったなんて…。
コトッとお盆が置かれる。
スヌーピーが書いてあるマグカップとクッキーが入ったお皿が入っていた。
このクッキー、なんだろう……。
ただのバタークッキーではなさそうなのだが、美味しいのだろうか……。
匂いはすごく美味しそうなんだけ……
「ジンジャークッキーよ。美味しいうちに召し上がれ。」
……まただ。
このおばあちゃんにまた心を読まれた。
どういうことだろう?
そんな考えまで読んだのだろうか、おばあちゃんはまたニコニコしながら
「ふふっ」と軽く笑うのであった。
小学生といえどもう四年生の凛は流石に超能力だとは思わなかった。
しかし、いつまでたっても考えてるのを読まれてはたまったものではないので
「なんでさっきからわたしが考えていることがわかるのですか?」と
素直に聞くことにした。
するとおばあちゃんは先程と変わらぬ笑顔で
「あら、ごめんなさいね。名前も知らない老人の発言なんて気味が悪かったでしょう。そのことは後でゆっくり話しましょう。さぁ、熱いうちにどうぞ。」
と言い、なんと自分は間を一つ挟んだ席に腰かけたのだった。
なんとなくはぐらかされた気分だし、この人次くるかもしれない客の準備はいいのかとも思ったが、せっかくのコーヒーが冷めるのも嫌だったので指示に従わせてもらうことにした。
まだ熱いコーヒーに少し息を吹きかけてから一口。
そして飲んですぐにわかった。
美味しい…。なんだか、自分が飲みたかったもののイメージ通りの優しい味だった。
思わずおばあちゃんの方を見てしまう。
するとおばあちゃんもわたしを見ていた。
「どう?美味しくできてるかしら。」
「はい、すごく美味しいです。」
心からの感想だった。
それもちゃんと伝わったのか、おばあちゃんはより一層ニコッと笑い
「良かったわ。ゆっくりしていってね。」と言ってくれた。
しばらくわたしのコーヒーを飲む音とクッキーをつまむ音のみが響いた。
余談だが、このクッキーもものすごく美味しかった。
そしてひと段落ついたと見たのか、おばあちゃんが声を出した。
「さっきの話だけどね……あなた、黒いのよ。」
「え?」
顔色が……だろうか?
「纏ってる空気がね、すごく濁ってる。わたし感性鋭いのよ。」
……でもそれとわたしの心を読めたことになんの関係が……?
そう考えていると「それと」とおばあちゃんが続けた。
「あなたからは何かが伝わってくるのよ。……その、なんていうのかしらね。
焦ったり悩んだりしていることを必死に伝えたがってるような……そんな感じでいたから不思議とわかっちゃったのよね。」
そうなのだろうか。そんなこと言われたことがなかった。
伝えることが上手い……か。なら何故私はひとりぼっちなんだ?
「まぁ、今回はたまたま合ってただけかもしれないけどね。さぁ、冷めないうちにコーヒー飲んで。おかわりしてもいいのよ。」
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「ご馳走様でした。」
結局その後コーヒーを一杯おかわりした私はおばあちゃんにずっと話を聞いてもらっていたのだった。
学校にうまく馴染めない自分、いじめてくるクラスメイトのことも愚痴った。
おばあちゃんは時折微笑んだり、相槌をしてくれてずっと聞いてくれた。
その姿はなんだか聞いていたというより聞き惚れていたようだった。
お代はいいと言ってくれた。若い子の悩みならいつでも聞く。またおいでとも言ってくれた。
帰りがけに呼び止められた。
「歌を歌うといいわ。」
急によくわからないことを言われた。
「人が感情を出すのに一番いいのは声に出して、言葉にすることよ。あなたは人並み以上に想いが伝わりやすいと思う。だから、歌を歌うといいわ。いつかきっと
誰かに届くから……。」
不思議としっくりきた。
歌手。
表に立つのは嫌だ。
でも、ネット界でなら。歌い手として……。
……やってみたい。
それが、その瞬間が、今の私の原点だった。
シュヴァルベンシュヴァンツ ミロク @Sky-hand-dantyo
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