シュヴァルベンシュヴァンツ

ミロク

第1話 出会い

「———————叶えたいのは君か?」

裕次郎は思わずため息をついた。

……ああ、やっぱりいい。痺れるなぁ。

ヘッドフォンを手で抑えて歌に聴き酔い入れる。

この時間が大好きだ。

しかし裕次郎にはこんな幸せな時間は長くとれない。

部活で剣道をしているためだった。

週一土曜日のみオフ、一ヶ月に一回日曜日がオフ。

休みはそれだけだった。

練習は厳しく裕次郎も毎日疲れて帰っては寝る生活だ。

それでも自分はこれでいいと思っている。

腕も上がって来た。

県大会でいい結果も何度か残した。

しかし最近は少し違う。

約二週間ほど前のことである。

裕次郎は自分にある違和感を抱いていた。

腕がなかなか上達しないのだった。

同期がメキメキと最後の公式戦に向けて腕を磨いている一方で自分だけがイマイチ伸びることができない。

裕次郎はそのストレスをネットで発散しようと日課の筋トレをサボってYoutubeにのめり込んだのだった。

ツイッターで愚痴るのは違う。

そこらへんはしっかりとしていたので誰にも迷惑がかからないよう動画を見るだけにした。

色々な動画を漁っていた。

その中で1つ、裕次郎の目を引いたものがあった。

「walking grave…?」

grave…重々しくと書いているのにサムネは鮮やかな色で埋め尽くされていた。

真ん中に一人の少女。どうやら歌の動画のようだ。

投稿者は「butterfly 」再生回数も10万を軽く超えていた。

こんなに人気な歌があったのか。

「聞いてみるか……。」

裕次郎の好奇心が疼いた。

画面が切り替わり、そこにはカラフルな道が行き交う異世界と一人の少女。

5秒ほど経った時だった。

ズンッ…!!

「!?」

驚くほど低いベースの音が裕次郎を襲った。

そしてそれからすぐに——————————————————————————

「想い1つ。遥か彼方へ。返事を求めて————歩いてゆくよ。」

ベースの音が消えた。

いや、正しくはこの声以外全ての音が裕次郎から消えた。

それが裕次郎が「butterfly 」に惚れた瞬間であった。



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