第2話 蛹の少女

はぁ………


何もうまくいかないな。


見上げた空は快晴で、雲1つ見当たらなかった。


背筋も凍る冬の冷たい風が吹く月曜日の5時間目、速水 凛は暇を持て余していた。

勉強ができるわけではない。


テストは平均をちょっと下回るぐらいで、体育も全然得意でない。今だって数学の教師が前で何か話しているが凛には何を言ってるのかイマイチピンとこないのである。もともと数学は好きではない。決められた答えを見つけるのが苦手だった。国語にはまだその要素が少ない。


それに凛には数学とは一切関係のない得意なことがあった。

歌を歌うことだ。

これは誰にも秘密の仕事でもあった。

机の下に手を伸ばしスマホを取り出す。

席は最後尾窓際の絶対バレない席のため凛は悠々と授業中にもスマホを触っている。


「……「another world」それに「クロステッド;ゼロ」か……。」


うーん、微妙。リクエストの年代がなぁ……。

歌えないことはないのだが、イマイチ気乗りしない。


最近はずっとこんな感じだ。

歌を歌いたくない。

それがずっと続いている。

もちろん人からのリクエストは後を絶えない。

誰もが<butterfly >としての凛の活動を待ちに待っているのだ。


そんなもの断りたい。

思えば自分が歌い始めたのはちょっとした軽い気持ちだった。

中学一年生の時友達とカラオケに行った時

「凛って歌上手いねー!!歌手とかもいけるんじゃない?」と煽られたのが始まりだった。


当然そこまで自惚れていたわけではなかった。

自分は人よりも少し上手く歌える。

その時はその程度の自覚だった。


それから少し経ったある日。

テレビで歌番組をしていたのを親が見ていた。

映っていたのは最近SNSでも話題のジャニーズ系。

踊って歌ってしている様を見た凛は

(音が変に聞こえる。

歌い方も変だ。なんだか聞いてて疲れる。)

という感想を持った。

母親に「なんかこの人、下手じゃない?」

と言ってみたが「そうかしら?まぁ顔が良ければいいのよ。」と三十路も過ぎた親から言われた。

ダメだこの人。あてにならない。

そう考えた凛は仲のいい友達数人に意見を求めてみたが、結果は同じだった。


自分が変なのだろうか?

そう考えた時も何度かあった。

しかしそれでも凛の意見は変わらなかった。

そして次第に凛の中ではある考え、いや希望が生まれていったのだった。








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