第3話 恩師の教え①

凛がまだ小学四年生の時だ。

つるむのが嫌いで友達も少なく、勉強も得意でない。かといってスポーツができるわけではなかった。


そんな凛は周囲の生徒のいじりの対象となっていた。

靴を隠されたり、プリントが自分の分だけちぎられたりしていた。

だが親に心配をかけるわけにはいかない凛は毎日友達と遊んでいるという程で寄り道をして帰って来ていた。


凛には好きな場所があった。小学校からの帰り道をだいぶ外れ、町から少し離れたどことなく古びた一軒のカフェだ。


木でできた建物。町にはない独特の雰囲気とコーヒー豆を挽いているのだろうか漂ういい匂いが凛を手招きしているようだった。しかしその時の凛はお金を持っていなかったので入ることは叶わなかった。


後日、初めて入るときは緊張した。なけなしの500円玉を握りしめて木彫りの熊が飾られているドアをノックした。


カランコロンと鈴が鳴る。


どうやらドアの内側に鈴が付いていたようだ。

「はーい。いらっしゃっい……あらあら、可愛いお客様なこと。どうぞ、カウンターの方へ。」


中から出てきたのは80歳くらいのおばあちゃんだ。


なんだかイメージ通りすぎてなんかちょっと怖い。


店には他に誰も客がおらず、控えめなクラシックのみが流れている静かな空間だった。


思ってた以上に居心地がいい。


それに中に入ると外でも香っていたコーヒーの香りがより一層際立つのだ。


気に入った。しかしメニューはどうだろうと思い探してみるが不思議なことにカウンターにはメニューがなかったのだ。おばあちゃんに言えば貰えるのかなと思い声をかけてみる。


「すみませーん。あの、メニューって……」


奥からスリッパをパタパタいわせて出てきたおばあちゃんが朗らかに笑い

「この店にメニューはないのよ。今お客様が飲みたい飲み物だけ言ってもらったら付け合わせは私が決めて出すわ。それで、いま温かいのか冷たいのかどっちが飲みたい?」


……すごいことを言うなぁ…

初めて見るタイプの店に戸惑いを隠せない。


「あ、あの私500円しかないのですが……。」

「いいのよ〜別にお代なんて。今日は私の気分がいいからね。」


気分でいいのか……


「じゃ、じゃあ温かい飲み物で……。」

「わかったわ。少し待っててね。」


終始おばあちゃんは笑ったままだった。

……そういえばまだ名前も知らないな……。


まだまだこの店には、不思議が多い。




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